無気力脱力
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「アレ?ちょっと酷くない?ねぇみんな酷くない?」
俺がそういった所でクラスの誰一人顔を上げようとはしなかった。何だこれ、新しいボイコットの形か、教師いじめてそんなに楽しいか!
「まだ授業始まってねーのにこの状況ってどうよ」
「だって現国眠ィし…」
「現国だけじゃない!授業は全部眠たいんだよ!」
「教師のアンタがそんな事言って良いんですかィ…」
渋々といった感じで顔を上げる沖田に続き、あれ銀八来てたんだ…、という雰囲気をかもしながら眠そうに起き上がるZ組の面々。もう数秒前から来てるし!泣くぞ俺!
「お前等がヤル気なかったら俺のヤル気も無くなるわー…」
「何言ってんですかィ、元々ヤル気なんてねーくせに」
「そんな事ありませんー」
口を尖らせながら持ってきた教科書を開く。そしたらようやく生徒もそれを開き始め、何とか授業が出来る態勢が整った。
……と思ったのも束の間、1人、また1人で落ちていく顔。もしかするとコレは、と思えばそれは的中。Z組は深い眠りへと飲み込まれて行ってしまったのであった………完。
「って完じゃねェェェエエエ!!」
「もー何ですかィ」
「こんだけ眠られると泣きそうなんですけど!」
「別に先生が悪い訳じゃありやせん。5時間目っつーこの時間が駄目なんでさァ」
それだけを言って再び眠りに入った沖田。その言葉はご尤もにしろ、これじゃあ授業を進めても意味がない。
あれ?いつもこんな感じだったか?そりゃ確かにZ組の授業風景は昼寝風景となんら変わらなかったが、これ程まで注意をした事が無いような気がする。
「(…あ………)」
そうか、それはアイツが居たからだ。周りが眠りこけている中必死にノートを取って、(自分で言うのも何だけど)全く楽しくない現国の授業を受けていたアイツ。あの真面目な姿にはホント涙ちょちょ切れるわ、いやマジで。
それでも今はポッカリ空いたその座席。面接はもうとっくに終わっただろう。腕時計で時間を確認するまでもない。その学校には割と時間をかけて行く事になる筈だが、アイツはちゃんと毎朝起きる事が出来るだろうか…?この高校に来る時ですらたまに遅刻するのだ。この分じゃぁ来年が思いやられる。しかも通学方法は自転車じゃなくて電車だ。決まった時間に家を出なければ発車時刻に遅れてしまう。あぁ、もう、ちゃんと通えるのだろうか。不安だ、というよりも心配だ。遅刻のしすぎで出席日数落としましたー、とか報告された日にゃもうどうすれば良いやら……。
まぁ、俺はどうこう言える立場ではないけども…。
完璧に眠りの世界に誘われた教え子達を見回して、俺も思わず欠伸をこぼした。
「(今の時間的に、アイツはもう家に帰ってるか……)」
合否の結果が郵送されてくるのは2週間後…。その間に学校の方のテスト期間もやってきて、それが終われば文化祭がやってくる。劇に決まったものの、そこからは何の案も出ていない。誰かが「赤ずきんで良いんじゃね?」と言っていたが、そんなお遊戯みたいな内容をこいつ等がしない事など目に見えている。どうせ赤ずきんをするなら、高杉にでも赤ずきんをやらしてしまえば良い。………と考えていたら高杉が顔を起こしたので、思わずビクッと肩をゆらした。
「……銀八…お前今なんかオカシな事考えてたろ…」
「気のせいダヨ」
嘘をついてみたものの、納得しなかった高杉は露骨に舌打ちをもらしたが、フと携帯を取り出した。今が授業中だと思わせないぐらい、あまりにも堂々と携帯を開く。
「ちょ、高杉君?いま授業中なんだけどね?」
「おい、夏目から返信来てんぞ」
担任の言葉に覆いかぶさるようにして高杉は沖田に言った。しかし彼は寝ているので、高杉は仕方なしに、たまたま近くに落ちていた紙ヒコーキを拾い沖田に投げる。狙い通り頭に刺さった紙ヒコーキはすぐに床に落ちて、その数秒後に沖田が体を起こす。すると周りのクラスメートも続々と起き上がり「なんて返信きたー?」と高杉の携帯の周りにワラワラと集まり始める。それはもう本当に授業中だと思わせない、フリーダムな行動だった。
「お前等そこになおれェェェエエエエエ!!!!」
遂に堪忍袋の緒がきれて、教科書で強く教卓を叩き、眠たげに一台の携帯をのぞいている我が生徒達に怒鳴った。
「何でさァ!俺達の熱き友情の繋がりを邪魔しないでくだせェ!」
「今の時間を考えてみよう!?今は何をする時間かな!?」
「はいっ!」
「よし、答えてみろ神楽」
「ぎんぱっつァんの授業を受ける時間アル!」
「正解されたのが腹立つ!なんか逆に腹立つ!」
悔しがる俺に沖田がスススと近寄った。教室はいつの間にか休み時間のような活気が戻っている。
「ほれ、無事に終わったみたいでさァ」
見せてくる携帯の文の中では、アイツが面接が無事に終わった事を告げていた。そんなに絵文字の多く無い文面が、なんともアイツらしいと思った。
沖田はまた賑やかな輪に戻り、1人残された俺はホッと一息ついた。今が授業中だというのは既に自分自身も忘れている。
「(良かった……終わったのか…)」
まるで我が身のように思うのは、あれだけ付きっきりで手を貸していたからに違いない。放課後の時間を使って、最初は完成には程遠かった論文を出来上がらせたのは、俺と、アイツが頑張ったからだ。…まぁ俺のお陰というよりも、何より本人にヤル気があったからだろう。
「……」
――先生書けたッッ!!
まー嬉しそうに言っていたアイツの顔が目に浮かぶ。
よく頑張ったな、お疲れさん。
俺がそう口にしなくて良いだろう。それは今この教室での風景を見てて分かる。俺が言わなくても、こうやってクラスメートが苦労を労ってくれているじゃないか。
普段は五月蝿い奴等でも、1人の友達を応援出来るのは良い事だと思う。それはもう数年後思い返してみればクソ恥ずかしい青春の一部だが、損をするような思い出ではない。寧ろそれは大人になってからも大切に残しておけば良いと思う。……ちょ、今凄い教師らしい良い事言ったわ。
そんな事を考えながら教卓に肘をつきながら、ワイワイ騒いでいる場面を眺めた。本人がこの場に居ないというのにこの盛り上がり様。夏目という存在感はZ組の中で強い。ああ、だから俺も朝あの空いた席を見ちまった訳ね、ハイハイ納得。心の中で言い聞かせてみれば、不意に自分に向けられている視線に気がついた。それはもう俺を貫通するんじゃないかというぐらい鋭い視線。
「…………何土方クン」
「…………別に」
睨みだけで俺を殺せそうなぐらい鋭い目に、思わず「何かしたっけ?」と考えてしまう程。それでも思い返した所で特に土方を怒らせるような事をした覚えはない。
「…………」
「………」
「……ちょ、土方クン何」
「だから別に」
「……俺なんか睨まれるような事しました?」
「……した」
「した!?」
「………」
「……全く覚えがねーけど…」
「殺すぞ」
「マジでか!?」
「……良かったな、無事に終わったみてーで」
「へ?」
まるで嫌味ったらしく言われた言葉を聞いて思わず口から出たのは間抜な返事。土方はそれを言ったっきり賑やかな中心に混じり、高杉の携帯を取り上げ勝手に夏目に返信を打ち始めているらしい。変な文送ったら殺すからな、土方さん今のは高杉なりの"変な文送れ"っていうフリですぜィ、と最早休み時間に繰り広げられる会話が成り立っている。
って言うかそれを注意するどころではない。何だあの言い方は。まるで知っているような口ぶりに俺は苦笑いを漏らすしか無かった。
アイツが自分から言ったとは思えない。となれば鬼の副部長が自然と察した事なのだろう。
すると騒ぎに参加していた沖田が不意に俺を向いて、いつもの淡々とした表情で「べー」と舌を出して、何事もなかったかのようにまた騒ぎ出す。
チクチクとまた痛み出した罪悪感を何とか殺して、苦笑いを浮かべたまま肘をついた。
コリャまずった。俺はどうやら恨まれているらしい。
「(ホントにどいつもこいつも……)」
盛大な俺のため息は、この場に存在もしないくせに絶大な注目を浴びている女生徒のお陰で綺麗サッパリに消えた。
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