きみがわらうとうれしくなる(4)
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よーやく、相手も銀八も日常を取り戻し始めた所で沖田は引っ掻き回す。しかしの所、沖田だって好きで引っ掻き回している訳ではないのだ。ニヤリとした顔を引っ込めず、「大人ですねィ」と突拍子もない事を言い始める。
「はあ…?」
「ハルの見えない所で嫌な顔するのは勝手ですけどね、俺にはまる見えでさァ」
「なんの話デスカ」
「俺は、逆にハルみたいに純100%子どもみたいな奴の思考は分かりやせんが、先生みたいに80%ぐらい大人の銀八せん…」
「純100%大人だバカヤロー」
「…せいみたいな人の思考は嫌っちゅー程分かるんでさァ」
昔から年上とばかり絡んでたもんで、と付け足した沖田の目に嘘はない。
こんな末恐ろしい餓鬼とあの赤ずきんは普通に接してるのか、と銀八は思いながら、結局の所何が言いたいか分からない彼に視線で続きを促す。
思考が読み取れるから何だと言うのだ。
俺でも分からない自身の思考を是非教えて欲しい。そう心の中で訴えた。
風が吹いて、2人の間にカーテンの壁が出来る。やがて弱まり、沖田の顔が見えた時、あまりにも真剣な顔つきに銀八は一瞬息に詰まった。
「嫉妬するのは、我が侭すぎやしませんかィ?」
何を言われたか分からず、下校で賑わう声も瞬時にして耳を通らなくなった。
嫉妬?
我が侭?
誰が?
誰に?
今までの話の流れ上、一々5W1Hまで聞きはしないが、それはそれで更に混乱の渦に落とされた。嫉妬をした覚えもなければ、我が侭だといわれる筋合いもない。
だと言うのに、刀の切っ先の如く鋭い沖田の視線は銀八の肺に穴を開けた。意識して息をしなければ、呼吸を止めてしまいそうな気さえ起きた。
「………急に言うねー」
「前々から思ってた事でさァ」
「いやでもマジで身に覚えが…」
「あれ?俺の勘違いですかィ?」
天に誓い、いや、ジャンプに誓い身の潔白を証明したい銀八なのだが、沖田の目がそれを許さなかった。
責められている訳では無い。恐らく、諭されているのだ。一回り程年齢の違う教え子に。その現実が、銀八の疲労を更に増やさせた。
「"保護者"は、心配しなくてもいっぱい居やす」
「!」
「勉強だってちゃんと面倒見てるし、何だかんだ言って自分でもちゃんとやってるみたいだし、運動は問題ないし、他には…」
「ちょーっと待とうか沖田君!先生全く話についていけてないんですけど!?」
そりゃ彼女には保護者が居るのは当たり前であって、とにかく、勝手に話ばかりが進められる。
目の前に居る生徒が5マス進んでいるなら、銀八はまだ1マスも差を縮めていない。寧ろスタート地点にもまだ立てていない。
「"大人としての責任感"とか、そんなもん必要ないんでさァ」
「せき、にん……」
「なので、これから必要以上にアイツに絡むのは禁止で」
「はい?」
「他クラスの生徒に嫉妬してる暇があるなら、さっさと彼女作れこの独身ー!」
「最終的には俺への悪口!?」
独身で悪かったな、と言い返してやりたかったのだが、沖田は颯爽と鞄を背負い教室を出て行こうとする。言いたい事を言えてすっきりしたのか、さよなら~、と間伸びた挨拶だけを残し去っていく。
ここでようやく周りの音を取り戻した銀八は、裏も表もない沖田の言い方をもう一度噛み締めてみた。
嫉妬。
我が侭。
どれも、自分には無縁の言葉だと思っていただけに、急に言われたのには心底驚いていた。
果たして自分がその二つに関係のある事をしていたか分からないが、"責任"という言葉は相変わらず銀八に張り付いたまま離れない。
「(なんだってんだ…どいつもこいつも………)」
一体どんなタイトルのついた双六の上で銀八は苦しんでいるのか、彼自身サッパリ分からなかった。どれだけ進めばゴールが見えるのか、しかし進むにあたり、サイコロという名の赤ずきんに関わらなければいけない。
やっと関係修繕に向けてマスを進めたと思いきや、途中に潜んでいたS王子の手によって引っ掻き回されてしまった。
誰も居なくなったZ組の戸締りをして、銀八は考えながら職員室へと向かう。
白衣に染み付いて離れない責任は、沖田から見て鬱陶しいものだったに違いない。それでも放置しておく訳にもいかねぇだろ、とさっき言えなかった反論を誰も居ない階段で吐き出してみた。
俺だって好きでふった訳じゃない。だったら何だ。どうしてだ。
そんな自問自答は、するだけ無駄である事をよく分かっていた。数学の様に公式に当てはめて展開していくなら、とうの昔にやっている。
「…………」
担任を持つのに断固拒否だった銀八は、来年度は担任外を強く希望する事を決めた。
惚れてきた相手が悪いのか、惚れられた自分が悪いのか、悩みに悩んだ所で彼はやはりマスを進めるしかないのだ。
ゴールと名目づけた卒業まで、半年をきった。
