年の功
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やっぱりかァァァアア!!!
上記はその時の私の気持ちです。
大家さんが居るカウンターの後ろにはずらりと並ぶ酒、酒、酒。そして昼間には静まり返っているこの場所、ソファーの配置の仕方、何より独特な雰囲気。
「で、アンタは銀時とはどういう関係なんだぃ?」
「(やっぱりママかこの人はァァアァ!!!)」
半ば尋問のされてるような中、「はぁ…」と曖昧な返事をしながら出されたお茶をちびちびと飲んでいた。
どうしてこんな事になったんだろう。
誰か教えて欲しい。
「いや、だからですね、私と坂田さんはなんの関係もないのですよ」
「だったらそんなに綺麗に着飾って来る訳がない」
「う…っ!」
「たかが万事屋に行くのにそこまで綺麗な身なりをして来た子は、あたしが知る限り初めてさね」
「うぅ…!」
「……で?」
「でもほんっっとに私と坂田さんは何の関係もなく………」
何故声が小さくなっていくのか。答えは簡単。大家さんの迫力が怖いからです。
まさか万事屋さんに行って、その下のスナックでママさんに問い詰められるとは思ってなかった…!面接よりも緊張するこの場に私は小さくなるしかなかった。
何より坂田さんとどんな関係だと問われても、本当に何もないのだから仕方ない。ここで「付き合ってます!」とか自信持って言える彼女の存在が羨ましい…………あれ?坂田さんって彼女居るのかな…?
「……さっきから何百面相してるんだぃ」
「え!?そんなに変な顔してました!?」
「青くなったり赤くなったり…」
「す、すいません…!」
「……アンタ名前は」
「え?」
「誰からこの菓子を預かったかアイツ等に伝えとかないと…」
「あ、それは良いんです。万事屋さん……って言うか坂田さんには何度もお世話になった身ですから、これはせめてものお礼として受け取って欲しいんです。別に名乗らなくても構いません」
すると大家さんは一瞬小さく驚いて、次には「律儀な子だねぇ」と言って笑った。お、少し怖いイメージが消えたぞ…。
「しかしまぁアンタも趣味の悪い子だねぇ…」
「はい?」
「あんな銀髪のどこが良いんだか」
「ブフッッ!!!!」
急にそんな事を聞かれたもんですから、私はウーロン茶を思いっきり吐くしかありませんでした。申し訳無いことにそれがカウンターの奥にに居た大家さんにも少しかかったようで「何さらすんじゃ小娘ェ!」と怒ってましたが、ごめんなさい、私それどころじゃありません。
「だ、だから!私はそんなんじゃ……!!」
「そんな真っ赤な顔で反論されてもねぇ……」
ニヤニヤと笑っている大家さんに私は結局何も言えずじまいです。
「誤解しないで下さいね!?」
「銀時には黙っといてやるよ」
「だから…!」
「どこで知り合ったんだぃ?」
「人の話を聞いてーー!!!!!」
その時の大家さんの顔はそれはもう楽しそうで楽しそうで、自分で熱の上昇が感じられる程、私の今の顔がまっかっかなのだろう。肩でしていた息を一度落ち着かせ、ウーロン茶を飲み干した。昼間の静かなスナックで私は一体何をしてんだか…。
「落ち着け、冷静になれ私」
「面白い子だねぇアンタ」
何とか私が落ち着いた所で大家さんは再び同じ質問はしてこなかった。引き際をしっているあたり、流石大人の女性……!
取り乱した私がやけに子どもじみて見えるのは、きっと大家さんが大人すぎるからだ、きっとそうだ。
「……自分で渡した方が良いんじゃないのかぃ?」
「お菓子ですか?いえ、良いんです。気をつかわれるのは好きじゃないので…」
「アイツが気をつかうようなタマなもんかね」
大家さんはそう言って煙草をふかす。
その言葉は私にとって意外そのものだった。
「そうですか?」
私の一言で、大家さんがゆっくりと私を見る。
「とても気をつかわれる方だと思いますよ?」
つかいすぎじゃないだろうかと言うぐらい気をつかう人。坂田さんはそんな人だ。これでも人を見る目ぐらいはある。
「へぇ?」
大家さんはまた独特のニヤリ顔をする。なんだか久しぶりに子ども扱いされてるような気がして、私はどうして良いか分からず只縮こまるだけだ。
「な、何ですか…」
「よく分かってるじゃないかぃ」
「へ…?」
か、からかわれた……!しかし時既に遅し、大家さんはニヤニヤ顔を止めずに「ま、頑張りな」と応援してくるだけ。
「だから、頑張るも何も私と坂田さんは……!」
「誰もアンタと銀時の事なんか言ってないよ。あたしゃ仕事を頑張れって言ったつもりさね」
「~~~~~っっ!!」
再びからかわれた時には私のHPは完全に真っ赤で、カウンターに突っ伏していた。それを見た大家さんが楽しそうに笑う。
「若い若い」
「ソーデスネ、私もまだまだデスネ」
年の功には負ける。
そんな事言ったら睨み殺されそうだから黙っておこう。
気分転換のつもりがここまで体力・気力を奪い取られるとは誰が想像できたでしょう。私はフラリと立ち上がり、か細い声で「帰ります…」と告げた。
「おや、つれないねぇ」
「ここに居たら私ミイラ化しちゃいそうな気がします……」
「ならまた息抜き程度にきな」
「息抜きどころか魂抜かれちゃいそうですよ……」
さすが万事屋さんの大家さんだけあります…、と呟いてみれば、そうだろう、と楽しそうな声。振り返れば皺の刻んだ顔が笑っている。悪い人でない事ぐらい、よく分かってます。(散々からかわれたけど…)
「仕事も良いけど、たまには会いにこないとアイツに忘れらちまうよ。なんせ家賃を払うのも忘れる男だからね」
「だから……、…あ、もう良いや…弁解するのも面倒くさくなってきちゃった……」
完全に魂抜かれましたよコレ。この状況で明日仕事に行けるのか私…!
スナックのドアを開ければ眩しい日の光が燦燦と江戸に降り注いでいる。それを見て不思議と心が落ち着いた。
「ふぅ…。……では大家さん、面倒かと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
「安心しな。ちゃんと渡しておいてあげるからさ」
「ありがとうございます」
一度頭を下げてから家に帰るべく歩き出す。別れ際に「今度は酒を呑みにおいで」と言われて嬉しかったというのはまだ黙っておこう。次に行った時はからかわれないように、気をしっかり持つぞ!
大家さんは私をからかう為に店へ呼んだのだろう。やっぱり人生の先輩ともなると一瞬で相手がどんな奴か分かる人も居るらしい。そして私はからかい甲斐のある奴と判断されたらしい。悔しい。
家に着いてようやく足が悲鳴を上げていたのに気が付いた。下駄と足袋を脱いだ瞬間のあの解放感。親指と人差し指の間が真っ赤になっている。どうやら鼻緒が強く食い込んでしまって軽く炎症を起こしているのだろう。江戸の住む日本人女性だというのに、和服が慣れないという現実に苦笑いをもらした。せっかくの休みだったというのに、一体何をしていたか分かったもんじゃない。リビングに行って早々と着物を脱ぎ出そうとすれば、鏡には自分の姿。
たかが万事屋に行くのにそこまで綺麗な身なりをして来た子は、あたしが知る限り初めてさね
……ホント、たかが万事屋に行くだけなのにねぇ……。
自分で呟いて、また苦笑いをしてみた。
全くもって散々な休日だ。
そう思った割には、私の顔はやけに楽しそうに笑っていた。