寄ってけ泥棒!
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ここに1人、女スナイパーという称号を手に入れようとしている女子高生が居た。
「っしゃー!お菓子ゲットしたアル!!」
祭会場を模したブースに入った神楽とお妙は、まず最初に定番とでもいうべきヨーヨーを楽しんだあと、神楽の大好きな射的に乗り込んだ。
乗り込んだ結果、店の人間を泣かせる事態に発展していた。
神楽のつぶらな眼を隠す黒いサングラスのおかげで雰囲気がじゅうぶん出ているが、どこから出したかは一切不明だ。
残すところあと一つ、を目前にした時神楽の眼は完全なる女スナイパーになりつつあった。お妙が笑顔で声援を送る声と、店の人間の泣き声が混じり合う中、混雑している廊下を全速力で駆け抜ける何かが居た。
「あ、エリー」
見た目的にはZ組のマスコットキャラ的な立場になりそうだが、中にオッサンが入っているという疑惑の為にはずれてしまったという過去を持つエリザベス。一体何故あんなに必死に走っているのか。
ここでスナイパーの血が今さっき流れ始めた神楽の闘争心がうずく。
持っていた銃を廊下で尚も構え、殻の剥けたゆで卵の様な頭へ狙いを定めた。
「狙った獲物は逃がさないアル!!」
そして発射されたスポンジ弾は見事に命中する。
何しやがんだ小娘、と書かれたボードを見せながらエリザベスが神楽にずかずかと近づいた時、「確保ォ!」という声が廊下の奥から聞こえた。一体何事だと思っている間に一気に風紀委員が押し寄せてきて、エリザベスを取り囲み縄で雁字搦めにした。急に行われた捕物は、何かのパフォーマンスだと勘違いした一般客の拍手と歓声に包まれる。
そんなイベントがあると一切聞いていない神楽達は顔を見合わせて首を傾げ、連行されていくエリザベスを黙って見送っていた。
「お妙さぁあぁあん!!!こんな所に居らっしゃったんですねぇぇええ!!!」
「あらゴリラさん、また動物園から抜け出したのね」
望遠鏡越しではなく、ようやく本物と会えた近藤はエリザベスなどそっちのけでいつもの如く一方的な求愛劇を繰り広げる。
「今日は小さなお子さんも遊びに来てるから危険だわー、どうしようかしら……」
「お妙さん!是非今日のフォークダンスはこの近藤勲と!!!」
「あ、ちょうど良い所にこんなものが……」
そう良いながら構えたのは神楽から取った銃だった。弾はまだ数発残っているそれを、迷う事なく近藤の額へむける。
「早く始末して動物園に連絡しなきゃ。葬儀の準備をお願いします、って」
「お妙さぁぁああん!!!??」
急に始まったゴリラ捕獲劇場もなにかのイベンとト勘違いした観客が、やんややんやと喜んでいる。
銃を取られてしまった神楽の横に、呑気に欠伸をしている沖田が立った。
「あーぁ、せっかくの文化祭だってのに委員会の仕事ばっかでやってらんねぇなー」
「うぉーい嘘つくなヨ!頭につけてるのは何だ沖田!言ってみろ沖田!それは祭でよく見かけるお面じゃないのか沖田!」
よく見れば左手には綿菓子を持っている。彼なりにエンジョイしている様だ。
「ハルとは合流してないんですねィ」
「連絡が全くこないアル」
沖田が先ほど彼女を見かけたのは20分以上前になる。復讐計画の準備に手間取っているのだろうか、と思い携帯を見てみるが、なんの連絡も入っていない。メールすら見る余裕が無いのかもしれない、とも思った。
「エリザベスは捕まえたから良しとして……後は高杉ですねィ……」
「指名手配中アルか?」
「男の頭を持って校内を徘徊してるらしい」
「マジでか!!!」
山崎の報告と多少ズレがあるが、まだそれなりに簡潔で分かりやすい情報を伝えた。神楽はもちろん驚いた。
「昨日のハルみたいに賞金は出るアルか?」
「……………」
賞金、賞金、賞金……。その単語を沖田は頭の中でぐるぐるまわしてみる。
昨日の赤ずきんの逃走劇は、微々たるものでありながらも賞金がかかった。それが小さな額であったとしても、文化祭という波にのまれ意味も分からずテンションの上がった馬鹿な生徒達はこぞってイベントに参加した。
実は偽赤ずきんを作って相手を混乱させようと提案したのは沖田。全てはイベントを面白愉快にする為だ。校内に散らばる無数の赤を皆が必死になっている追いかける様はとても奇天烈だった。
そんな様子を渡り廊下の窓から眺めながら沖田はケタケタ笑い、挙句の果てには自分も参戦しようとしていた。
そして沖田は思った。
面白い事は全てこの祭に放ってしまおう、と。
「高杉の指名手配と一緒で、ハルもまだ逃げ回ってやすぜィ」
「まだ終わってなかったアルか!?」
うんうんと楽しそうに頷く沖田の姿はまぁ珍しい。人は楽しい悪巧みを実行する時、腹に抱えている黒いものは砲丸投げよろしく遠く彼方に投げ飛ばし、年相応のこんな笑みを作ってくれるらしい。
「ハルには俺から連絡しとくんで」
「ちなみに捕まえたら何くれるアルか」
「250円」
「やすっっ!!」
すかさず突っ込んでしまったが、神楽とて文化祭の波にのまれた1人だ。失いかけていた闘争心が徐々に取り戻され、射的でとった巨大なぬいぐるみを肩車して意気込んだ。これは沖田が楽しく1日を過ごす為の計画の一部だと知らず…。
「姉御!今日は私たちもハルを狩りに行くアル!!」
その声と同時に発砲音が響き、やはり勘違いしていた観客から歓声が起こったのだった。
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情報の逐一は沖田から彼女に送られた。もちろん自分も追いかけられる対象だという事だけはのぞいて…。
携帯は、沖田以外の同級生からの連絡も重なりひっきりなしに鳴った。
現在許可を取って保健室にて作業中の彼女は、ベッドで休んでいる人間が居るので、あまりにもうるさい携帯をサイレントモードに切り替えた。
音が鳴らない替わりにチカチカとお知らせランプが光る。
「こんなに携帯が鳴るなんて珍しいなぁ……」
「急用か?」
「いえ、そんな訳では無さそうです……」
既に10件以上たまっているメールボックスを開いた。
「ところで夏目、生徒会長の叫びを聞いたら俺の薬は返してもうらうからな」
「分かってますとも。しばらくの間我慢して下さい。計画が終わればお返しします!」
「……で、どんな内容のメールなんだ?」
「うーん……」
文の雰囲気はそれぞれだが、皆一様に自分が今居る場所を知りたがっていた。神楽に至ってはハートの絵文字付きで「今どこ?」だ。神楽がハートの絵文字を使う事はまずない。嫌な予感しかしなかった。
「モテモテじゃねぇか赤ずきん」
「いや…これは嫌な予感がしますよ先生…!」
「考えすぎだろ。フォークダンスのお誘いだったりしてなぁ」
「服部先生までフォークダンスの事を持ち出すんですかー?私には関係の無い行事ですよ」
3年生になって初めて後夜祭というイベントが生徒達に根付いていたかがよーく分かった。分かったところで、特に気にせずてきぱきと作業を進める。
6種類あるプリントの束からそれぞれ1枚ずつ取って、1つの冊子の様にまとめる。その単純な作業はそれはそれで楽しいが、彼女は今すぐにでも遊びに行きたかった。なにしろ最後の文化祭である。
「先生!あと10分ぐらい頑張ったら遊びに行かせて下さい!!」
「駄目だ。俺の宝を奪った罪は重い」
「奪ってないです借りただけですー!!」
「コラ、ベッドで寝てる人間が居るのに大声出すなバカタレが」
「(ちきしょー!)」
生徒指導担当でもある服部は何かと口が立つ。ああ言えばこう言う、と表現したい所だが、彼の言う事はまあ正しい。同じ人間と言えど、生きてきた年数とはまた違う空気を彼等職員は持っている。
「やっぱり先生は先生です」
「何だそれ」
「良いんですこっちの話です」
拗ねた表情で黙々とプリントをめくる彼女の向かいに座り、服部は壁にかかっている時計をぼんやりと眺めた。手伝って下さいよ、という声も一切届かない。
「ちょっと服部せんせー!!」
「いや~平和だな~」
「生指の先生は仕事が無いんですか!」
「失敬な、山ほどあるから授業の準備はお前に手伝ってもらってんだよ」
「じゃあ服部先生も手伝って下さいよ!」
「さて俺は生指のお仕事でもしてくるかなー」
「わぁぁああ酷いです!!」
彼女の叫びも虚しく服部は席を立ち上がったと思えば、廊下から聞こえてきた「頭ァァア!頭がァァアア!!」という叫び声につられ保健室を出ていってしまった。ただの野次馬根性である。
もしかして生徒会長がマネキンと出会ったのかと思ったが、「頭がァァアア」という突っ込みは流石に無いだろうと思い、作業を続けた。放り出して遊びにいく事も出来るが、今出て行って同級生に見つかったらとても面倒臭い事になりそうだったので、保健室で息を潜めていようと考えた。赤ずきんの勘を侮ってはいけない。
こっち見てよー、と言わんばかりに光り続ける携帯。滅多にかかってこない山崎からの着信も入っていた。なんだなんだ一体何が起こってるんだ、と思いながら素直にかけ直してみた。Z組の一員であれ、山崎への信頼は何故だか厚い。
何回かコール音が鳴って、やがて繋がった。
「もしもし」
「もしもし」
携帯を耳に当てたまま、思わず振り返った。気のせいでなければ、知っている声がベッドの方から聞こえた様な気がしたのだ。
