その妹、強烈につき
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及川徹という男の事は青葉城西に入学する前から知っていた。
中学時代の最後にベストセッター賞を取った凄い奴。
まあ最初の認識はそんぐらいだったけど、いざ実際にチームメイトとして及川を知っていく度に思った事は「よくモテる奴」。ま~ホントによくモテるよね。入学してから上級生のお姉さま方に可愛がられ、2年生になってからは後輩からの黄色い声援も加わりそれはもう凄かった。
本人は根っからのモテ男らしく、女子には自然と優しかった。心のどっかで、嗚呼こいつ女姉妹が居るから女の扱い分かってんだろうなぁ、と思っていた。それを何かのきっかけで聞いてみた時、及川は笑いながら「よく分かったね」と言っていた。
終始ヘラヘラしている人間なら嫌いになっていたかもしれないが、バレーに対しては恐ろしい程ストイックで誰よりも練習に励んでいた。幼馴染の岩泉とは阿吽の呼吸で、こいつらの連携プレーに何度助けてもらったかは覚えてない。
とにかくまあ、部活は楽しい。及川がモテるのは正直鬱陶しいけど、部活は楽しい。
――あの、すみません
あれはいつだったか……2年生の夏だった気がする。体育終わりでどうしようもなく暑くて、袖を肩までめくって下敷きで顔を扇ぎながら教室に入った時だった。1年生の女の子に呼び止められた。彼女も暑いのか、頬を少し赤らめながら俺を呼び止めたのだ。
――ん?
――及川徹を呼んでもらっても良いですか?
俺は察したよね。これはいつもの告白パターンだと察したよね。
及川は窓際の席で数人と話していた。呼んでやると、顔を上げたあいつは彼女の顔を確認するなり「ああハル」と何事もない様に名前を呼んで近付いた。
そのナチュラルさたるや、彼女は及川にとって特別な子なのだろうとすぐに分かった。いつもは気持ち悪いぐらいのニコニコ笑顔を女子に振りまくくせに、彼女には素の及川徹で接しているのだ。え?この子お前の彼女か何か?
――今日急にバイト入ったから、夜は適当になんか作って食べて
――えー?めんどくさいからハルが帰ってくるの待つ
――遅くなっても良いの?餓死しちゃうよ?
――それは困るな
――でしょ?
………ん?
同棲?同棲してんの?
思わず二人の会話に入ってみれば、及川は一瞬きょとんとした顔をした後、笑った。
――ああ、マッキーは知らなかったっけ
――こんにちは。私、及川ハルって言います。及川徹の妹です
冷静に見てみればよく似ている。美男美女って所かな。あの当時のハルは一年生って事もあって、制服の初々しさがまた何とも言えず可愛かった。あんな可愛い妹が居て羨ましいよホント…、と何度か及川に言った事がある。その度にあいつは「可愛い?ウン、ソウダネ、可愛いとは思うケドネ」と何とも微妙な反応をしていた。その意味を知ったのは、彼女が岩泉一に惚れているという事実を聞いてからだった。
いや、確かに岩泉はかっこいいと思うよ?よく見たら男前だし、誠実だし、実は女子から人気が高いのは知ってる。だからさハルちゃん、君は自分の容姿をもっと利用してだね、普通にアピールすれば彼は落ちると思うんだけどねぇねぇハルちゃん聞いてる?
「花巻貴大ウルサイ。次喋ったらその口をまつり縫いするから」
「何でまつり縫い」
「その方が糸が表に目立って出てこないでしょう」
「………」
やだ怖いハルちゃん。その据わった目はやめて。いつものキラキラ可愛いハルちゃんに戻って欲しいと思うんだ花巻お兄さんは。
現在俺と彼女が居るのは校内にある自販機脇の草陰。隣の彼女は完全に同化してい、最早気配が自然そのものだ。確か今年の春に及川がハルが遂に忍みたいに気配を消せる様になったと妹の奇行を嘆いていた気がする。意味が分からなくて全力で馬鹿にしたが、すまん及川、こういう意味か。
「今日もかっこいい……!明日もきっとかっこいい!明後日もきっとかっこいい!!!」
「ハルちゃんの方がうるさくね?」
植え込みに顔を押し付けてキャーキャー恥ずかしがる彼女。コラやめなさい、可愛い顔に傷がついたらどうするの。
「では貴大君、頼みました」
「了解。このジュースを岩泉に渡せば良いんだな」
「はい」
「じゃあハルちゃん」
「はい」
「俺にものを頼むのは良いんだけどさ」
「はい」
「植込みに引き込んだりさ」
「はい」
「植込みに押し込んだりさ」
「はい」
「今日みたいにドロップキックで俺を引き止めるんじゃなくてさ」
「はい」
「普通に呼び止めてもらいたいな僕は」
「貴大君」
「はい」
「早く行ってきて」
「…はい」
何で正々堂々と渡せないかなこの子は…。鋭い視線に促されるまま、向かうは先の方で松川と話している岩泉の所。
「よっこらせ、っと」
「貴大君」
「んー?」
「ありがとうございます」
「ん」
岩泉にジュースを渡すぐらいで何をこんなに照れてんだこの子は。耳まで真っ赤にしている彼女の頭をよしよしと撫でながら俺は立ち上がった。
「では花巻貴大向かいます」
「うむ」
俺的にはこのミッション凄く簡単なんだけど…恋する乙女からしたら一大イベントなのか?まあよく分からんが、渡すぐらいならいつでもしてやろう。只今日のドロップキック効いたわー…。
「岩泉、差し入れ」
「俺に?」
「やるねぇ岩泉」
一緒に居た松川が茶化しながら岩泉の肩に腕を置く。女の子から、と付け足せば首を傾げる岩泉。思い当たる節が無いってか?お前どんだけ鈍感なの。
「え、マジで分かんねぇの?」
「あー、やめとけ松川」
「俺たち経由で差し入れ持ってくるっつったら、ハルちゃんしか……――」
と、言いかけた所で俺の目の前を何かが通った。一瞬で分からなかったけど、それは近くの木に刺さったらしく、3人で顔を向ければそこには一本の針が刺さっていた。
「何だあれ」
ぼんやりと針を眺める岩泉はほうっておいて、俺たち二人は飛んできた方向を振り返る。そこには吹き矢を持つハルが居た。顔の表情としては「次余計な事を言ったらあてるぞ」だ。
「………あ、そういや今ハルの名前が…」
「出てない出てない全然出てない!!!!!!!!」
「?松川が言…」
「言ってない言ってない俺一言も言ってない!!!!!!」
「??」
ハルちゃん、頼むから正々堂々勝負して!俺たち全力で応援するから!だから忍の技を使うのはヤメテ!花巻お兄さんからのお願い!!