さわやか本舗
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「いやぁ、新八君は坂田さんの言う通り突っ込みが素晴らしいですねっ」
「そりゃ毎日突っ込んでるようなもんですからね…」
疲れを思い出すような声音で言ってみれば、「刺激のある毎日良いですよね」と秋月さんは言う。良い視点から見れる人だなぁと思った。何気に銀さんの事、”坂田さん”と苗字呼びにしていたのは驚いたけど…。銀さんは苗字で呼ばれるのは嫌いな人だから、秋月さんはまだそんなに回数を経て銀さんには会った事はないんだ。………元・依頼人の関係ならそれが普通の事なんだけども…。
「今度街中でスーツ着て全力疾走している団体が居たら、きっとその中に私が入ってると思うから、声をかけて下さいね!今度は転ばずに走ってやりますよ!」
秋月さんは腕を軽く上げて、力こぶをつくるような動作をして胸をふくらませた。持ってくれているスーパーの袋が音をたて、ついていた水滴が少し飛んできた。
「パンプスでだって走れるんですから」
得意げに笑い、僕より少し前をずんずん歩いていく。いつの間にか雨は止み始めてきた。
「もうすぐで万事屋ですよね?」
「あ、なんだかすみません…!荷物とか持たせてしまって……!」
「全然良いんですよ。せめてもの恩返しですから」
「これで夕飯の準備が出来ます!」
「お急ぎですか?なんなら走りましょうか!」
「走っちゃ駄目ェェエエ!!!!」
またこの靴で走って、目の前でこけられて痣を作られたなら僕の立場は本当に無い。
「アハハ!ジャパニーズジョークですっ!」
大雨が似合わないような大きな笑みを見るたび、本当に幾つなんだろう、と思ってしまう事を許してほしい。帰ったら銀さんに秋月さんの事を少し聞いてみよう。そう思った時には、もう万事屋のすぐ前にまで来ていた。
「何だか早くついたような気がしますね」
秋月さんは本日始めて残念そうに笑った。その言動が、僕の思い違いとかじゃなかったら凄く嬉しいと思う。
持ってくれていた荷物をすぐに引き取り全力でお礼を告げると、「困った時はお互い様です」と優しい応え。その時に、雨はちょうどやんだ。
「あの、是非とも万事屋に上がっていって下さい!ご飯でも一緒に…」
「そこまでお気遣いなく。ただ、新八君と話がしてみたかっただけですし」
スーパーの荷物を僕に渡した代わりに、秋月さんは折りたたんだ傘を僕の手から取った。
「ちゃんと干して返します!」
「子どもがそんなに気をつかっちゃ駄目ですよ?傘の1本ぐらいで気をつかわないつかわない!それに、明日から大忙しで家に帰りませんしね。御足労を願わせるような事はさせませんよ」
「……何だかすみません」
「違いますよ。こういう時は、すみません、じゃなくて…」
その時灰色のどんよりとした雲が晴れてきて、隙間からは少しオレンジ色した太陽の光がさしこんできた。暖かな光に秋月さんも僕も空を見上げる。秋月さんは疲れを癒すように大きく伸びをしてから、来た道を戻り始めた。
「さーてと!明日も仕事に励むぞー!」
そう言いながら傘の持つ片腕を鳴らして歩いていた。いかにも、銀さんの知り合いのように思えた。
「あ、あの!ありがとうございました!!!お仕事頑張って下さい!!!」
この通りに響くような声で言わなくとも彼女には届いたろうけど、感謝の気持ちを表すには音量も含むしかなかった。それは伝わったようで、秋月さんは「明日も走るぞー!」と最後に言ってから、振り返らずに帰っていってしまった。それから僕も万事屋に続く階段を上って玄関に入って、草履を脱ぐ時に彼女のことを考えた。良い人。そんなイメージをつけたのは、きっと間違いじゃないはずだ。機会があればまた話してみたいと思う。
”明日も走るぞー!”
安易にその姿が想像できて、自然と口角が上がってくるのが分かる。スーツ姿にパンプスはいて、颯爽と街を走る秋月さんを見かけたら、今度は僕が何か手伝ってあげなきゃ。そう決めて、びしょびしょに濡れた草履を脱ぎ捨てた。
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