終わり良ければ?
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冷たい風が吹く様になった。朝、あたたかい布団から出づらくなった。外で飲み物を買う時ホットを選ぶ事が多くなった。
…とまあ、日常の節々で冬の到来を感じる事が増えました。最近の日本の気候は「暑い」と「寒い」しか無い気がする。春と秋の様な暑くもなく寒くもない丁度良い時間がいつの間にか消え失せ、夏の次に急に冬がくるのだ、困ったものである。
それでも寒い季節はそれはそれで私は楽しめる。筋肉が強ばって肩こりが酷くなるのはツライけど、外が寒くなればなる程周りに暖かい何かが増えるのだ。それは例えば飲み物だったり、暖房器具だったり、そのお陰で体がポカポカになると非常に幸せな気分になる。
つまりのところ、それらが揃っていない私は今とても不幸せです。
「さっっっっむぅぅうううぅぅう!!!!!!!!」
ダウンジャケットもちゃんと着たし、マフラーも巻いたし、パンプスの下には専用のカイロを忍ばせてあるのに全く役に立っていない。
数台の重機が大きな機械音を立てながら作業を進めていく。江戸の中心部に近いこの場所で大きな広告看板を取り付ける訳ですが、ありがたい事に面積が広く、周りに取り壊さなければいけない障害物多数あり、そして現場責任者として私が抜擢。あーーー、帰りたーーーーい!!!
おっと、いけない、心の声が外にもれる所でした。でも寒すぎやしませんかこれ。ガシャコンっていう音がもう寒く感じるもの。何か「ポワリン」みたいな優しい効果音が出ないんですか。重機のサビ部分を見てるだけで寒い、これぞまさに視覚的暴力。スーツじゃなくて私もツナギ的なものを着てこれば良かったと思っても後の祭り。今日はパンツタイプにしたけれど意味はあったのでしょうか。地面から吹いてくる冷たい風が足首部分から入り込んできて私の足を撫でる撫でる!セクハラ!お前に実体があったら今すぐ腕掴んで警察に突き出してやるのに!
責任者と言いましても、ヘルメットをかぶったスーツ姿の青白い顔色した女が現場図を持って寒さに震えながら立ちすくんでるだけですよ。つらい、自分の無能さがつらい。
「秋月さーん、ちょっと良いー?」
「!はーい、行きまーす!!」
でも作業をしてくれてるオジサン達もつらいもんね!かじかんだ手で大きな機械動かしてくれてるんだもんね!弱音吐いちゃってごめん!今そちらに行きます!
「これ何だと思う?」
「ん?」
地面にぶっさすタイプの看板だったので、地面を軽く掘り起こしてくれていたオジサンからの問いかけ。運転席から指をさしているのでそれを辿ってみれば、私が何とか抱えきれそうなぐらいのラグビーボールらしき物体が埋まっていた。
「でかいですね……ボール……いやいやこんな大きいの投げられないし…」
「結構錆びてるからだいぶ昔のだろうな」
「その割にはずいぶん地表近くにありましたね」
「どうする?」
「んー…………」
この大きさは気になるけど、何かの機械の一部にも見えるし、取り敢えず後で上司に報告して産業廃棄物とかそこら辺で捨てとけば良いんじゃ?
「見なかった事にしておこう!!!!」
「がってん」
寒さで脳まで凍り付いた私の判断が、のちに自分自身を苦しめる事になろうとは、その時の私は知るよしもありませんでした…。
**********
数日後、看板も無事に取り付け完了してそれに関連する書類も何とか提出する事が出来た。職場は暖房効いてるし、長時間使ってあっちあちのパソコン本体を足に置いてるから底冷えする事もないし、冬だけは現場に行くよりここに居たい。でも定時には帰るから、そこは譲らないから。
ついでにホットココアを飲んで更にポカポカしていると、隣のデスクの友が話しかけてきた。
「ねえ千早知ってる?」
「何が?」
「いま歌舞伎町で不発弾が幾つか見つかってるらしいね」
「マジで!?」
今朝は時間が無くてテレビを見る暇もなく出勤してしまった。社会人たるものニュースぐらいには目を通さないと、世間の話題にはついていけないなあ。
「攘夷戦争時代のものって言ってたから、そんな大昔のものでは無いのよねえ…」
「それ本当に爆発しないの?」
「さあ、どうだろ?真撰組が動いてくれてるみたいだけど…」
「不発弾見つかったら周辺住民も避難しなきゃだし、かなり面倒だよね」
「確かに。大きさは確か……あれ、どれぐらいだったかな…」
「うーん?」
「あ!ラグビーボールみたいな形してるんだって!」
「へえー……………、……?」
ラグビーボール?あれ、何だか最近聞き覚えのある単語が出てきました。でも私の日常生活の中でラグビーボールなんてものはそう中々出てきませんよ。だって私ラグビーはやらないもの!ルールすら知らないもの!ですが胸につっかえるこの感覚は一体何でしょう…?
「私って、ラグビー選手でしたか?」
「急にどうした」
「ラグビーボール……?この懐かしい響は一体…?」
「前世がラグビーボールだったんじゃない?」
「選手じゃなくて!?」
ここ最近の気がする。一週間も経ってない。私は、どこかでラグビーボールを見ていた……見て…み……………………。
“見なかった事にしておこう!!!!!!”
「!!!!」
「急に立ち上がって何!!?」
み、みみ、みみみ、見なかった事にしてたァァアアアァァァ!!!!!!やっべぇぇえええ見てた!!!私めっちゃ見てた!!もんの凄い見てた!!!巨大なラグビーボール発見してしもうてたァァアアア!!!すっかり忘れてたよ奴の存在を!上司にも報告してない!警察にも通報してない!って言うか私産廃として捨てようとしてた神様仏様真撰組様ごめんなさいぃぃいいい!!!!!
「私ちょっと外に出てくる!!!!!」
「え?あ、行ってらっしゃーい…?」
ダウンとヘルメットを引っ掴んで、職場の車に乗り込んで思いっきりアクセルを踏んであの現場へ向かった。すぐに通報すべきなんだけど、あまりのパニックにそんな事すら考えつかない。今日はスカートスーツだから外に出たら寒いな、とかそんな事言ってる場合じゃなぁあああい!!!!死ぬ!!?爆発したら付近のオフィスが吹っ飛んで人が死ぬ!!?断固阻止ィィイ!!!
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