寄ってけ泥棒!
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最終日という事もあり、昨日より一般客は増えたらしい。門に立っている受付係が忙しそうにしているらしいが、校内を見回る風紀委員もそれなりに忙しくなった。
大学生が校内で喫煙していたら土方の鋭い目線だけで威嚇し、言う事を聞かなかったら連行し、また時に本校生徒に声をかける輩が居れば現行犯逮捕をし、挙句の果てに朝から職員室で昼寝を楽しんでいた3Zの担任の顔に「職務怠慢!」と書かれた紙を貼ったりと、生徒会顔負けの忙しさである。
廊下は大勢の人間で溢れ返っている。
時々肩をぶつけながら、土方・沖田ペアは人の多さに舌打ちをして歩いていた。風紀委員という腕章を付けていなければ、彼らの方がよっぽどガラが悪かった。
「なんの事件も無く終われば良いですねィ」
「昨日は散々だったからな」
「ハルも災難な奴ですねィ」
「お前結構楽しんでただろーが」
「あ、バレやした?」
逃げる赤ずきんを保護しなければいけない風紀委員・沖田だったが、キャーキャー言いながら逃げていた彼女を見てると妙に楽しくなってきて、一瞬狩る側に寝返った所、我らが担任に「コラ」とやる気のない喝をいれられ、風紀委員に戻ってきたという事件があった。
結局彼女は屋上で時間をつぶし、見事に逃げ切ったのである。
あんな騒動は、土方はもう起きて欲しくなかった。
「モテモテ赤ずきん劇場でさァ」
「サブタイトルは”不運な彼女の学生生活”だな」
「後夜祭も誰かに誘われてんですかねィ」
「あー、アレか……」
「因みに土方さんは」
「後夜祭は自由参加だろ」
「ははーん、踊る相手が居ないんですねィ。寂しい方だ」
「あ?そういうお前はどうなんだよ」
「俺は踊る相手なんざ腐る程居るんで」
ニヤリと笑う沖田に突っ込んでやりたかったが、彼が言う事はあながち冗談にも聞こえなかったので舌打ちだけを返しておいた。確かに王子様フェイスの彼は、相手には困らないだろう。
しばらく廊下を歩いていると、王子様が「あ」と声をこぼした。
大勢の人間が行き交う廊下で、家庭科室にある筈のマネキンがひょこひょこと頭を上下に揺らしながら歩いている。異様な光景だ。
2人は人の波をかきわけマネキンのもとへ向かうと、そこには先程話題に上がっていた彼女がマネキンを抱えて歩いていた。
「ちょっとちょっと何ですか。怪しい者ではありませんよ」
「十分怪しいだろ」
一般客の入れない管理棟まで引っ張られた彼女は、風紀委員から職務(?)質問を受けなければいけなかった。その間にもマネキンは大事そうに抱えている。
「決して怪しい者ではありません」
「そのマネキンはどうした」
「家庭科の先生から借りてきました。ちゃんと許可は取ってあるよ!」
「あ、復讐計画に使うやつか」
「総ちゃんもう忘れちゃったの?」
朝から聞かされた馬鹿馬鹿しい計画をフと思い出した沖田は、土方にも事の一切を説明した。呆れ混じりのため息をつかれたのは、仕方のない事である。
「お前なー……」
「止めないで土方君!私は本気よ!許すまじ生徒会!」
「そんなアホらしい事誰が止めるか。寧ろ勝手にやってくれ」
「ありがとうございます土方副部長!」
礼儀正しく腰を曲げて頭を下げれば抱えていたマネキンの頭も一緒に下がる。それが副部長様の頭に直撃した。
もの凄い音がして、顔を上げた時に頭を抱えもだえている土方が居たが、彼女は敢えて気にせず沖田へ振り返る。
「じゃあ私は生徒会室に行ってくるね。なんか面白い事件が起きたらすぐ連絡して?私も遊びに行くから」
「了解でさァ」
そうして颯爽と人の流れへ突っ込んでいく彼女を2人は見送った。ひょこひょこと揺れるマネキンの頭が妙に面白かった。
「……アイツに後夜祭は無縁でしょうねィ…」
「…だろうな」
軽くたんこぶが出来た場所をさすりながら、土方はため息まじりに呟いた。
そうして、土方にため息をつかせるのが上手な彼女は、周りの好奇の目をものともせずマネキンを抱え生徒会室を目指す。途中何度か人とぶつかりながらその度に頭を下げては謝り、マネキンアタックを悪気もなく相手の頭頂部に披露した。あれはマネキンではない、只の武器だ、と後の被害者は語る事となる。
昨日よりも多い来校者は、文化祭を更に盛り上げていく。各教室での催し物も、気のせいでなければ昨日より活き活きしていた。
特に3年生は最後の文化祭だ。
Z組と同じくクラスの仕事が無い生徒は、見かけは高校生頭脳は小学生を合い言葉に、笑い声を上げながらあちらこちらと店を茶化して回っている。
皆が楽しそうな顔をして歩いている廊下は活気に溢れていた。その空気を胸一杯に吸い込んで、彼女も意味もなく楽しくなったりした。
途中「ハル」と声をかけられた。
「あ、お母さん!来てたの?」
「昨日は仕事で行けなかったけど、今日はお休みだからね。……今朝行くって伝えた筈だけど聞いてなかったのね」
トーストを食べるのに必死だったので、そんな話をされた覚えは一切無かった。
生憎昨日の劇は見る事は出来なかったが、友達の母親が取ってくれたビデオをDVDにダビングしてもらう約束をしてもらっているので安心だ。あの変てこりんな劇を、家族3人でソファーに座り見るのだろう。
「………その方が後夜祭のダンスの相手ね?」
「違うよ!?このお方は今から実行する計画の共犯者なんだから!」
「……………貴女が幸せそうで母さんは何よりよ」
「その哀れんだ目は何!?」
「じゃあ私はもう少しブラブラしてから帰るわ」
「うん!案内してあげたいんだけど御免ね。私は復讐の鬼にならなきゃいけないから」
「御武運を~」
娘が年間パラダイス思考回路を持っているのは知っているので、母親は特に突っ込まず手を振って見送った。
彼女なりに文化祭をエンジョイしてるのが分かっただけで安心した。
一時、元気のない時期があったのを母親はもちろん気がついていた。目を真っ赤に腫らして帰ってきた事も知っていた。濡れタオルで目を冷やして上手く誤魔化せたと思ったら大間違いだ。
彼女は彼女なりに必死に頑張っている事に対し、家族としてもちろん応援してやりたい。人ごみに消えていく背中を見て、いつの間にかあんなに大きくなった事に少し驚いた。しかし揺れるマネキンを見る限り、この先もきっと彼女の性格は変わらない。それが何故だか面白くて、嬉しかった。
彼女が…というよりもマネキンが角を曲がり姿が見えなくなった時、入学式で見た事のある職員らしき人間がぶつぶつ呟きながら母親を追い越していった。
「あの赤ずきん野郎!俺のボラギ●ールとマネキン持ってどこ行きやがった……!」
背中に疲れしか背負っていないその職員を見て、母親は心の中で「いつも娘がお世話になっております」とだけ挨拶をして、なんとなく合掌した。