きみがわらうとうれしくなる(3)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
体育館の中で「そーれ!」という景気の良い声が弾んでいる。バレーコートを4面作った3年Z組が体育という授業枠の中でバレーを楽しんでいるのだ。もともと体を動かすのが大好きな彼等が張り切らない訳もなく、出番待ちをしている得点係の神楽が「早くどっちか負けろー!」と野次を飛ばしていた。
「うるせぇチャイナァ!!黙って得点係しとけぇ!!」
「はい、得点係の心を傷つけた~。剣道部チーム3点マイナス」
「あぁ!!?」
「総ちゃん頼むから口をとじていようそうしよう!」
どうやら得点は神楽の心と連動しているらしく、ギリリと奥歯を噛み締める総悟に対し彼女は勝ち誇った顔で口笛を吹いていた。
まあ落ち着け総悟、と近藤が笑ってボールを取る。
「…近藤さん……俺にサーブうたせて下せぇ」
「ん?良いぞ」
めちゃくちゃ嫌な予感がするんですけど…、と夏目と山崎が懸念している間に黒いオーラをまとったS王子がボールを持った。反対のコートではエリザベスがサーブカットをしようと短い手を構えていた。桂にいたってはバットを構えもはや競技からして間違っていたが、突っ込むのが面倒くさいので全員が放置していた。
「そー…れっ!!!」
高く上げられたボールを沖田が軽くジャンプして、銃弾の様に強烈なサーブをうちだした。
そしてそれは真っ直ぐに神楽の顔面にあたり、その流れ弾がセッターである土方の側頭部にも当たった。
「「うがぁぁああああ!!!!」」
「!きゃぁああ!!やっぱりこうなると思ったァァアア!!」
薄々感じていたものの、沖田の凶弾を予知できなかった2人が痛みに悶える。というか土方にとっては只自分の不幸さを呪うしかなかった。
「あ、すいやせん。手がすべりやした」
「ぐぉお……!!やりやがったなこのドSめ……!!今日こそケリつけてやるネ……!!」
「ゴルァ総悟……!てめ…!」
「あれ?どうしたんですか土方さん、頭なんかおさえて……あ、偏頭痛?」
「殺す!!!!!!」
お前等は普通にバレーの試合も出来ねーのか。体育教官である松平の厳しい一言も、3人には届いていない様だった。
とにもかくにも、考えようによっては厄介な3人がコートからはずれ勝手にリングに上がってくれたのだ。これでコートに平和が戻り、バレーを再開できる。
「愛しのお妙さァァアアん!!!俺のバレーテクニックを見ててくださァァアアい!!!」
「ウフフ、その口を閉じやがらないと殺しますよ~」
殺伐とした声援を受けながらも尚ハートを乱舞させているゴリラ(近藤)が今度こそサーブをうつ。それは上手に曲線を描き相手のコートへ飛んで行った。
「きたな!今こそ俺の実力を見せる時!!」
やけに気合じみた声の主は桂。その手にはまだ木製のバットが握られていた。
「それ違うスポーツで使うやつゥゥウウウ!!!」
やっとの山崎の突っ込みも虚しく、長い髪をものともせずバットを振ればそれは見事にボールに直撃。撃ちかえされたそれを夏目が仕方なくあげた。ポーンと高く上がったボールに素早く反応したのは実は運動神経の良い山崎。アタックしてやれ、と楽しげな彼女の声に、おう、と調子にのってアタックを打とうとした瞬間彼の目の前に何かが立ちはだかる。
もちろんバレーというのは打って守っての繰り返しなのだから、こっちが打とうとすればブロックをするのもまたある意味の攻撃。しかしその影があまりにもでかすぎた。想像以上にでかすぎたのだ。
「させません」
「え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛え゛!!??」
絵本で読み聞かされる鬼よりも恐ろしい顔をした屁怒呂がネット越しに山崎に立ちはだかったのだ。そして大きな手でボールを払い落とすついでに、謀らずも山崎の頭も一緒に払い落としてしまった。
"ドゴォオ…ン……!!"、とおおよそバレーの試合中には起こらないような音が体育館を揺るがした。
それはもう蚊を払い落とすかのように容易そうだった、と一連の流れを見ていた高杉は後々語る事となる。
Z組の引き攣った顔と、まだ余韻で揺れている床。首から突き刺さり一種の犬神家状態になっている山崎を見て恐怖という名の沈黙が周りを支配する。
そんな沈黙をやぶったのはお妙だった。
「はい、エリザベスチーム1点追加」
「あれ?山崎さん?大丈夫ですか?どうしたんですか?」
全く悪意のなかった屁怒呂が突き刺さった山崎に声をかけるが、彼は完全に天に召されていた。
「でも剣道部チームにまだ5点負けてるなぁ。…さあ、ゲームを続けましょうか」
「「勘弁して下さい」」
唯一生き残った剣道部チームの彼女と近藤の声がハモったのは言うまでもない。
**********
「え?なんて?」
「だから、山崎君は犬神家状態になって病院に運ばれていきました」
「………お前等バレーしてただけだよな?」
「いいえ、あれは戦争です」
「あんな狭い場所で!?」
私の命も取られるかと思いましたよ…、と腕を組みウンウンと唸る彼女の頭には、あの体育の授業風景(またの名をバレー戦争)が甦っていた。屁怒呂の気迫あるガードっぷりには、暴君高杉も敵わないと言っていた。しかし彼の場合はただ体育が面倒くさくてやりたくないだけだろう。
目の前で唸られている銀八は、昼食で賑わう職員室で「まぁよく分かんねぇけども…」の意味をこめた咳払いを一つ。
「取りあえずナレーター役の山崎が病院に行ったと」
「そうなんです。だから5・6時間目の練習の時に、かわりに先生がしてくれませんか?」
「(めんどくせ……)」
「あ!」
「!なんだよ…」
「先生今"めんどくせ…"とか思ったでしょう?」
眉間に皺を寄せ、仁王立ちしている夏目に対し視線を泳がす。まさかばれるとは思わなかったのだろう。
それを見事に見抜いた彼女は、銀八が代役を探す前に釘をさしておく。
「大道具や小道具の人に頼んだって無駄ですよ。みんな色々やる事があるんです」
「……あー、はいはい、やりゃー良いんだろ」
観念した銀八がため息をつきながら了承すると、彼女がニコリと笑う。さっきまで怒っていたのに、今では嘘のようにニコニコと嬉しそうに笑っていた。
「先生ならそう言ってくれると思ってました!」
「で、報酬は」
「報酬!?え、えーっと……」
苦しまぎれにスカートのポケットをあさりだした彼女。その慌て様に銀八は少し笑えた。からかったつもりで言ったのだが、すぐに真に受けるのは彼女の良い所でもあり少し厄介な所でもある。
まぁ気長に待ってやるか、と机に肘をつきながら口元に笑みを浮かべている銀八に、彼女は少し頬を赤らめながらポケットをあさる。そしてお目当てのものを見つけた時、花開くようにパァッと彼女の顔が明るくなった。
「(わかりやすー……)」
多少呆れながらも、表情豊かな彼女が何をくれるのか糖分好きな銀八の胸が高まった。チョコでも良いし、飴でも良い、イチゴ味の飴ならもっと良い。そんな妄想を繰り広げながら彼女が銀八の机に置いたのは、飴だった。
「おー、飴かー…って黒飴ェェエエェェエエ!!!!???」
「美味しいですよね!」
「おま、女子高生が黒飴ェェエエ!!?」
「美味しいですよね!」
「甘いけどなんか違う!!!色が黒い!!」
まさかの黒飴投下に銀八は色々と衝撃を受けた。飴は飴でも黒飴、甘いけどなんか違う気がする黒飴、ピチピチの女子高生が黒飴。でもそれは夏目であると妙に納得できる気もした。
「そうだネ…ハルちゃんは少し趣向が違うもんネ……」
「え?何か言いました?」
「ウウン、黒飴アリガトウ」
大事ニ食ベルヨ、と片言の銀八が黒飴が胸ポケットにしまったのを見届け、彼女は嬉しげに笑った。
1/3ページ
