年の功
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ピンポーン。
彼女と会ったその日の夜、お登瀬の指は万事屋のインターホンを押していた。しばらく待っていれば「はいはーい」とダルそうな声が聞こえて、いかにも風呂上りです!と、頬が紅潮している銀時が鍵を開けて顔を出した。
「何だババァか。言っておくが家賃はまだ払えねぇぞ」
「期待もしてないから安心しな」
「マヂでか!!!おーい新八神楽ー!もう家賃払わなくたって良いってよー!!」
「誰もそんな意味で言っとらんわァァァァアア!!!!」
お登瀬の見事な踵落としが風呂上りの銀時にきまった所で、手に持っていた袋をしゃがんで痛がっていた銀時の前に差し出した。
「あぁ?んだコレ」
「預かり物。アンタにだよ」
「……誰から」
「さぁね」
「…?」
「今時珍しく律儀で、それから面白い子だったよ」
「律儀で面白い……?」
そんなチンプンカンプンな人柄を聞いて銀時は首を傾けたが、1人該当する人物が居たのか「あー」と何かを思い出すような声を上げながら立ち上がった。しかし頭をさすってるあたり、踵落としがよっぽど響いたのだろう。
「分かるのかぃ?」
「んー…?」
渡された袋を見ながら「あー」だとか「んー」だとか言葉ではない声を上げていた銀時だったが、数秒後、確たる声で1人の人物の名前を言った。
「秋月だろ」
なんの疑いもなく言ったその名は、お登瀬には聞いた事のない名前。
「あー、今日来たのか……」
「……」
「今度いつ来るとか言ってなかったか?仕事がいつ休みだとか…」
「……当分仕事続きとか何とか言ってたけども……」
「マジでか」
どうすっかなぁ…、と言いながら洗ったばかりの銀髪をかきつつ、渡された袋を見ては軽く唸っている。その様子を見て、お登瀬は昼間彼女によく見せたニヤリ顔で小さく何度も頷き「へぇー」と呟いた。なんだよ、と銀時が怪訝そうな顔で返す。
「いやいや、何もないよ」
「いや絶対あるだろ」
「へぇー、そうかィそうかィ」
「……なんだよ」
「若いってのは良いねぇ」
「は?」
「それじゃあ確かに渡したからね」
「あ、おい!!」
一度も振り返る事もなくお登瀬は開けっ放しの自分の店へと戻っていってしまった。
「……何だってんだよ」
全く意味の分かっていない銀時の声だけが、夜の静かな江戸に落ちた。
「……すれ違っちまったか」
菓子の入った袋を見て銀時はまた頭をかいた。そうしていれば、その袋何アルか、と食べ物の匂いをかぎ付けた神楽が銀時の背にピタリと張り付く。神楽に渡してしまえば全て食べられてしまうので、続いて様子を見に来た新八にそれを手渡し「只の貰いもんだ」と彼女に言う。
「貰い物?誰からですか?」
「んー?ほら、アイツだ、秋月。お前ずっと前に傘借りたろ?」
「あぁ!あの人ですか!」
「ねー銀ちゃーんそれ食べていいアルかー?」
「だーめ。これは銀サンのもんなんです」
「ずるいアルこの天パ!!!!!!」
「ちょっと、もう夜なんですから静かにして下さいよ」
ぎゃーぎゃー騒ぐ万事屋の中心には渡された袋。お登瀬がやけに楽しげに帰っていったのは、銀時の口からすんなりと彼女の名が出たからであろう。躊躇いもなく、手がかりも少ない中、すんなりと。
若い若い、とお登瀬は1人楽しげに下のスナックで煙草をふかしていた。
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