夏は気まぐれ(上)
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急な事に体を少し仰け反らせた。何がですか、と聞くので精一杯だった。
「何に怒ってんだよ」
「え?あー、あれはですね、うーん………………………」
「………」
「……はあ……何でもないです」
「おま、無関係の俺にロケットパンチを撃とうとしてたのかよ!」
危うく命を落とす所だったぜ、と失礼極まりない事を言いながら浴衣を物色しはじめる銀時。彼が全く無関係という訳ではない。寧ろ事の発端は坂田銀時という男にある訳だが、別に怒りをけしかようとして発言した訳では無かった。全ては彼のデリカシーの無さが問題であって、よくよく冷静に考えてみれば、あんな一言で怒るなんて自分はまだまだ餓鬼んちょだと逆に己の幼さが恥ずかしい。今朝、社内で被害にあったジャンプに今更ながら心で謝罪をいれておいた。
まあ、女性に対しての銀時の言い方も悪いが、過敏に反応してしまったという事は身に覚えがあるからだ。最近怖くて体重計を乗るのを完全に放棄していたので、これを機にダイエットへ励もうと思った。そういや朝もそんな誓いを立てたな、と。
「じゃあ遠慮なく選ばせてもらおうかな。私椿の花が好きなんですけど、それってありますか?」
「あー、牡丹なら見た気がすんだけどなぁ…」
この部屋の電気はついていない。窓から差し込んでくる西日だけでぼんやりとした明るさを保っていた。何処からともなく蜩の声も聞こえて、銀時の机の後ろにかけてある風鈴の音も風にのって届いた。
蒸し暑いが、夏しか味わえない何とも言えない空気感。自然と頬が緩んでしまった。
「なにニヤニヤ笑ってんだ」
からかう様な声で言われ、投げられた浴衣を顔面でキャッチしてしまった。
「もう!痛いじゃないですか!」
「えーっと、帯は…」
早速銀時のペースにはまってしまってる彼女は、帯を探してくれている銀時の背に精一杯の悪意を込めて舌を出した。ただ選んでくれた浴衣が、あまりにも自分の好みと一致しすぎて、悔しいが飛び上がるぐらい嬉しくもあった。
「なんだか呉服屋の息子さんみたいです」
「銀さんってば服のセンスが良いもんでね~」
「え?ごめんなさい、よく聞こえませんでした」
「良い度胸してんじゃねぇか」
今度は帯を投げられたが、ちゃんと手で受け取れた。またまた自分好みのものを選ばれ悔しいやら嬉しいやらで、怒っていた筈の気持ちは完全に萎んでいった。
「その組み合わせで良いな?」
「良いですよコノヤローまじふざけんな」
「え?え?何で銀さん罵られた?」
「じゃあ着るんで出ていって下さい」
「手伝ってやらねぇ事も無いけど?」
「な、何ですかその卑猥な手つきは!絶対銀さんには頼まないです!」
遠慮しなくても良いのに、としつこく言っている銀時の背を押して強制的に部屋を追い出し、早速着付けに取り掛かった。
「私が良いっていうまで開けないで下さいね」
「あ、今“良い”って言った?開けるぞ」
「待て待て待て待てェェェエエ!!!」
確実に確信犯の銀時に何度か茶々をいれられながらも、なんとかスーツを脱いで涼しい浴衣に袖を通した。仄かなお香がとても上品に浴衣に染み付いている。
「千早ー」
「な、何ですか!いま開けたら泣きますよ!」
「……そう言われると開けたくなるのが男の性ってもんだ」
「あ、もしもし、警察ですか?いま私の近くに覗き魔が居て…」
「ゴメンナサイ冗談です」
「冗談じゃなかったらまたロケットパンチの準備しちゃいますよ」
いつか銀時のペースから抜け出して、自分のペースに巻き込ませたいが、一筋縄ではいかなさそうだ。
着付け時の汗というよりも、銀時にちょっかいをかけられて汗をかいていた。早く扇風機にあたりたいと考えながら裾をあわせていると、また声をかけられた。
どうせ要らぬ事を言ってくるのだろうと思っていた彼女は、特に返事もせず銀時の言葉の続きを待った。今は如何にして綺麗に着るかと格闘中だ。だらしなくならない様に、皺を伸ばしつつ裾も合わせて、また胸元がはだけない様にかといって窮屈な首元は息苦しい印象を与えてしまう。日本の女性として、なんとか綺麗に綺麗にと励んでいた。
「お前さ」
「………」
「浴衣着れるのは良いけど、体が細っこいんだからそれ考えて着ろよな」
その瞬間、両手から浴衣が滑り落ちた。
下着だけは見えない様に前の襟をあわせて、勢いよく襖を開けた。
「えぇぇえええ!!!?それで完成!!?」
「そ、そんな訳無いでしょう!!それよりも今!今なんて言いました!!?」
団扇で自身を仰いでいた銀時に詰め寄り「さあ今の言葉をもう一回!」とせがむ彼女。一体何を必死になってるのか見当のつかない銀時だったが、言われた通り、さっきの自分の発言を口にしてみた。細いのだから、着る時はちゃんと考えろ、と。
「細い!?誰が!?」
「また怒り出した」
「私が細いと!?」
「会った時よりかは痩せたじゃねぇか」
「はぁぁああ!!?」
「何でそこで怒る!!?」
普通「痩せた」と言われたら世の女性方は一般的には喜ぶが、何故か銀時の彼女は怒っている。
それもその筈、昨日は「太った」と言われて散々気にしていたのだから。
「ころころと意見変えて!一体私はどっちなんですか!太ったの!?痩せたの!?」
「や、痩せました…」
「じゃあ何で昨日は“太った”なんか言いやがったぁ!!」
完全に朝の般若キャラが復活してしまい、あまりの迫力に逃げ腰の銀時だが、なんとか昨日の自分の発言を思い出そうとする。
本来無意識の言葉は一々覚えていないが、彼女が気にしていたのであろうその言葉はすぐに思い出せた。無意識発言では無かったからだ。
「だって、ああでも言わねぇとまた菓子持ってくるだろ?」
「…………………はい?」
「俺らに気ぃ使って毎回菓子持ってこなくても良いって話は覚えてるな?」
「え、えぇ」
「お前最近太ったしな、って言えば体型を気にして持って来なくなると思ったんだよ。こりゃ相当きいたみたいだな」
ニヤニヤ笑っている銀時を見て、足下から一気に熱が集まった。「はめられたー!」と全ての細胞が叫び、彼女の羞恥心を更に仰ぐ。
「い、威力がありすぎますその言葉は!!」
「そっちの方が俺らには気を使ってない感じで良いじゃねぇか。自分の体型が気になるから御菓子はもう持って来ません、みたいな」
「私はそこまで自分優先の人間じゃありませんよ!」
「そりゃ誤算だった」
「謝罪を要求します!」
「ごめんちゃい」
「さーん、にーち」
「また出たよ恐怖のにーち!!だ~~っ俺が悪かった!そこまで気にするとは思わなかったんだよ…」
「発射!!」
ゴツン。良い音がして銀時の頭部にたんこぶが出来た。
「ぼ、暴力反対!」
「やかましいです。これでチャラにしてあげましょう。次冗談で言ったら歯の一本は覚悟して下さいね」
「マジでか!!!」
言葉で散々脅しても聞かない事は分かっているが、こうでもしないと再び湧き上がってきた怒りが収まりそうになかったのだ。か弱い(?)乙女の心を傷つけた罪は非常に重い。
だが後腐れが無いのが彼女の良い所で、自分の怒りをたんこぶで返すという仕返しで果たせた彼女はスッキリとした顔で笑っている。
「でも良かった~、本当に太っちゃったのかと思いましたよ」
「ガリガリに痩せられるぐらいなら太ってる方がまだ安心出来んですけど」
「心得ました!」
「でもって、今以上に細くなったらもっとそれが小さくなると思うんですけど」
「心得ました!…ん?何が小さくなるんです?」
「いや、それ。って言うか、これ」
銀時が指をさしているのは浴衣の胸元。本来ならばしっかりと合わさっている筈の襟だが、彼女は帯を締めないまま飛び出し、興奮のあまり抑えていた手も離してしまったのでかなり大胆な格好を知らず知らず銀時に披露していたのだった。
「え?何?寧ろ見てくれ的な感じな訳?」
「~~っンな訳あるかァァアアア!!!!」
再び万事屋に、ゴツンという大きな音が響き渡った。
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