桜色の片隅で
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ゴツン!!!!
……………痛い。
「千早君、今寝ていたね」
「え?寝てた様に見えました?」
「肘をついてうつらうつらとしていたよ。いつか頭が落ちるんじゃないかと思ってたけど、額から今確実にいったよね」
「え?え?それって部長大変ですよ。私が寝てる様に見えたんですよね?この私が。大変です、きっと乱視です、眼科に行った方が良いです」
「素直に自分の非を認めろォォオオオ!!!」
取り敢えず一喝浴びて、小声で詫びをいれて、会議はまた進んでいく。こんな事は何回もあるし、正直会議あるあるだ、今更誰も気に留めない。昼食後に会議をするってのがバカタレのする事なのよ!昼寝の時間ぐらい取らせなさいよ!
前の方に写るプロジェクターを見ながら、メモの取るフリをして小さなカレンダーをレジュメに書いた。過ぎた日にちは×を書いて、予定がある日には○で囲む。おや、4月って結構予定で埋め尽くされてませんか?でもこの週末暇だなー。
「(あ、そういえば…)」
最近、会ってないなぁ、なんて。神楽ちゃんからはよく電話の連絡が入ってくる。次はいつ遊びに来るのか、一緒に出掛けようよ、とか、お腹すいた、とか。……え?銀さんちゃんと神楽ちゃんにご飯作ってるのかな。お姉さんはあの可愛い子ども達2人の事が心配なんですけど。
会議の声は只の子守歌でしかない。また再び船を漕ぎ出した私の事を、向かいに座っていた同期が笑いをかみ殺して見ているのが分かった。笑え、笑うが良いわ、そして上司にまた怒られる私に追い打ちをかけるかの如くまた笑え。睡眠欲に勝てる人間なんか居ますか?いーや、絶対に居ないね、居たら私その人に弟子入りするもん。
プロジェクターも目に入らない。あ、そりゃ目をつむってしまったら何も見えないか。
ぼやけてきた頭の中で、さっき眺めていた桜をフと思い出す。
嗚呼、お花見に行きたいな。
この言葉がまるでキャッチフレーズみたいに、脳内に流れ出すあの優しいメロディー。そうだ、花見に行こう。
「♪~~♪~♪」
夜に口笛吹いたら泥棒が来るんだっけか。確か餓鬼の頃にヅラがそんな事言ってたな…。だからって腰に跳び蹴りする事ないよね、あの時土手に転がり落ちちゃったからね、後少ししたら川にはまる所だったからね!?思い出せば腰の古傷が痛むぜ……。
この時期になると、昼間より夜の方が快適だ。柔らかい風のお陰で寒くもなく、かと言って気温が高い訳ではないので花粉が飛び交う事もなく…。
冬は億劫に感じてしまう、この「夜になったら急に甘いものが食べたくなってコンビニに出掛けてしまう」という行為も、春の夜にとっては苦痛にすら感じない。寧ろ好きこのんで出掛けるっての。いちご牛乳が俺を待っている。
道の至る所で桜が咲いている。公園の一角では夜桜にしゃれ込む団体が居て、桜の香りにまじり日本酒の匂いもした。思わず立ち止まって、その集団を見る。
「…アイツも、職場で楽しく花見でもやってのかねぇ…」
あの中に千早は居ない。だったら立ち止まる必要も無かったか…。
この時期にしか咲かない桜の儚い雰囲気につられ、春になったらいつも歩く公園内の桜通りの道を選んだ。思いの外綺麗に咲いてるし、人の気配も無いし中々の穴場だった事に初めて気がついた。こんな事ならいちご牛乳じゃなくて、酒の一つや二つ買ってくりゃ良かった。
花見=酒、という方程式は誰にも崩せない。今度の花見もきっと飲み会みたいな展開にもつれこむのだろう。
「あ、でも千早が居るんならあまり飲めねーな。飲ましたら花見会場が潰されるね、ウン」
最早トラウマに近い勢いで俺の中に刻み込まれたあの一夜。飲んだくれしか居ない歌舞伎町で伝説に成り上がるってどういう事!?あいつホントに凄くね!?
「♪~~♪~」
泥棒など気にせずまた口笛を吹いてみる。って言うか万事屋には盗める物なんて何一つ無いから。あ、自分で言ってて悲しくなってきた…。
風が少しだけ強いのか、散っている花弁の数が多い様な気がする。
この週末まで咲いててもらわなければ困る。神楽が楽しみにしてんだよ、この桜を。今回の弁当は新八が責任持って作るって言ってくれてるし…。
「…あ、でもまだアイツを誘ってねーな」
電話するか?いや、でも11時ならもう寝てるな。今時の小学生だって寝るのが12時な世界で、あのお姉さんは本当によく寝る子だよ。徹夜した後は確実に丸一日寝てるらしい。いやぁ、若いねぇ。
「♪~~♪~♪」
……ん?今の口笛は俺じゃねーよな、うん、違うな。さっきまで俺が吹いてたメロディーと一緒だ。旅行会社がCMに使ってた柔らかいメロディー。
でもどう頑張っても曲名が思い出せないんだよなぁ…何だったか……。
「うーん…英語だった様な気がするんだけどなぁ…」
そうそう英語なんだよ。日本語すらまともに話せないジャパニーズが英語の曲名なんざ思い出せる訳が無いっつの。
「あー、もう少しで思い出せそうなのに…」
「あ、フラグ立ったな。そういう事を言う奴に限って永遠に思い出せないフラグが立った」
「諦めたらそこで試合終了ですよ。野次を飛ばす観客は会場から出ていって下さい」
「……んん!!?」
「……んん!!?」
一体いつから会話が成り立っていたのかは知らねーが、俺の言葉に何倍もの攻撃力を含んだ返答が出来る奴は限られている。新八とか、神楽とか、ババァとか、後は…。
「銀さん!?何してんですかこんな所で!補導されちゃいますよ!」
コイツとか。
「良い子は早くお家に帰らないと」
「良い子じゃないから構わないんです~」
「それもそうですね」
「否定しろよ」
池に面しているベンチに一人で座って、一人でひっそりと夜桜を楽しんでいたらしいそいつの横にはオレンジジュースの缶が一つ…。お酒じゃなくて本当に良かった…!
