奇天烈文化祭
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いや~どうなるかと思ったけどオチにはしっかり持っていけたね。
嬉しそうに笑いながら赤ずきんを取ったのは夏目だった。控室となっている理科室は、劇の熱気が冷めない生徒達のお陰でおおいに盛り上がっていた。
「途中色々ハプニングもあったけど、楽しかったわ」
高校生とは思えないお妙の綺麗な笑みだが、頬には返り血が残ったままである。誰の血であるかは最早誰も突っ込まない。さっき保健室にZ組の誰かが運ばれたが、誰なのかも追及しない。
ナレーションで頑張った山崎は精根尽きていて、神楽に絡まれても完全無視を決め込んでいるし、高杉は既にこの場に居ない。仕事が終わり次第帰ったか、どこかでさぼっているのだろう。風紀委員の副委員長である土方は早速委員会の仕事へ戻る。沖田は変なアイマスクをつけて鞄を枕代わりにして並べた椅子の上で寝ていた。器用なものだ、と感心しながら声をかけた。
「ねえ総ちゃん、教室まわらないの?」
「俺ァ狼との戦いに疲れたんでちょっと休みまさァ」
「ふーん……神楽とお妙ちゃんはどうする?」
「私は一緒に回るアル!」
「私は休憩しとくわ」
「そう?…あ、ならお妙ちゃんの分のお昼買ってくるね!」
「ありがとう」
「じゃあ行こっか神楽!…って狩人の格好のまま行くの?」
「ハルも赤ずきんだけかぶってけヨ」
「う~ん………そうだね、今日一日ぐらいはかぶっとこ」
銃を背負った狩人とセーラー服に赤ずきんをかぶった愉快な2人は、劇の疲れを見せる事なくわいわい楽しそうに部屋を出て行った。
「……元気な奴等でィ」
呆れた様に呟いた沖田の言葉に、そうね、とお妙は小さく笑った。
劇が終わり、ようやく文化祭の空気に浸り始めてきた2人は、2年生の店で買ったラムネを飲みながら校内を歩き回っていた。途中でZ組とすれ違う時は労いの言葉を忘れず、非常に心が満たされた状態で今は2階から中庭の出し物を眺めていた。中々の難易度の高いマジックショーに、思ったよりギャラリーが集まっていた。
冬が近づいてきたこの時期、外の寒い風にあたりながら見るより校舎の中から見た方がよっぽど利口だ。校内を知り尽くしている在校生ならではの知恵である。
「おー、凄い。結構練習したっぽいねーあのクラス」
「Z組には負けるアル」
「あはは」
「……にしても、ヅラはともかく銀八先生まで第二幕で登場するとは思わなかったネ」
「……それは確かに………まあ劇にハプニングはつきものだよ」
ねじ曲がったストーリーの中で、王子に扮する桂の「手首を斬り落とせばいいのか」発言にも驚いたが、助けてくれたのが銀八であった事も驚いた。
今回の劇は、赤ずきんというよりも、生徒指導の仕事を全くしていない銀八の為の劇となった。最終的なオチを人権やら道徳的なもんにすりゃどんな劇でも全員納得すんだろ、と言われ、上手い事のせられたのである。全ては暴君監督の腕があってこその結果。そうして、お妙のお妙による銀八の為の赤ずきん劇場は終了した。最早リハーサルとは全く中身の違う話になったが、取りあえず拍手喝采のもと終われるのは中々気持ちが良かった。
終わり良ければ全て良し、という言葉を最近大切に思うようになった彼女はグビッとラムネを煽った。
「お、良い飲みっぷりアルな」
「ふはははは私にも色々あるのだよ」
「ふーん………あれ、あいつハルに手ェ振ってるヨ?」
「え?どこ?」
「ほら、下でマジック見てる人の中に」
「…あ、ホントだ。おーい」
「……何アルかあの爽やか笑顔。……間違いないネ、ハルに気がある男とみた」
「マッカーサー」
「それを言うなら“まさか”ネ」
Z組では中々見れないあの爽やかな笑顔。たまに沖田が悪だくみを考えた時にああいった顔をする場面が多々あるが、あの男子生徒の様な透明度100%のは中々見れない。
名前も顔もはっきり覚えている。1年生の時に同じクラスだった男子だ。最近よく話しかけられる様になったのを不思議に思っていた所だった。
「絶対ハルの事好きアル」
「そうかなぁ」
「…この前の別の奴からの告白は断ったアルか?」
「えー、あー、うーん……」
ここまでストレートに聞かれると恥ずかしいものがあるが、隠しててもいつかは彼女の耳に届く事だろうと諦め、小さく首を縦に振った。それは神楽にとって別に意外でも何でも無かった。
「ハルは色恋沙汰に興味が無いからつまんないネ」
「そんな事ないよ?」
「じゃあ好きな男の十人や二十人居るとか?」
「そこは普通一人や二人じゃないの!?」
「え!?居るアルか!?」
「…………………」
早弁女王の神楽と言えど、こういった青い話にはやはり食いついてきた。しかし目をキラキラと輝かせて見てくるのも相手にせず、今から鳩を出しまーすとか言っている同級生にやる気の無い拍手をしている。
「誰!?誰!!?」
「…………………」
多少は加減された力で肩を揺さぶられるが、そこは流石神楽、右に左へと大きく揺れて危うくラムネ瓶を下に落としそうになってしまった。
ぐらぐらと揺らされる脳内で浮かんできた言葉は、終わり良ければ全て良し。あれは全て終わった事だと思いこめば、口にするのに躊躇いはあまり無かった。あれは終わった事。そう自分に言い聞かせてポツリと呟いた。
「坂田銀八先生」
神楽の手が、ぴたりと止まる。
「坂田先生が好きだったの。あ、もちろん“好きだった”だから」
「え……えぇぇえええぇぇええええ!!!?」
神楽の絶叫に乗って、白い鳩が数羽大空へと羽ばたき大歓声が起こった。
**********
最近夢の中でも意識が持てる様になった。
今まさに夢の中に居る銀八が思うのは、こうだ。「またこの夢かよ」
沢山の人に囲まれて笑う赤ずきんこと夏目が、離れた所から自分を見てくれていた銀八に気付き、口を開く。
その声はやはり、どうしても銀八の耳には届かないのだ。
それは丁度13時を回った頃だった。あと2時間もすれば文化祭一日目が終わり、最終日の明日に向けて各自片づけと準備をすれば今日を終えれるという時に、Z組の出番が終わった銀八は職員室の後ろにあるソファーで昼寝をしていた。もちろん全員出払っている職員室は静かなものだが、外が何やら騒がしい。
そんな時、不躾にも挨拶無しに職員室へ飛び込んできた生徒が数人。聞き間違いでなければ「銀八先生!」と呼ばれている様な気がする。
「はいはーいっと。後ろですよー」
気だるそうに返事をすれば、見慣れた面々が近付いてきた。
「まーた寝てやがったか」
「あ、お母さん」
「テメーの母親になった覚えはねぇ!!!」
赤ずきんの母として劇に登場していた土方と、ナレーションで頑張った山崎が少し息を切らしながら一枚の紙を銀八の前に差しだしてきた。そこにはWANTED赤ずきんと書かれている。
「大変なんです先生。赤ずきんに賞金がかけられちゃって…」
「はあ?」
「生徒会の思いつき企画だとよ。あまりにも赤ずきんの反響が大きいから、文化祭を盛り上げる為に赤ずきんを指名手配したらしい」
「みんな必死に探しちゃって大変なんですよ」
「…で、賞金はいくら?」
「100円」
「安いな!!!」
「みんな面白がって追いかけてるだけなんです。逃げるハルちゃんと守るこっちとしては迷惑極まりないですけどね」
「今はZ組の女子が偽赤ずきんになって校内を回ってくれてる。その間にどっかに隠れたらしいが、連絡がつかなくて俺達も分かんなくなっちまったんだよ」
「先生の所に居ると思ったんですけど違いましたね」
ハルちゃんを見つけたら保護をお願いしますねー、と言い残し、風紀委員は忙しそうに職員室を出ていった。狼に襲われたりおばあちゃんに食べられそうになったり、話の流れ上仕方のない事ではあったが、中々の不運具合に同情の念を抱かざるを得ない。保護してやりたいのは山々だが何処に居るのか見当もつかない。
昼寝を取るか教え子を取るか一瞬考えたが、ここはやはり教え子だろという事で、銀八は重い腰を上げて職員室を出た。なるほど、確かに紙を持って何かを探してる様に走っている生徒をすぐに見かける事が出来た。
運動場は駐車場になっているので逃げ込んだりはしていないだろう。体育館は他のクラスが劇をしている。教室はもちろん商い中だ。考えれば考える程、彼女が逃げ込む場所はこの学校には無い。一般の客から逃げ切るとなれば、やはり特別棟しかない。あそこは今関係者以外立ち入り禁止となっている筈だ。
それなりに赤ずきんの逃げ場所の事を考えてやりながら歩いていると、ヒッソリとした静けさを持っていた職員室前の薄暗い廊下を、赤いずきんをかぶった生徒が横切った。灰色に赤、非常に目が覚める色合いだが、銀八にとってはそれよりも別の意味で目が覚める光景だった。
まず思った事は、この光景を自分は知っている、という事だ。
彼女が自分に対して何かを伝えようとしてくれたあの時の光景と、酷く似ていて息が詰まった。何故こんなに自分が動揺するのかは分からない。
「夏目」
呼びかけた声が思ったより情けないものだったが、「しっかりしろよ」と突っ込んでくれた心の中の自分のお陰で少しずつ冷静さが戻って来た。
銀八の声に反応してゆっくり振り返ってくれた赤ずきんを見て、その冷静さはやがて怒りへと変わりつつあった。
「お前かよ!!!!!!」
「何ダヨソノ言イ方ハ。私コソ真ノヒロイン“赤ずきん”ダローガ」
赤いずきんばかりに注目していて、背格好や肌の色まではしっかり見ていなかったのが銀八の大誤算であった。
ヒロインとは程遠い、場末のスナックの匂いがするキャサリンに声をかけてしまった自分が妙に恥ずかしくなった。落ち着いて見てみれば彼女とは似ても似つかない。
「なんか損した気分だなオイ」
「何ダトテメー!!!!」
「で、本物の赤ずきんはどこに行ったか知らねぇか?」
「聞キタカッタラ、情報料トシテ千…」
「あ、もう結構でーす、お疲れでーっす」
金儲けが上手なキャサリンから離れ中庭へ出てみると、居るは居るは偽赤ずきんの出現に追いかける方はだいぶ混乱していた。渡り廊下を歩き特別棟に向かう際、後ろの方で「どこだ夏目-!」と最早名指しで叫んでいる声が聞こえた。モテ期とはこういう事を言うんだな、と銀八はしみじみ思った。
幾つか目星をつけていた特別教室を見て回ったが居なかった。残るは屋上だ。本来ならば日頃から立ち入り禁止になっているが、彼女は一度そこへ駆け込んだ事がある。
「(そうだ、確か俺が追いかけ回した時に屋上に逃げてたな…)」
彼女の背中を追い掛けていたあの瞬間が何とも懐かしい。うかうかしていると、学校で彼女の背を見る事はもう無くなるのだ。卒業という日は、気がついたらもう目の前に迫っている。
取りあえず、なんとかと煙は高い所が好き、という言葉を思い出し半信半疑で来てみれば案の定のんびりと日光浴をしている赤ずきんが居て、思わずベタに右肩が下がった。彼女の隣には高杉が居る。
「そこの暴れん坊将軍共」
「呼ばれてるよ高杉」
「お前だろ」
「いや2人ともだっつの」
でも先生今回は見逃して下さい、とお願いされ、強く「駄目だ」と言う事は出来なかった。ここで彼女を下へおろせば更なる混乱が起こるのは目に見えている。第一次赤ずきんパニックは担任として何としてでも押さえなければいけなかった。
「お、懸賞金が200円に上がったらしいぞ」
「マジでか!もー、いつか生徒会に復讐してやるー」
高杉が携帯で誰と中継しているかは知らないが、ここでならまず安全は確保されるだろう。立ち入り禁止の場所であると同時に、不良・高杉のサボリ場所として有名なこの屋上にずかずかと入ってこれる根性のある人間はまず居ない。夏目は例外である。
案外ケロッとしていた彼女の顔を見て安心して、その分気が抜けて疲れが急に体へ押し寄せてきた。
「先生も一緒に日向ぼっこします?」
呑気に笑いかけられ、つられて銀八も緩く笑ってしまった。こちらの毒気を抜く笑顔は、日光の下で見ればその威力は数割増しになるらしい。
風にのって「どこだ夏目-!」と声が聞こえても、本人は聞こえないフリをして欠伸をこぼした。
このマイペースな赤ずきんに何人もの生徒が振り回されているのだ。それは、自分も。いい加減銀八もそこは認めなければいけなかった。
「今日もバイト?」
「まぁな」
「儲かってまんなぁ」
「奢らねぇぞ」
「私の心を読んだな…!?」
クラスメートと楽しそうに会話をしているのは、ごく普通の女子高生である。それが何処でどう間違えたのか。
いや、決して“間違い”が起きた訳ではない。ただ強いて原因を上げるならば、彼女の好きになった相手が駄目だったのだろう。可愛い教え子のまま卒業を祝ってやるのが、自分の仕事だと銀八は心の底から思っている。卒業するまでの単位をしっかり修得して、自分の志望した学校へ進んでくれればそれ以上の事は何も言わないし、望まない。
だと言うのに、平和なこの一分一秒に浸っている間でさえ、夢の中の光景が必ず頭の片隅にあるのだ。
何かを言おうとしてくれている夏目の声を聞きたいのだと誰にも打ち上げる事が出来ず、骨が刺さった様な異物感はまだ喉に残っている。
「お前土方達と連絡取れてんのか?」
「あ゛、忘れてた」
「沖田から捜索依頼のメールがきてる」
「うわー、申し訳ない事しちゃったなー。……控室に携帯取りに行ってくるね、先生と高杉はここで待ってて」
駆け足で屋上を出ていった夏目の背を見送ったのは良いものの、1人で行かせてしまった事に気付き、溜息をついて銀八が立ちあがる。
その様子を高杉が怪訝そうに見ている。
「お前も大概世話好きだな。1人で勝手に行ったんだからほっとけよ」
そんな風に割り切って突き放す事が出来ればどれだけ楽か。銀八は言葉を返す事なく、いつもの足取りで彼女の後を追ったのだった。
