カウントダウン(5)
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「どうした?急に入ってきて…」
「え、いや、何でも…」
「走ってきたのか?」
「え…?」
「息、切れてる」
小さく笑って、ジャンケンの勝者の1人である土方君は鞄を持った。今から帰ろうとしているのだろう。
「ゴミちゃんと出してきたんだろーな」
「あ、うん……」
「ちゃんと出さねーとまた銀八に文句言われるからな。"なんかここのゴミ箱、酢コンブ臭くね?"みたいな」
「そ、だね…」
「………」
「うん、ちゃ、んと……出さないとね……」
「……」
「うん、うん……」
「…夏目…?」
「うん…うん……」
「どうした?」
冒頭の台詞をまた言われて、思わず小さく首を傾げる。どうした、と聞かれるような事はしないと思うんですけど…?
その時、首を傾げた拍子に顎に冷たいなにかがつたったのが分かった。
あらら……?
「あれ……?」
「…んだお前…泣く程ゴミ出し行くのが嫌だったのかよ」
「へっ!?いや、そういう訳じゃなくて…!」
頓珍漢な土方君の解釈に思わずふきだしそうになってしまったけど、頭の中にさっきまでの情景がざあっと流れてきて思考が止まった。
――何で俺なんだ。
そんなの、私が知りたい。
「決してゴミ出しが嫌な訳じゃなくてですね…っ!」
「………」
「ちょっと私事という言いますか…っ」
「……」
「なんと言いますか……っ」
「……」
「…~~~っ!!!」
泣かない泣かないと決めていたのに、その暗示はどうやら悲しみに跳ね返されてしまったらしい。この同級生の顔を見るとどうにも涙腺が緩んだ。鋭い瞳孔かっぴらきの目だというのに、部員だった私はよく知っているのだ、この同級生が優しいという事を。
「……泣いてる理由は知らねぇけど…」
少し暑いのか、シャツを肘までめくっている土方君の腕が頭にのびてくる。と、思いきや大きな手でガシガシと撫でられた。ずるずるとしゃがみ込んでしまった私に視線を合わせるように彼もしゃがみ、いつもの仏頂面で急に泣き出した私を見る。
「泣くのは明日が終わってからにした方が良いぞ」
「こ、ここで慰めないのが土方君っぽくて腹立つ…~~っっ!」
「おま……泣くか怒るかどっちかにしろよ…」
呆れながら呟く土方君ですが、そのいつもの様子ぶりがまた涙を誘った。
「……頑張る……明日、頑張る…」
手が離れていったと同時に、私はポツリと吐き出した。ぼろぼろと流れ続ける涙をそのままに土方君を見る。
「でも……やっぱり悲しいよ……!」
泣くのを我慢出来なかった。
くっしゃくしゃの泣き顔を付き合いの長い鬼副部長に見せたって何も思わない。だからこそ、私は壊れたように涙を流し続けてしまった。相変わらずの仏頂面は、慌てふためる様子もなく私を見ている。
「悲しい……!」
「…………そうか」
変な慰めも探りも無い、素の彼の言葉が胸に沁みる。これが今まで剣道部の副部長として培った能力なのか、それとも生まれ持ったものなのか、受け止めてくれるようなその言葉に私を膝に顔を埋めて泣いた。
泣き終わるまで土方君は適当に近くの机に腰掛けていたと思う。散々に泣いた私は数十分後ようやく顔を上げて、真っ赤にさせた目で土方君を見る。そろそろ帰るか、と言ってくれた副部長の言葉に一度大きく頷く。飾り気のない優しさが、本当に胸に沁みる。
明日の面接、つまりは私の受験が終わって定期テストも終わって全てがひと段落ついた時、今日の出来事を聞いてもらおう。
その時は泣かずにいられるだろうか。
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