その妹、強烈につき
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いつからかよく覚えてないけど、俺は「天才」が嫌いだ。多分、自分がそうじゃないってのを幼い頃から理解してかたらだと思う。え?やっかみじゃないし。
けど、その分「努力」というものは自分を裏切らないのをちゃんと分かってる。真剣に努力をすれば必ず自分に還ってくる。それで試合に絶対に勝てるかってなったら話は別だけど…。
――お兄ちゃんは、バレーが上手だねえ
当時5歳だった妹のハル。庭で練習をする俺を見てニコニコと笑っているその様子はとても可愛かった。
――お兄ちゃんは、いっぱいいーっぱい練習してるもんねぇ
のーんびりとした喋り方。何が楽しいか全く分かんなかったけど、俺がボールを上げる度に小さな頭を左右に小さく且つリズミカルに揺らしている。姉にくくってもらったサイドの髪も揺れていた。
――お兄ちゃんはすごいねえ
ハルの足元に転がったバレーボール。それを持ってきてくれた彼女が、渡すついでに背伸びをして俺の頭をよしよしと撫でる。
――お兄ちゃんはかっこいいよ
そうだろうとも。当時から俺はイケメンだったからね。でもハルも整った顔立ちをしていた。愛らしい容姿と、優しい性格、そして末っ子という事もあり、家族全員から蝶よ花よと育てられた。
――なあ、ハル
ボールを持ってきてくれた妹の前にしゃがむ当時の俺。彼女も真似てしゃがむ。小さな体が更に小さくなって、愛らしさもまた倍増だ。
――なあに?
――俺、バレー楽しいよ
――うん、とっても楽しそうだね
――これから練習がんばる。ハルは俺の事応援してくれる?
――ずっとお兄ちゃんを応援するよ!
俺の努力を、彼女は小さな時から見守ってくれていた。ずっと応援してくれると言ってくれた。試合に負けて悔しかったり、怪我したり、チームメイトと喧嘩したり、子どもながらに色んな事を経験してる間もハルはずっと応援してくれていた。
それが何よりの励みであり、喜びだった。
そして時は流れ、現在高校3年生の俺。
青葉城西の男子バレー部に所属し、それはもうこの超絶整った顔のお蔭で華やかな高校生活を送ってる訳だけども……
「はあ~~~今日もかっこいい……!!」
ハルも勿論成長して、現在高校2年生。俺と同じ青葉城西の生徒として女子高生の生活を謳歌している。髪質は癖っ気のあるセミロング。スラリと長い手足。整った目鼻立ち。並んで歩けば兄妹なのだからやはり似ている。という事はかなりの美人に育ったのは良いけど…。
「かっこいい……!!!」
あの当時のハルのかっこいい対象はきっと俺だった。うん、お兄ちゃんはそれが凄く嬉しかったんだけどね。でも、今は違うもんネハルちゃん。
「お兄ちゃん今の見た!?欠伸したよ!?」
「欠伸ぐらい誰でもするから!!!!」
電信柱の影に隠れてキャーキャー言ってる妹の後ろ襟を摘み上げて歩き出す。
「不審者ごっこ終了で~す」
「不審者じゃないもんファンだもん!!」
「何年越しのファンなのさ」
俺の方が背が高いから、彼女は無意識に上目づかいを駆使して睨んでくる。その顔さえやはり綺麗なのだから、俺はため息をつかざるを得ない。
え?
どうしてかって?
そりゃ外見と相反して中身が少し残念に育っちゃったんだから、どこで育て方間違えたかなって思うと悲しくなっちゃうよね。
「ほら行くよ」
「あわわわわわ近い近い無理無理眩しすぎて見えないから私はこれでおさらばする!!」
「あ!こらハル待ちなさい!」
「バカめそれは残像だぁ!!」
俺の手から華麗にすり抜けた彼女は、登校で賑わう通学路に忍の如く紛れて気づけば姿も気配も無くなっていた。
「ん?今ハルと一緒に来てなかったか?」
「岩ちゃん、それは残像です」
「は?」
意味が分からない、と顔に書いてあるけど、これは事実です。岩ちゃんこと幼馴染の岩泉一が好き過ぎて好き過ぎて好き過ぎてツライよ~、の我が妹は彼の眩しさを直視出来ないでいる。なので、毎朝遠くの方から彼を見守ってる次第だ。そしてある程度の距離からは近づけないので、ああして姿を消すのである。去年までは生徒の間を猛ダッシュで駆け抜ける程度だったんだけど、毎朝の行いで気配を消す技を覚えたらしい。怖いよホント。恋って怖い。女の子を変え過ぎだから。
「岩ちゃんも罪な男だねぇ…」
「あ?」
気のせいでなければ遥か先から彼女の声が聞こえる。
――おはよう渡君!今日もやっぱりかっこ良かった!眩しすぎて前が見えなくて木とぶつかっちゃったよ!
渡っち、いつもあんな馬鹿な子に構ってくれて本当にありがとう。兄として主将として心から礼を言っておくね。っていうか木にぶつかったの?ちゃんと保健室行ってよね!?
「さっさと行くぞ」
「ウン……」
お兄ちゃんはあの子がとても心配です。
及川ハル。お兄ちゃん大好きっ子だった彼女は、絶賛この人に恋をしてイタタな子になってしまいました。
「……あの可愛かったハルちゃんを返してよ岩ちゃん……」
「何言ってんだ?俺がいつハルを取ったんだよ」
俺だけの天使だったあの頃のハル……戻ってきて……。
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