アン ハッピー バースデー!
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今度一緒にケーキ食べましょうね、と呟いてみれば、そうだな、と鼻声が返って来た。私がぶっ倒れてからだいぶ日にちが経っているので秋月ウイルスが感染したとは考えにくいですが、絶対そうとは言い切れない。あの時散々お世話になった私が出来る事は、献身的に看病をしてあげて、後日ケーキを一緒に食べる事。神楽ちゃんも新八君もケーキを楽しみにしてるんです。
むしろ貴方の誕生日を楽しみにしてたんですから。
それにしてもいつまでこの状況?新八君に助けを呼べば良いのかな?
もしかして銀さん寝てしまったのでは、と適当に声をかけてみれば微かな反応はある。どうやら寝てはいない様で…なら布団に寝転んだ方が絶対楽でしょうに!
「……お布団で寝ましょう?」
じゃないとこのままの体勢はきっついです…!そりゃ最近運動不足で体力が落ちてきたのもありますが、お兄さん割と体重がしっかりあるというか、男性の体を支えたまま長時間座り続けるなんて私には無理です…!スーパーの袋を担ぐらいの筋トレしかしていない私には無理なんです…!
いつ崩れるか分からない壁にもたれるより布団で寝た方が絶対楽だと思うので、もう一度同じ事を言ってみる。すると素直に体を離し、真正面に座り直してじーっと私の事を見つめてくる。…………何?
「……な、なんですか…!」
「お前さァ」
「はい」
「何その大胆発言」
「大胆、発言…?」
そんな事言ったっけと思い返した瞬間、無意識であれど意味の捉え方を間違えれば"大胆"とも表現できる事を確かに言っている。言っているけどもこれは決して断じて間違いなくそういう意味で言ったんじゃないです!
「違っ…!そういう事じゃなくて……!!!」
「まあ付き合って数週間経つし?俺達も大人な訳だし?」
再びニヤニヤ顔で近付いてきた10月10日の主役に、勘忍袋の緒がきれた私の右ストレートが綺麗に入りました。
「ぐはぁ!」
「良いからさっさと寝て下さい!!!!!」
「銀さんお粥持ってきましたよー……って何やってんですか」
「右ストレートを放っただけです」
「病人に!?」
完全にのびて、ようやく布団に(強制的に)倒れ込んだ坂田さんの枕元に薬が置かれた。お粥は目が覚めた時に食べてもらう事にして、私と新八君は部屋を後にした。
本当は豪華な食事を作る予定が、思わぬ風邪到来によりいつもの食卓になって、折角なので私もお呼ばれする事となった。テレビの音を比較的小さくして、定春君も今日ばかりは大人しく寝転んでいて、静かな坂田家の食卓で私だけが「美味しい」を連呼していた。
新八君は良いお嫁さんになるよね、と言えば、姉の料理が料理ですから、と意味深な答えが返って来た。神楽ちゃん情報によると、新八君のお姉さまの卵焼きを食べると胃の中で化学反応が起こるんだとか。……それ凄くない?是非食べてみたいよ新八君。
銀さんの居ない空間は非常に不思議で、食べ終わった後こっそり部屋をのぞいてみれば、こちらに背を向けて大人しく寝ている姿があった。
「千早ちゃん、今度はいつ来れるアルか?いつ一緒にケーキ食べれるアルか?」
「んー、そうだなー」
3人仲良く洗い物に勤しんでいる時、冷蔵庫の中のケーキを見つけてしまった神楽ちゃんの脳内は一気に糖分一色だ。お姉さんとしては早く食器を棚に片付けて欲しいんですけどね?
「2日以内には食べないと駄目だよね。ケーキって日持ちしないし」
「もう銀ちゃんナシでも良いんじゃネ」
「駄目に決まってるでしょ神楽ちゃん。僕達だけで食べたらあの人一生恨みごと言ってくるよ」
「あはは、確かに言ってきそう……」
ちぇーと残念そうな声を出しながら、それでも「ねえねえ」と簡単に表情を明るくさせて腰に抱きついてくる神楽ちゃんは子どもらしくて可愛い。濡れた手をタオルで拭きながら、自分とは思えないぐらい優しい声音で返事をしていた。
「じゃあ千早ちゃんは、銀ちゃんが元気になるまで万事屋に居るアルか?」
痛い所を突かれて言葉に詰まる。そんな事が出来るならしたいけど、明日も明日で仕事が入っていて、最近休んだ身としては有給も取りにくい身分である。そんな大人の事情を分かっている新八君は、無理言っちゃ駄目だよ、と神楽ちゃんを諫めてくれた。…いや、むしろ諫められるのは私の方かもしれないです。あれだけ万事屋さんに迷惑かけておいて、いざ実際に坂田さんが倒れた時私は薄情にも仕事を選ぶんですから……なんて小さいんだ私…。
「ぎゃぁぁああああ何やろうとしてんですか秋月さん!!」
「ご乱心ネ!!!」
「あの…この包丁で前髪ざっくり切って恥ずかしい前髪にするんで、それで許して下さい」
新八君は素早く私の手から包丁を奪い取り、危ないじゃないですか、と叱ってくる。うう、オカンだ…。
「前髪だけでは許されないですか…」
「酷いネ新八!」
「僕何も言ってませんけど!?」
早まったマネはしちゃ駄目ですと諭され、万事屋のオカンはちゃきちゃきと食器を片づけていく。私この子より良い嫁っ子になれる自信ないな…。
そんなポッキーみたいな私の女のプライドが折れた所で、神楽ちゃんがまた腰に抱きついてくる。実は甘えたのこの子は、坂田さんの完治を誰よりも願ってるんだろうなぁと思い、なんとなく頭を撫でてみる。本当にあの人って愛されてるなと実感してしまう。羨ましい半面、ちょっと妬いてしまうのも事実。おっといけない、本音が出た。
「早く治ると良いね」
「うん!そしたら一緒にケーキ食べようネ!」
「食べよう食べよう。新八君と、神楽ちゃんと、坂田さんと…」
「千早ちゃんも一緒に食べるアル!」
「私も入れてくれるの?嬉しい」
「定春だってきっと食べますよ。だから4人と、定春で食べましょう」
“一緒に食べる"。その言葉がむず痒くて、でも嬉しくて、表現出来ない暖かさが胸の内を占める。きっと私は今、とびっきりの笑顔で笑っているのだろう。
「(彼女っつーか、寧ろもう坂田さんファミリーに仲間入りしてね?)」
起き上がっていた彼が、廊下で話を盗み利きしていたとは知らずに、10月10日の夜は更けていくのでした。
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