奇天烈文化祭
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油断している時にピンチというのは訪れるというもので、彼女は痛む腰をさすりながらじりじりと近寄ってくる同級生とにらみ合いを続けていた。
一方は赤ずきんを捕縛する為、一方は捕縛されない為。のんきに携帯を取りに行ったのが間違いだった。
さっさと携帯を取って2人の居る屋上へ戻ろうと駆け足で降りていた時足を踏み外してしまい、足首をひねりバランスを崩して横の壁で腰を強打してしまった。痛みに打ちひしがれていると、運悪く同級生に見つかってしまい「300円の為に捕まれ」と言ってきた。
「やったぁ値上がってる……って300円か!安い!」
「何言ってんだ、300円もあれば2-1で作ってるクレープ(小)が2つも買えるぞ」
「友人とクレープどっちが大切だ!」
「クレープ」
「貴様はクレープの為に友人を捕まえるのか!」
「おう」
この薄情者ォォオオ。そんな叫びがひっそりとしている特別教室棟の階段に響きわたった。
ニコニコとしている笑顔は、さっきラムネを飲んでいる時に向けられた笑顔と少しも変わらず爽やかだ。しかし手の構えは明らか少林寺である。
「やばい狩られる!」
「俺はクレープが食べたいんだ」
「さっき何か食べてたじゃん!」
「いつ」
「中庭でマジックしてた時!」
「ああ、あの時?俺が今食べたいのはクレープだから」
「ちくしょう!クレープの為に捕まってたまるかァアア!」
剣道部根性を出し切り爽やか少年を振り切ろうとしたが、あいにく手を掴まれてしまい御用となった。やはり爽やかな笑顔が憎たらしい。
「ヘルプミー!!」
「さて、生徒会に売りに行かないと……」
こんな事なら日向ぼっこを続けておけば良かったと後悔したが、捕まってしまっては仕方がない。このまま連行されてしまうのかと思えば逃げる気も起こらなかった。しかし手は離される事なく、かと言って急いで生徒会室に向かってる様子もなく彼はいつものリズムで歩き出す。これではまるで普通に手を繋いで歩いているだけだ。
「別に逃げないよ?」
「いやいや念の為」
彼はそう言って小さく笑った。その顔がやけに楽しそうで、この同級生のそんな顔が見た事のない夏目には少し違和感があった。ああこんな風にして笑う奴だったんだ、と捕まっている事も忘れ人間観察をしている。
それにしても300円は安すぎやしないか。彼女は生徒会に向けてそう文句を言ってやろうと決めていた。屋上にもう戻れないのは残念だが、自ら敵陣に突っ込むのも面白いかも、と男前な赤ずきんは「ふんっ!」と意気込んだ。妙に男前な掛け声に、彼はまた笑う。
「ホントお前って面白いよな」
「そう?」
「赤ずきん面白かったよ」
「ありがと!」
「そのずきん似合ってるし」
「へへへ」
「可愛い可愛い」
ありがとう、と言おうとしたが、どうにも言葉が出なかった。さらりと飛び出してきた褒め言葉に少なからず動揺した。この同級生はこんな事を言う様なタイプだっただろうか?気のせいでなければ、繋がっていた手に力が入った。
その時だった。
赤ずきんを後ろから軽く引っ張られ、顎の下でくくっていた紐が喉に食い込み「ぐえぇ」と可愛らしげのない悲鳴が出た。
「お前なんちゅー声を……あれ?何してるんですかこんな所で」
赤ずきんの背後に誰かが居るのだ。彼女は紐のせいでそれどころではない。
「ぐるじ~!ちょ、誰ですか!」
自分で赤ずきんから脱出し、ついでに繋がれていた手も隙を見て払い、振り返る。初雪色が視界にうつった時、同級生に手を掴まれた時は比べ物にならないぐらい心臓が大きく鳴った。
「せ、先生!」
「あちゃー、担任の援護が来たんじゃ無理だな」
「そういうこった、帰れ帰れ。餓鬼は大人しくんまい棒でも食っとけ」
「じゃあまたな夏目」
「おとといきやがれー!」
腕を振り回して威嚇している赤ずきんを、銀八はひじょうに呆れ返った顔で眺めていた。やがてその視線に気付くが、何も無かったかの様にずきんを返して下さいと言った。
「お前なぁ…。良いか、周りは敵だらけだ、油断せずに行け」
「ああそれなら大丈夫です、さっき階段から落ちましたけどこうやって無事ですし」
「何がどう大丈夫なのか50文字以内にまとめてこい」
頭を小突かれて、それが不覚にも嬉しかった。おそらく後を追って来てくれたのであろう銀八の優しさも嬉しい。案外優しさの塊であるのは重々分かっていたつもりだが、こんな風に接してこられると複雑な気持ちも多少はあった。悩める年頃は色んな出来事と思惑が重なりひじょうに忙しい。
「さっさと携帯取って屋上に戻るぞ」
さっきの同級生の様に手を掴まれる事は無いが、それでも後ろを歩けるだけで心は不思議と満ちていた。
ありがとう先生、と声を掛けると、おう、と返事がかえってきた。
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