真夜中のイジワル
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大人になってから、風邪をひいてはいつまでもズルズルと引き摺るようになった。
私がもっと小さかった時は、高熱が出るのなんて1日ぐらいで、後は驚くぐらいサッと熱は下がったものだ。食欲も急に出てきて、お粥なんかじゃ物足りなくて、あれが食べたいこれが食べたいと我が侭を言って母親を困らせた。
濡れたタオルを額におかれても、むくむくと膨れ上がる子どもならではの元気さが布団を蹴飛ばす。もう元気になったよ、と鼻声で見栄を張るのは苦い薬を飲みたくない只の言い訳で、それでもここぞと甘えたになるのはそれも風邪の症状のようなもので…。
――お母さん!私、あれが食べたい!
遂に爆発する元気は母親へ向いて、熱は下がってもまだ少し赤い顔を引っ提げて、台所で食事の準備をしている母親の足へ抱きつく。
お日様と洗剤と、それから優しい匂いがする母親のエプロンに顔を埋めるのが大好きだった。歳が大きくなっていく度にそれは躊躇われると分かっていたからこそ、風邪をひいた時はそれを理由に一杯甘えた。
――仕方ないなぁ。
困ったように笑いながら、それでも母親はいつも欲しい言葉をくれた。ちょっとだけあかぎれがある手で頭を撫でてくれる。
――じゃあ早く風邪をなおすのよ?
なおってしまえば母親にずっと甘える事は出来ない。これは風邪をひいた子どもの特権なのだ。
それでも、母親の優しい声に誘われ、私はいつも満面の笑みで大きく頷いた。母親の温かみに包まれれば、どんな風邪だって早く治るんだと信じてやまなかった。
それがいつからか、薬を飲んでもいつもより多く睡眠を取っても、風邪ウイルスはいつまでも私の体の中で燻るようになっていた。
病院に行く暇はないから抗生剤なんて無いし、かと言って1日中布団の中に居ては職場に迷惑がかかるし、元気になろうと思えば思う程それは私の首を絞める結果になった。咳はずっと続くは、微熱も続くは、倦怠感なんて増すはで良い事なんて一つもない。
どうして、風邪とこんなに相性が悪くなったのだろう?
生まれてからずっと子どものままだったら、風邪をひいた時は全身で甘えて、優しい匂いに包まれて良い夢を見続ける事が出来たのだろうか?
今ではドアを開けても誰も出迎えてはくれないし、私の体調が悪くても誰も気付いてはくれない。仕事でどれだけ嫌な事やツライ事があって「大丈夫?」なんて言葉をかけてくれる人は、家には居ない。
けど、その事に関して寂しいだけであって、悲しくは無い。私1人がこんな風に生きてる訳じゃないし、寂しいからメソメソするなんて餓鬼んちょみたいな生活は絶対に嫌だ。
お母さん、どうやら私は大人になったみたいですね。
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