夜の春
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イチゴ牛乳は、この時間帯しか売っていないレア商品だったっけ?何故この時間に来たか聞いてみたら、眠れなかったからドライブついでにここに来たんだとか。
「夜は危ないんで気をつけて下さいね」
「その台詞そのままお前に返すっつの。女がこんな時間に1人で歩きやがって……送ってく。家どこだ?」
「えぇえ!!?大丈夫ですよ!!あの、えっと…すぐそこなんです!」
「遠慮すんなって」
「いや、本当に大丈夫です!」
「……そうか?」
「はい!声をかけて頂いただけでも嬉しいです。ありがとうございます」
御礼を言った後、私は自分の頬を殴りたい衝動に駆られた。素直に送ってもらえよ私イィィイ!!!何で断るんだ純情すぎる私のバカ!アホ!サラダ巻き!
「んじゃ気を付けて帰れよ」
スクーターに跨ってヘルメットをつける坂田さん。このまま帰って行ってしまう。せっかくこの場でまた会えたのに。中々無い確率を私は引き当てた訳ですよ!?これはもう神様が引き合わせてくれた筈だ!そのチャンスを拾うのか捨てるのかは私次第。どうにかして引き止めたいと思う私を許してやって下さい坂田さん!鳴り出したエンジンの音に焦りながらも、頭をうーんと悩ませていると、スクーターが目に入った。その乗り物を見て、私の愛車を思い出す。
「あの!」
「?何」
「坂田さん、頼めば何でもやってくれる万事屋さんなんですよね!?」
「そうだけど」
「依頼をお願いしたいんです!!」
おう良いぜ、と言って、坂田さんはエンジンをわざわざ止めてくれた。辺りがまた静かになる。
「で、何?」
「サドルを買っておいて欲しいんです」
「……もう一回言って」
「サドルを買っておいて下さい。後日引取りに行きますんで」
「サドルって……あのサドル?」
「自転車の座る部分にあたる所です」
「何でんなもんが必要なんだよ!!あれ単体で何が出来んの!!??」
「ちょっと事情がありまして、今サドルが無いと大変なんです。……お願い出来ますか?」
数回髪をかいた坂田さんは短く「おぅ」とだけ返事してくれた。今日の私、本当にグッジョブです。
サドルは後日私が万事屋まで引き取りに行く事となり、話は終わった。
「お休みなさい、坂田さん」
「…おやすみ」
少し言葉に詰まっていたように感じたけど、細かい事はもうどうだって良いや。道路に出ようとしているスクーターを見届けてから、私も家への道に入ろうと彼に背を向けた時、マフラーの音に混じって「おい!」と声がかかった。その主が坂田さんなのだから、私に対して言っているのだろう。振り返ってみると、坂田さんは体を捻らせてこっちを向いていた。何事だろう。
「どうかしましたか?」
「お前のな、その“坂田さん”っつー名字呼び、次会う時には直しとけよ!」
思わずこの前の事を思い出す。神社の境内でカキ氷を食べていた時も坂田さんはこんな事を言っていたような気がする。無性に恥ずかしくなった私は顔を隠したっけ?
「あと!」
「ま、まだ何か…」
「この前新八に傘貸してくれたんだってな!ありがとよ!」
今度はすんなりと、おやすみ、と言ってくれて帰って行った。別に見返りを求めて新八君に傘を貸した訳では無いけど、坂田さんから御礼を言われるというのは何ともむず痒く、それから嬉しかった。…よっしゃ、とガッツポーズを決める私の周りには誰も居ない。手にはサラダ巻きとお茶が入った袋…。それは深夜のコンビニ前。
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