きみがわらうとうれしくなる(3)
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やがて5時間目が始まり、狭い教室では暴君監督の下で演技指導が始まっていた。衣装はまだ出来ていないので赤い手拭いを頭にかぶっただけのヒロインが、今日渡されたばかりの台本を持っていた。
「ハル良いなー……それ"どぜうもん"みたいで格好良いアル…」
「褒めてないよね?」
どうせ私はどぜうもんよ!という彼女の嘆きを一切無視して「じゃあキャストとその他諸々の確認をするわね」と監督が言った。
「赤ずきんはハル。狩人Aが神楽ちゃんで、狩人Bが沖田君」
「異議あり!」
「却下します」
「どうして狩人が2人もい…」
「言動を慎みなさい」
「すみません…」
「(赤ずきん負けたぞ…)」
「(赤ずきん負けたな…)」
「おばあちゃん役が長谷川さん、母親役は土方君」
「はぁ?それは近藤さんの役だろ?俺は照明係の筈だぜ」
「近藤さんには鏡の役をしてもらう事に決めました。なのでその穴埋めは貴方に頼みます」
「却下します」
「却下を却下します」
「その却下を却下して却下します」
却下却下うるせェェエエエ、と新八。
「じゃあ続けるわね、王子役は桂君。御妃役は私」
「ヅラが王子かよ。しかも御妃がお前って……恐怖に支配されてる城になりそうだな」
「先生、殺しますよ」
「すんまっせーん!(土下座)」
「では続けますね。で、さっき言った通り鏡役は近藤さん」
「はい!この世で一番綺麗なのはお妙さんだと思います!」
「はい黙れ。…それから、眼鏡役に新ちゃん」
「何それ!?異議ありですよ!」
「良かったじゃねぇか志村。俺なんか母親役だぜ?」
「いや土方さんの役の方がよっぽど意味ありますよ!ちゃんとストーリーに絡んでますよ!」
「そうでさァ。土方さんには立派なマヨネーズって役がありやすからねぇ。しっかりサラダに絡んで下せェ」
「そっちの絡むじゃねェェエエ!!姉上!眼鏡役なんて赤ずきんには存在しません!」
「どうしても貴方を舞台に立たせるにはこの役しかなかったのよ新ちゃん」
「いや、どこで姉弟愛を発生させてんですか!僕舞台に立たないで良いですから!」
「じゃあ新八っつァんは見事オーディションを勝ち抜いて眼鏡役を獲得~おめでと~」
「誰もオーディションなんか受けてねぇよォォォオオオ!!!!」
「後は…照明係に高杉君」
「頑張って全てを黒の照明で統一させたいと思います」
「それ照明の意味ないだろ働けよ」
「ナレーションは山崎・犬神・退」
「オイオイ、なんかミドルネームみたいになってっけど?って言うかお前等体育の時間にあいつに何したわけ?」
その事に関しては一同が口をつむぎ顔を青くして冷や汗を垂らす。恐ろしいあの一場面はZ組に一つのトラウマを産み落としたのだが、それを知らない銀八は首をかしげるだけだった。
「主なキャストは一応これだけ。他にも細かい役があるけど、その場面にきたら詳しく説明しますね」
…とまぁ、強制感ありありのままキャストの確認がされ、一部から不満は出たものの全て却下された上で劇の練習がはじまっていく。脚本は赤ずきんをベースに、お妙とその他面々が書き加えたらしいが"その他面々"というのが怖いのだ。一体誰が書いたのか分からない恐怖の台本を手に、文化祭に向かっていく。
「じゃあまずはナレーションから始まります。本当は山崎君だけど、今日は銀八先生、お願いしますね?」
「はいよーっと。…えー、なになに…?……ここはとある平和なZ村。そのZ村に、赤い頭巾がトレードマークの"赤ずきんちゃん"が居ました。その赤ずきんちゃんは山に芝刈りに…」
「待て待て待て待て待て」
間髪いれずに突っ込んだのはもちろん新八だった。
「どうすんですか姉上。赤頭巾が山に芝刈りに行って何するんですか」
「芝を刈るのよ」
「そういう意味で言ってるんじゃないですよ!?赤頭巾が山で芝を刈ったって何もならないじゃないですか!何ですかこの非生産的な赤頭巾は!」
「新ちゃん落ち着きなさい。まだ続きがあるのよ。銀八先生、お願いします」
「…赤ずきんちゃんは山に芝刈りに、お母さんは家でゆっくりとくつろいでいました」
「この際勢いで川に洗濯に行けよォォオオオ!!!!」
「もう新ちゃん!貴方って本当に口うるさいわねぇ……なにが不満なの」
「強いていうなら全てです」
「まぁ安心しなさい。この後赤ずきんは芝刈りを終えて家に帰ってくるの。そして家でくつろいでいる母に怒り狂い喧嘩に発展するの」
「そんなドロドロとした赤ずきん見た事ないわ!!!」
「ここで怒り狂う赤ずきんの渾身の台詞よハル!」
「お母さん!また家事もしないでテレビばっかり見て……!だからお父さんにも愛想つかされるのよ!!」
「只の昼ドラじゃねぇかァァアアアア!!!!」
ストーリー変更を求める弟に、どこが悪いのよと納得のいかない姉。その2人にまじってワーワーと騒ぐ光景を見て、今日もまともな練習は無理だなと銀八は諦めていた。
「あ゛ー、うるせー…」
騒ぎから避難してきた高杉が銀八より少し離れた場所に座る。その肩には何故かスクールバッグがかけられてあった。
「俺バイトあるから後少しで帰るわ」
「流石の俺も怒るぞ?」
飄々と帰る宣言をする高杉は、大きな欠伸を一つこぼして携帯をひらいていた。
全く収拾のつかなさそうな教え子に、銀八も帰りたい気持ちになってくる。
そんな時「何か甘いもの持ってねぇ?」と高杉が聞いてきたのだ。彼がそんなものを強請ってくるのは珍しいが、人なら誰しも甘いものを食べたい時ぐらいはくる。それが例え暴れん坊将軍こと高杉晋助もまた然りだ。
「残念~持ってませ~ん」
「嘘つけ。胸ポケットに何か入ってるだろ」
「あ゛」
分かりやすい所にいれたのが運のつきか、渋々とポケットに突っ込んだ手が引っ張り出してきたのは2つの飴だった。
それを覗き込んできた高杉が「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げる。
「黒飴とピーチ味の飴……組み合わせバラバラだな」
「いや、これは…」
「黒飴ってお前………そんなに濃い甘さ求めてんならサトウキビでもかじってろ」
「酷い!……で、どっち食べるんだよ」
「……ピーチ味か……パッとしねぇな……飴だったら正直何でも良いし、それなら黒飴を…………………なんだよ、文句あんのか?」
「…………………別に何も」
「じゃあこの器用な指を離せ」
「………………」
器用な指、というのは銀八の薬指の事をさしていた。その指が何故か黒飴をおさえたまま動かないのだ。
「ここは素直にピーチ味を食っとけ。お前なんかピーチ似合いそうジャン」
「それはどういった理屈だ。……別に黒飴が食べたい訳じゃねぇが…」
「じゃあピーチを食せ!」
「ピーチ味ねぇ……微妙だな……」
「黒飴も微妙だろ」
「どっちの味も微妙だ」
「高杉ごときはピーチで充分なんだよ」
「殺すぞ?」
そそくさと黒飴だけをポケットに戻した銀八は高杉にピーチ味の飴を渡す。
「悪ィな。この飴は俺が貰ったもんなんで」
「ふーん……」
「そのピーチ味は良いぞー。色んな意味で甘酸っぱいんだぞー、ホントだぞー」
「(うっぜー……)」
間伸びた言い方に高杉がイラァッとした時、また黒飴を取り出した銀八が今度は包み紙をあけてそれを口の中に放り込んだ。これでもう他の誰かに食べられる心配はない。
黒飴独特の甘さが口いっぱいに広がって、少し大きめなそれを舌の上で転がした。
横目で銀八を見ていた高杉が、自身も包み紙をあけながら気になる事を聞いてみる。
「……お前黒飴好きだったっけ?」
「べふひふひへははい(別に好きではない)」
「…食う意地張ってんなぁ…」
「あんはほ!?(なんだと)……うぁっ!飲み込んじまった!」
「ハンッ、天罰だよバーカ」
したり顔で笑う教え子に拳骨の一発でもしてやろうかと拳を握った時、「天罰」というワードが少々頭に引っ掛かる気もした。
銀八は黒飴が特別好きな訳ではない。ピーチ味の飴の方が遥かに好きだ。しかし今、高杉にどちらかを上げるとなれば迷わずピーチ味を差し出した。
たかが飴、されど飴、それでも飴は飴。それが彼女の持っていた飴であろうと、貰い物の飴であろうと、銀八が貰った時点でその2つは彼の所有物となる。つまりはどういった経緯で流れてきたかなどどうでも良い。銀八が黙っている限り飴の過去など誰も知らないのだ。
けれど、何故か、この黒飴は渡したくないような気がした。
ナイロンの包装を破けばピンク色の飴玉が顔を出す。それを口に入れた高杉は予想以上の甘さに顔を歪める。
「甘ッ……っていうか甘酸っぱ……」
「だろうな。だってそれ青春の味だし」
「はぁあ?」
サッカー部のどこの誰かも知らない男子生徒が赤ずきんに淡い気持ちを抱いていたとしたら、銀八はそれを少し邪魔してしまった事となる。まあ本人からすれば飴を彼女に渡せた時点で任務完了はしたのだろうが、その相手がまさかピーチ味を快く思っていなかったとは知らないだろう。そして黒飴が好きだとは想像もしていないだろう。その事に関しては銀八も驚いた。
「とにかく俺は、黒飴はあまり好きじゃない。でもそのピーチ味の方があまり好きじゃねぇんだよ」
意外だ、と心の中で思ったものの、めんどくさがりの高杉は「ふーん」と相槌を打っただけでそれ以上の会話はしなかった。
ただ、笑いと罵声が止まないいつもの騒がしい団体の中で、赤いずきんがユラユラと揺らめいていた。
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