真夜中のイジワル
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手の平から秋月の熱がじんわりと伝わってくる。脈も心無しか早いような気がする。
「秋月」
「……」
何ですか、とでも言いたげな目からまた涙が一筋流れた。どうやったら泣き止んでくれんだろうコレ。俺が泣かしたみてーじゃねぇか。
「お前が倒れるとムカつく」
「はいぃ!?」
「お前が困ってるとムカつく」
「ちょ、坂田さん…」
「お前が泣いてるとムカつく」
「……」
「お前が自分を責めてるとムカつく」
「……そんなに私が嫌いかチキショー」
口を尖らせた秋月はまたボロボロと黙って涙を流す。違う、泣かせたいんじゃないんだよ。
「どうせ私はムカつく女ですよ…」
違う、違うのだ。そりゃまぁムカつくとは言ったものの、純粋に嫌いとかいった類の意味ではない。それを少しは読み取ってくれるぐらい大人になりやがれこの小娘がァァアアア!…と、風邪をひいてるコイツに要求するのは酷な様に思える。
あからさまに大きなため息をついてみれば、秋月の頬にまた涙が流れる。何こいつ、どんだけ涙ためてた訳?そう突っ込まざる得なかった。
ずっと掴んでいた手首を離して、隣に座り真正面に秋月を見据える。小さく縮こまるこいつには何を言ったら泣きやんでくれるだろうか。そう考える俺の中には、さっきまでのイライラなど何処かへ飛んでいた。
どうしようもなく心配で、だからこそ苛立つあの心は確かに"親心"に似たものがあるが、断じてそんなものではないと言い切れる。
「千早」
「!!!」
さっき手首を掴んだ時とは比べ物にならないぐらい目を見開かせたそいつが居た。一瞬名前間違えたかと思ったじゃねーか。
大きな目から滴が一粒落ちた。それを親指ですくってやるだけで、頬に更に赤みが増した。
なんて単純な奴なんだろう、と思いながら小さく笑ってやった。やたらと熱いこの熱が、どうか風邪の熱だけでない事を願い、俺は言った。どうか、泣き止んでくれますように、とも忘れずに願った。
「肝心な時に、俺に頼ってこないお前が一番ムカつく」
その後数秒間の沈黙が続いたが、涙はやはり流れなかった。その変わりと言ってはなんだが、頬も耳も首も、全てがほんのりと赤く染まった。ざまぁみろ小娘!せいぜい反応に困るが良いわァ!Sの心が頭の中で叫んでいるのがよく分かる。
「ご、ごめんなさい…!」
「……」
ようやく喋ったかと思えばまた謝罪か。思わずズルッとずっこけそうになった。
「お姉さんお姉さん、こういう時はネ、大人のマナーとしてはお礼を言うべきもんだと思うんだけどネ」
……ん?お礼?自分で言っといて違和感があるが、まぁ謝られるよりかはマシだ。だって謝られると何か変に拒否られた感がするし。
そうこう考えてる内に、まだ顔を真っ赤にしている秋月が顔を上げた。
「ありがとう」
心の準備をしていなかった俺にその言葉はよく染みて、それから思いがけない優しい笑みに体中の血液が巡ったような気がした。
まずったなコリャ、風邪がうつったに違いない。
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