寄ってけ泥棒!
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さすがに息が切れていた。
頭を覆う赤い頭巾が重くて投げ捨てた時、右腕を誰かに掴まれる。しまった!そう口に出した途端、彼女は飛び起きたのだった。
「はぁ……夢で疲れちゃった…」
朝食のパンをかじりながら母親に愚痴をこぼした。
昨日の生徒会が面白半分で企画した「WANTED☆赤ずきん」のお陰で、足が筋肉痛によって悲鳴を上げている。
散々逃げ回った結果、学校の屋上という最高の隠れ家を見つけた彼女は、文化祭1日目が終わるまでずっとそこでゴロゴロしていた。途中、高杉が退屈だと言って帰った後は、合流した神楽とのんびりお喋りを楽しみ、たまに様子を見に来てくれる銀八と時間を潰したりした。
「楽しそうで何よりね」
「楽しくなんかないよー。あ、でも劇は楽しかったかな」
「今日で最後の文化祭でしょう?楽しんでらっしゃい」
「もちろん」
ハムスターの様に口一杯にパンを詰め込んだ彼女は、高校生とも思えぬ幼い顔つきで笑った。寝起きでぴょこぴょこ跳ねている髪が面白い。
先に食べ終わった父親の皿を片付けながら、母親は「相手は決まったの?」と唐突に聞いてくる。相手?一体なんの話か分からなかった。
全く理解していない娘を見て、母親は同情でも混じっていそうな失礼なため息を吐いた。
「文化祭の最後の後夜祭で男女1組みのフォークダンスがあるんでしょう?…あーぁ、華の女子高生がそんな事に一切興味を持たないなんて……」
エプロンの裾で流れてもいない涙を拭く真似をして、母親は台所へ戻っていった。
一方置いていかれた彼女は、十分咀嚼したパンを飲み込み、残っていた牛乳を豪快に飲み干して「あぁ」と呟いた。
「そういや、そんなイベントあったっけ」
私には関係ありません、とでも言いたげに2枚目のトーストにかじりついたのだった。
**********
1年生の時の後夜祭は、先輩達の片付けの手伝いをさせられて参加出来なかったし、更々する気も無かった。大量のダンボールを運びながら、校庭から聞こえるフォークダンスの曲を口ずさむだけで終わった。
2年生の時の後夜祭は、同じく片付けを手伝わされて参加出来なかった。確認の為に言っておきますが、参加する気は無かった。校庭から聞こえるフォークダンスの曲を口ずさむ事なく、早く家に帰りたいなー、とぼんやり思いながら大量の発泡スチロールを運んでいた。
そして、やってきた最後の後夜祭を控えた今日、彼女はやはり興味がわかなかった。
一般客が後30分ぐらいしたら入ってくる。仕事を昨日で終えてしまったZ組は特に準備する事も無いので、教室でぐぅたらと開始時間を待っていた。
みなの話題はもちろんフォークダンスだった。
「優勝商品とか出ないのに、何でみんなそんなに踊りたがるの?」
「ハルにはラテンの血が流れてないアルかぁ!!」
「自信持って言えるわ。流れてない。しかもジャンルはラテンなの!?」
「これだから赤ずきんは…」
「赤ずきんの話は止めて。昨日の逃亡模様を思い出す……」
楽しい楽しい1日目を生徒会によって潰された彼女は、密かに復讐計画を練っていた。その内容とは、家庭科室にあるマネキンを拝借し、生徒会室にこっそり忍び込んだ後、生徒会長の椅子に堂々と座らせておくのだ。部屋に入った時の突っ込みの第一声を物陰から聞いておき、評価してやろうという魂胆である。それを今朝沖田に話したら鼻で笑われてしまったが、まあ良い。
「ちなみに神楽は誰と踊るの?」
「姉御」
「へぇー、そうなんだ」
男女1組と言われているが、全く疑問を持たず笑顔で頷いた彼女の小さな頭を、登校してきた美しき般若がガシリと掴んだ。
「そこは"お妙は女の子でしょ"と言うべき所でしょう?」
「イダダダダダ!!!怪力ストップ!ノー!怪力!」
ようやく解放されたが頭が受けたダメージは大きく、押し寄せてくる頭痛に「あぁぁあああ」と頭を抱えて項垂れた。その席の横に、お妙が爽やかな笑顔を携えたまま座る。
「一緒に踊るのは本当の事よ?」
「え!?男女じゃなくても良いんだ!?」
「知らなかったアルか?」
「知らなかったー!どうして私は誘ってくれなかったの!」
「だってそういうのに興味無さそうじゃない」
「まぁ……そうだけど…」
興味も無かったし、しなければいけない仕事(片付けの手伝い)もあったので、一度も「出てみたい」と思った事は無かった。無かったが、今思えばそれは、とても楽しい事を無視していたんじゃないかという後悔が沸いてきた。神楽とお妙が居たらどれだけ楽しい事になるか、彼女はよーく分かっている。
「私も一緒に踊りたい!」
「そりゃ私たちだって一緒が良いけど、2人で1組だから……交代で踊りましょうか?」
「うん、それが良いアル」
2人がそう言ってくれて心は弾んだが、何だか申し訳ない気持ちが徐々にこみ上げてくる。そこまで参加したいか、と聞かれれば自信満々に首を縦に振る訳ではない。只2人と楽しい事が出来ればそれだけで良かった。
「あー、ごめん、やっぱり良いや!後輩に頼まれてる事があったの忘れてた!」
「そうなの?」
「終わったら行くから!その時は一緒に踊ってね」
「了解ヨ~」
屈託の無い彼女の笑みに、2人はそれが嘘だとは考えもしなかった。
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