歌舞伎町美禄物語【終】
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珍獣VS珍獣。その図がまさか現実で行われる日がこようとは。
二日酔いでもないのに、銀時は(珍獣達に対する)頭痛と目眩をなんとかおさえながら彼女を背に隠した。見据えるのは女みたいな穏便派攘夷志士だ。
これからまた飲み比べなどされたら、彼女の身がもたないというよりも己の身がもたないと銀時は感じていた。後ろの女は至極呑気に「飲み比べ~♪」と即興の歌を歌っていた。
「邪魔をするな銀時。これは日本の明日を決める大事な事だ」
「アルコールで左右される明日なんているか!!」
「銀さん大丈夫です、私勝てますから」
「俺ァ勝敗の心配をしてるんじゃなくて…!」
飲み比べとなったら、一般的なルールはどちらかが倒れるまで酒を飲み続けるというもの。
彼女が倒れる可能性もあれば、桂が倒れる可能性もある。取りあえず面倒くさいこの2人の内1人が倒れる事となる。どちらかが勝っても負けても銀時にとってはどうでも良い、とにかく面倒くさい。
だがすっかり御機嫌な彼女はどこからともなく持ってきた二つのグラスに並々とワインを注ぐ。それを沖田が囃したてれば、そのグラスを掲げ楽しげに笑った。
「秋月千早!いかせて頂きまーす!」
「ワインなんか止めとけ馬鹿っ!」
銀時の制止も虚しく、アルコール度の高いそれをまるでぶどうジュースの様に軽く喉へ押し込んだ。そして腹の中に親父でも飼っているのか、うら若き乙女とは思いがたいしがれた溜息の後に酔っ払いレベルがアップした。
悪い子は居ねが~と笑いながら、既につぶれている近藤に無理やり日本酒を飲ませようとしている。あれはぶどうジュースではなくてナマハゲを活性化させる生き血だったのだろうか。
右手にグラス、左には空になった鬼嫁のボトルを握り「悪い子が居ねが~」と言いながら店内を彷徨い歩き、つぶれている酔っ払いを見つけては無理やり起こして酒を飲ますという悪行極まりない拷問を繰り広げている。
そうこうしてる内に桂が注がれたワインを飲み干し、おかわり、と涼しい顔で彼女を呼びとめた。戦いの始まりである。
「いーぃ飲みっぷりですねお姉さん」
「お姉さんではない、桂だ」
「鬘?そんな事情私は聞いてません。………あれ?これデジャヴ?」
思いだそうにも思いだせない彼女は早々と諦め、桂の前に正座して座った。
「さあ始めましょうか」
「うむ」
「って事で銀さん、お酒ついで下さい♪」
今まで向けられた事のない満面の笑み。お酒の力は侮り難し、と胸に刻み、銀時は全てを放棄して死んだような目つきで言われた通り酒を注いだ。
自分に最高の笑顔を向けられている人間は最早彼女というよりは、歌舞伎町の生きる伝説となっている人間だ。一般人が勢いを止めれる訳がない。
「真っ白に燃え尽きたぜ俺ぁ…」
俺は全く飲んでねぇけどな、と付け足して桂のグラスにも並々と注いだ。あわや畳に零れそうになって、そんな些細な事が彼女を笑顔にさせて、そして周りも何だかんだと笑う。
この場に居る全員の昼の生活など銀時は知らないが、彼女の事なら少しは分かる。
仕事はそれなりに楽しそうに、時には厳しい場面にも立たされ窮屈な思いもしていると分かっているからこそ、たまにはこうやって羽目を外させてやっても良いのかもしれない、と思う自分が居るのに、銀時は少し驚いた。
何より腹の底から笑う楽しげな彼女が見れたのだ、ここは素直に酒に感謝をした方が、これから先何となく御利益がある様に思えた。
「楽しいですね銀さん!」
「そーかィ」
知らず知らず銀時の口の端も上がる。これからいよいよ大盛り上がりを見せる歌舞伎町の夜で、乾杯、と元気な声と歓声が店を揺るがした。
**********
ガンガン、と誰かが自分の頭を叩いているのが分かった。鼻から大きく息を吸い込むと、朝特有の冷えた空気が肺を占める。
朝っぱらからこんな暴力的な起こし方をするのは神楽しか居ない、と睨みをつけた銀時は目を開くが、起き上がったそこには誰も居なかった。しかしまだ頭は叩かれている。しばらくかかって、これが頭痛の音だというのが分かった。
ここは銀時がいつも寝ている場所。布団に寝かされているが、服は昨日のまま、どうやって帰ったかの記憶は少しだけあった。
あれから、珍獣VS珍獣という世にも珍しい2人の飲み比べは深夜の3時を回っても止まらなかった。
ナマハゲ度が上がった彼女が遂に幻覚を見始め、銀時の背に髪の長い頭から血を流してる女が居ると言ってケタケタ笑った。それはどうやら沖田にも見えたらしく、2人して何が面白いのか笑い転げていた。銀時にとっては全く面白くない、というよりも色んな意味で勘弁してもらいたかった。
そうして彼女に目を向けている間に、綺麗な手つきで刀を抜いた桂が本人が近くに居るとも知らず「くたばるが良い真撰組!」と叫び大黒柱らしきそれに斬りかかっていた。
今まで見た事のない荒れっぷりに収集はつかず、終わりが見えてきたのは桂が何杯目か分からない酒を煽った時だった。派手に倒れて、そして勝者が決まった。
歓声や拍手が起こるかと思いきや、店はひっそりと静かになっていた。それもその筈、店内は既に墓場と化し、アルコール戦争を生き残った彼女と御守役だった銀時しか起きていなかった。みんな寝ちゃったんですか、と彼女が口を尖らせて再び飲もうとしているのは酔い覚ましの水ではなく水で薄めた焼酎。
死屍累々の中、ポツンと座りこみ寂しそうにまだ酒を煽る彼女の手からグラスを取った。さすが生きる伝説、鋼鉄の肝臓を持っているらしい。
ここに居る彼等は眠れる獅子に遠慮なく酒を飲まされた結果、目覚めた時には飲んだ時の記憶もろとも、歌舞伎町の伝説の存在は曖昧なものになっているのだろう。そして噂は噂を飲み込み、得体の知れない結果へと流れてそれが人へ伝わる。
眠れる獅子が大男であると一番最初に言ったのは誰だと銀時は叱ってやりたかった。
なんて事ない何処にでも居る女が生きる伝説などと笑わせる。しかしその名に恥じぬ飲みっぷりに、呆れ半分拍手半分。
桂の姿は既に無い所が抜かりない。俺達もそろそろ帰るぞ、と銀時が彼女の細い腕を掴めば、今になって眠たそうに瞼をこすり始める。ああ駄目だ眠い。挙句の果てにはそう言って横になり始めたのだ。散々好き勝手暴れておいて、自分のタイミングで寝始めるゴーイングマイウェイっぷりに最早溜息しか出ない。
その後確か、背中に乗せて、よろけながらも万事屋に連れて帰ったような気がする。それから………。
「…………」
見渡せど、布団には銀時1人しか寝ていない。重い体をなんとか起こせば、味噌汁の匂いが鼻をかすめた。神楽が作る訳がないし、新八がこんな早い時間にくるとは思えない。という事は、こんな事が出来るのは彼女しか居ない。
台所をのぞけば案の定彼女が立っていて、慣れた手つきで朝ごはんの支度を整えている。やがて銀時の視線に気づき、爽やかに朝の挨拶をしてきた。その肌や声には昨晩のアルコールの気配は微塵も感じられない。
「昨日は飲みすぎちゃいましたね。途中からあんまり記憶が無いんですけど、結局眠れる獅子には会えました?」
「…………」
会えました、というよりも居ましたという感じだ。今度飲みに行った時は会えるかなぁと呟いてる背中に、いやそれお前だからと大声で突っ込んでやりたかった。
「私この準備が出来たら家に帰りますね」
「忙しい奴だな」
「今日も仕事なんで」
苦笑いをしながら味噌汁用の大根を切っていた彼女に、眠れる獅子の面影はない。試しに自分の事を呼ばせてみたら、躊躇いなく坂田さんと呼ばれてしまった。
「あ、す、すみません、なんか名字呼びが慣れちゃって…」
昨日何十回と名前で呼んでいた筈なのだが、記憶が無いというのは残酷な事をする。
あからさまに溜息をつく銀時に、彼女はわたわたと焦りながら「次からはちゃんと下の名前で呼ばせて頂きます」と変に畏まって慰めてきた。
酒を飲んでいた時も面白かったが、素面の時も十分面白い。からかいがいのある彼女を前に、銀時は小さく笑った。
「また行くか」
「はい!是非!!」
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