歌舞伎町美禄物語【ニ】
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関節技を決められている男も、関節技を決めている女も、見間違いでなければ沖田は両方を知っていた。しかし初めて見るツーショットに思わず首を傾げる。
「この前の自転車の姉御ー、不審者でも捕まえやしたかィ?」
「沖田君…!」
「いでで…!何?お前ら知り合い?」
彼女の力が緩んだ隙に銀時はすぐに腕を引っ込ませた。変な方向に捻じれて傷む腕を労わっていると、自分の背後に彼女が隠れてきたのが分かった。
「あらら、嫌われちまったかねィ」
「この子に関わるとロクな事にならないんです…!」
「失敬な。それを言うなら万事屋の旦那の方が厄介でさァ」
「るせー」
「……にしても、お二人はどういった組み合わせですかィ?」
彼等の知り合いなら誰しもがそう思うであろう質問に、彼女がピクリと反応したのが背中越しに分かった。ああ、これは照れるだろうなと思った矢先、案の定顔を真っ赤にした彼女は更に縮こまり背中へ隠れた。
妙にませてる沖田はそれだけで察し、Sっぽい笑みを浮かべながら銀時を見た。
「はは~ん……自転車の姉御は、もしかして旦那のコレですかィ?」
と言って手で作ったのはキツネだった。
「どれだよ!!どれに当てはめていい訳!?」
「まぁ、冗談はここまでにしといて…。……今晩の店はお決まりで?」
「店…?ううん、まだ決めてない、けど…」
「おま…!」
余計な事を口走った彼女を止めようとしたが、それより早くニコニコ顔の沖田が隠れている彼女を覗きこむ。その笑みたるや可愛らしい王子様スマイルの筈なのに、彼の本性を知っている銀時としては面白い玩具を見つけたサディー臭を匂わせる笑みにしか見えなかった。それを空気で察した彼女も、思わず銀時の背中をギュッと掴む。只でさえロマンティックもへったくれもない時間を過ごそうとしているのに、第三者が混じればそれこそ神も仏もない。
「なら、俺の行きつけの店に行きやせんかィ?」
「え?あ、でも」
「お断りだ!お前となんか絶対飲まねぇ!って言うか未成年だろ!」
「警察自身に法律は適用されやせん」
「恐ろしい事言うなお前は!」
「ささ、行きやしょう姉御」
「わっ!」
右手首を握られぐいぐい引っ張られていく彼女は、思わず銀時の手を掴む。
「!」
「!!!すいませんっ!!」
しかしすぐに頬を赤くさせて離されてしまう。その間に沖田に引っ張られるがまま近くにあった店へと引きずり込まれてしまった。
「"すいません"ねぇ……銀さんのハートは傷つきまくったぞコノヤロー」
どうしても縮まらない距離に苛々しながらも消えていった店の前へ続けば、開いている戸から酒の匂いと酔っ払いの笑い声が銀時に届く。こうなりゃ公務員に奢らせるか、と割り切って暖簾をくぐり、既に座敷に座っていた彼女の隣に腰を下ろす。その向かいには沖田と、一匹のゴリラ。
「って何でテメーまで一緒に居んだよ!!」
「聞いてくれよ万事屋…!俺は今日失恋したんだ…!」
「毎日だから!毎日失恋してるからお前!」
何故にこうもややこしい人物達と会うのか、まだ飲んでもいないのに不思議と頭が痛みだした。眉間に寄った皺を人差し指でトントンと叩き、なんとか状況を飲み込もうとしている銀時の横で、彼女は腕を組み思案顔で近藤の事を見つめている。他の居酒屋で面識があるのか、どうにも初対面とは思えなかったのだ。おそらく真撰組局長とは気付いていない。良い歳したゴリラが涙や鼻水やらを垂れ流しているのは格好悪いが、同じ泣き虫所属として「泣くな!」とは言えなかった。おしぼりを差しだし、これで拭いて下さい、と優しく声をかけた途端、彼女の細い手を近藤が感極まって掴んだ。
「なんっって優しい方なんだ!!近藤勲感動しました!!!」
「いえいえ。……ん?こんどういさお…?どっかで聞いた名前だなぁ…」
真撰組局長の名前ですぜィ姉御、と沖田が口をはさむより先に、銀時の強烈な肘打ちが近藤の後頭部に決まり彼の顔面は机へとめり込んだ。
あの肘打ちの速さは彗星の如く早くて重量感がありそうなものだった、近藤さんのめり込み具合は人間の域を超えていた(沖田後日談)
「いつまでもベタベタ触ってんじゃねーぞコルァ。今度は地中じゃなくて宇宙までぶっ飛ばすぞ」
「オヤジ~、生中4つ頼んまさァ」
「あ、枝豆もついでによろしく~。お前はなんか食いたいもんあるか?」
「この方をスルーする感じで進めていくんですね!?」
既に心がボロボロだった近藤に更なる仕打ちが加わった所で、よく分からない面子の乾杯を合図に銀時と彼女がひとまずビールを思いっきり煽った。良い飲みっぷりの男女が並んでジョッキを煽るというのは圧巻で、沖田は「お~」と感心しながら拍手を送った。
「おいしー!」
「姉御は酒が好きなんですねィ」
「まぁぼちぼち飲むかな。って言うか沖田君未成年だよね、飲んだら駄目じゃん」
そう言って沖田のジョッキを自分の所へ引き寄せて、ウーロン茶を一つ頼んだ。
そのあまりの自然っぷりと言うか、どういう経緯で彼女と沖田が知り合いなのかが銀時は全く分からない。しかしそれは沖田も言える事であって、彼女と銀時が並んでいるこの光景こそよく分からないものだった。まあ察する事は出来たが、敢えて本人達の口から言わせるのが面白いとからかっているので、姉御は、と急に話を切り出した。
「姉御は、旦那とどういったご関係で?」
ストレート且つ分かりやすい言い方に枝豆を口にしていた彼女の顔に若干赤みが差す。それだけで十分関係性を物語ってくれてはいる。
「さ、坂田さんと私ですか…!?」
「(あり?)」
てっきり名前で呼び合ってるのかと思いきや、他人行儀な坂田サン呼びに心の中で首を傾げた。2人の仲の良さをはかるのに呼び名だけで決めつける訳ではないが、意外な呼び名には素直に驚いた。
「ちょーっと沖田きゅーん?餓鬼があんまり口出ししないでくれるー?」
絶好調に不機嫌顔の銀時が、空になったジョッキを机の上に叩きつけた。
「という事で今日は沖田君の奢りでよろしく」
「え!?良いんですか!?」
お給料日前で実は困ってたんですよねー、と笑いながらちゃっかり肴を注文する彼女と2杯目を頼む銀時。
「嫌だなァ、俺が金なんか持ってる訳ないでしょう。ちょっと待って下せェ……お、あったあった」
瀕死状態の近藤の懐から探り当てたのは紛れもない財布で、中を確認するや否や、二人羽織の状態で近藤の後ろに潜り込み「今日は俺の奢りだ。じゃんじゃん飲めよ(裏声)」と勝手な事を言ってから自身も食べ物を注文していた。
2人で飲む筈だったのにとんだ邪魔が入ったが、彼女は楽しそうにしているのでまあ良しとしてやろう、と銀時は珍しく寛大だった。
その許しのせいで、後々とんでもない事に発展しようとは知るよしもなく…。
次回へ続く!!!
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