終わり良ければ?
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貴方が生きたその過去は、恥ずかしいものではないんですよ。
勢いよく立ち上がってみれば、銀さんは少し驚いた顔で私を見た。
「生きてきた知識ってやつですね!銀さん!」
そうです、生きてきたからこそ得た知識です!私達には無い感覚を寧ろ大事にしないと!ラッキーだと思わないと!その想いが銀さんに多少は通じたのか「そうだな」と言って小さく笑ってくれた。
やがてラグビーボールは爆弾じゃない事が判明して、安堵からの歓声が響き渡った。あちらこちらから、twitterで呟こう、だとか、フェイスブックの良いネタになる、だとか隊士らしからぬ声が聞こえてきたけど、もう知らん。さっきから携帯で現場を撮りまくってるけど、それももう知らん!
「はぁ…良かったぁ……今日もぐっすり眠れそうです」
「良かったなと言ってやりてぇが、沖田少年が呼んでんぞ」
「げ」
そうだ、自分の危険運転が消え去る事は無いのか!寧ろ数日前に既に発見してるから、通報義務を怠ったとして検挙されるんじゃ!?さよなら私の平穏な日常!こんにちは刑務所ストーリー!
「ここで待ってっから」
「何ですかそのニヤニヤ顔は…人ごとだと思って……」
愉快そうに手を振る銀さんに見送られ沖田君の所へ向かった。
「この看板広告、姉さんが数日前に現場責任者として立てたっつー話じゃないですかィ」
「その通りです…」
「通報してもらわねぇと困りまさァ」
「すみません…」
「不審物を見つけたすぐ通報。分かりやしたかィ?」
「肝に銘じます…」
「じゃ、お疲れっしたー」
「はい……………え?帰っていいの?」
「あんたに構ってられるほど暇じゃねーんで」
「マジですか……!ありがとう!本当にありがとう!」
「中々のハンドルさばきでした」
「どうも!」
いや~本当助かりました。沖田君って、銀さんから聞かされる以上のクレイジーぶりですね。自分で言うのもなんですが、あれだけの危険運転をした一般人を見逃すなんて職務怠慢としか思えないよ。今回はそれで何とか助かりましたけれども…。もう二度としませんという事を心の中で誓い、去っていく沖田君の背中に手を振っていると、彼が急に振り返った。
「?」
「“まだ”結婚はしてないんですねィ。する時は案内状ぐらい送って下せェ」
意地悪な顔で笑われたものですから何か言い返してやりたかったけど、妙に恥ずかしくなってそれどころではなかった。あれだけ冷えていた体が嘘みたいに熱くなって、きっと顔も真っ赤になったのだろう。S少年は満足そうに笑い、撤退準備をしている現場へ向かっていった。
**********
思いの外ベコベコにやられた車に乗り込み、銀さんも愛車へとまたがった。
「私がかぶってたヘルメット貸してあげましょうか?」
「安全第一とかかぶってる奴が危険運転しちゃ世話ねーわな」
痛いところをつかれ苦笑いをするしかなかった。さあ、私は今から上司に怒られねばなりません。定時で帰るとかほざいちゃったけど当分は無理そうです。修理費払えって言われたら本当どうしよう。
「じゃあ、また」
「おう」
シートベルトをしめて、ブレーキ踏んでエンジンかけて、ギアをいれかえサイドブレーキを下ろす。後は足を離すだけのところで、先に進んだはずの銀さんが、エンジンをとめたバイクに乗ったまま足を使ってこちらにバックしてきた。気がつけばまた隣にいた。
「ん?」
窓をノックされたので、なんだろうと思いサイドブレーキを元の場所に戻して窓を開けた。
「どうしました?」
「言い忘れてた事が一つ」
「どうぞ」
「今後一切真撰組とは関わらないように」
「私だって今回は好きで関わった訳じゃないデスヨ…」
暴走車と化した私を発見したのが真撰組なだけであって、いや誰が悪いと聞かれれば胸を張って自分の名を言いますけども、偶然が重なっただけの遭遇には目をつむってもらいたい。
「マリカーを実写化したかのような運転さばきの車からお前が出てきた時、銀さんホント驚いたから。夢かな、と思ってベタに目こすっちゃったから」
「私だって驚きましたよ!遂に銀さんの幻聴と幻覚を見る様になったのかと思いました」
嫉妬してくれてるなら大変嬉しいですが、銀さんはどうやら本当に真撰組が嫌いな様で、「ヒューヒューお熱いねぇ」と向こうから茶々をいれてくるクレイジーS隊長に向けて、下唇を突き出し嫌悪感をあらわにした顔で睨んでいる。でもそれは子どもが嫌いな食べ物を前にしているレベルぐらいなのは分かる。なんだかんだで、これからも彼等と長いお付き合いをしていくに違いない。
ですが、言われたい放題の私ではありません。
「なら、私からも一つ良いですか?」
「あ?」
「あれが爆弾か否かはっきりしなかったのは事実ですから、知識があるのは結構!でも!せめて逃げるぐらいはして下さい!銀さんが死んだらどうするんですか!新八君は!神楽ちゃんは!定春君は!」
「そこに千早サンも付け加えといて下さい」
「もちろん!!」
すぐに返事が飛んできたのに驚いたのか、銀さんは少しまばたきをして、その後に満足そうに笑った。
「帰ったらちゃんと冷やしとけよ」
「はい?」
銀さんの左腕がのびてきて私の額を指でさすった。ああ、そういえばハンドルにぶつけたんでした。
私も単純なもので、怪我をしている事実を知ってくれていただけで妙に嬉しいのに、心配されると更に嬉しい。かっこ悪い場所を打ってしまったけれども、銀さんにこうやって心配されるなら怪我した甲斐もあったかなと浮かれた時だった。銀さんの手がツツツと落ちてきたと思えば、唇を親指で撫でられながら軽く上を向かされる。銀さんの妖艶な笑みとばっちし直視してしまった。
「今日連絡するわ」
たったその一言の為になんつー顔をするんですかこの人は!!何処でその妖艶スイッチが入った!誰がやる気スイッチ押した!私か!?一瞬で顔を切り替えた後の銀さんは至っていつも通り。眠そうな顔に戻ったらバイクを発進させてあっという間に見えなくなってしまった。
「し、心臓がもたん…!」
「お熱いですねィお二人さん!今の写メに撮った奴今すぐ俺に送りなせェ」
「隊長今すぐに呟きます!!」
「全SNSで拡散します!!!」
「ついでに彼女が居ない土方さんに直接送れ!頼んだ山崎!」
「えぇええええ!!?俺ですか!?絶対殺られますよ!!」
「最悪な人達に見られてるしィィイイイ」
季節はこれからどんどん冬に向かって寒くなりますが、私、しばらく今日のドタバタ熱と銀さんのおかげでぬくぬくと生きていけそうです。ああ、ほんと穴があったら埋まりたい。
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