カウントダウン(3)
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昨日のドタバタから一夜明け、今日は何とか遅刻せずに学校に来る事が出来た。
郵便局からの帰り、結局私は先生の乗る自転車の後ろに居座り続け、学校までの距離を緊張しながらも楽しんだ。その時交わした他愛のない話でも、何一つ忘れずに覚えている。
論文は無事に着いたでしょう。となれば今度は面接の練習をして、その間に学校は数週間後に控えているテスト色に染まっていくのかと思いきや、全く違っていた。
「よーし。じゃあ今から文化祭の打ち合わせでもすんぞー」
6時間目のLHR。坂田先生はやる気なさげにそんな事を言った。
「(そうか、文化祭か……)」
基本お祭は大好きな私ですが、この所忙しくて"文化祭"なんてイベント完全に忘れてました。基本どの学年が何をやってもいい、ひじょーに自由なイベントがやってくるのか…。
「何か良い案持ってる奴は挙手するよーにっ!」
先生が出席簿でバンッと教卓を強く叩けば、次々に上がっていく手。それを私は肘をつきながら眺めていた。
そう、この3年Z組はイベント事に一切の手を抜かないのだ。そりゃ準備の過程でヤル気が無くなったり、時たま喧嘩したり、和解しあったり、それなりの波を見せる訳ですが、最終的にこの坂田先生でさえ本気になるのだから仕方ない。
今年の体育祭なんて半端なかった。3学年が混合して、それから7つの色の団に分かれ競い合う。どこの学校にでもありがちなその体育祭風景でも、この学校の魔法にかかればそれは戦争へと早変わり。
パン食い競争では神楽が全て食べつくすという荒技を見せていた。玉入れなんて、さらさら駕籠に玉を入れる気なんてなく、途中、その玉は(お妙の手によって)凶器に変わり敵チームを仕留める弾丸となっていた。あの玉が人に当たってあんなに重々しい音が鳴るとは知りませんでした。他には何故か味方である土方君の走路を邪魔する総ちゃんが居たりした。何だかもー誰が味方で敵か分からない状態の中で戦った訳です。リレーの成績とかは良かったのですが、妨害点としてマイナスが追加され、結果としては残念な事に。
まぁこんな感じでイベントは彼等にとって大切な事なのです。かく言う私もイベントは大好きです。
「はい!先生!」
「よし沖田言ってみろ」
「老若男女楽しめる店がやりたいです!」
「例えば」
「SMプレ…」
「はい却下」
「チェッ…」
まず沖田総悟の案、却下。
「はい先生!」
「なんだ神楽」
「ここは一つ展覧会を催すアル!」
「展覧会だァ?……なんのだよ」
「酢コン…」
「はい却下」
「んだよチキショー…」
「おーい、他には無いかー?」
「はい先生」
「よし、土方却下」
「何でだよ!!俺まだ何も言ってないんですけど!?」
「挙手する際は自分で"ピンポーン"と効果音を出さなければいけません」
「嘘つけ!!前の2人はんなもん無かったじゃねぇか!!」
「ギャーギャーうるさいですよ土方却下君」
「名前にすんなァァァアァアア!!!」
「ピンポーン!!」
「どうしたゴリラ。餌の時間か?」
「違います!」
「何か思いついたのか?まぁ微塵も期待してねーが言ってみろ」
「はいっ!ここは是非"志村妙資料館"を催し、沢山の人々に志村妙という人間の美しさを知っ…」
てもらう、と最後まで言いたかった近藤君の言葉は「ピンポォォォオォォン!!!!」というお妙の怒声と右ストレートによって沈められてしまう。肘をついている私のすぐ前を、吹き飛ばされた近藤君が横切った。
「先生、教室にゴリラの死体が一体あるんですけど、市に電話すれば引き取ってもらえるかしら?」
「ちょっ、"ピンポン"は人を殴る時の気合の声じゃないんだけどね?それに市に電話してもゴリラは引き取ってもらえないと思うんだけどね?」
「あら困りましたねぇ……。あ!そうだわ!飲食店を催しましょう!名付けて"猩猩焼き"!」
近藤さんを焼き殺す気かァァアア、と土方君。
「ピンポーン、先生」
「なんだヅラァ」
「ヅラじゃない桂だ」
「もう良いこのやり取り面倒くせェ。…で、何だ」
「催してます」
「何をだ」
「エリザベスが尿意を催しているのですがどうす…」
「勝手にトイレに行けやァァァァア!!もう良い!お前等コンビは二度と戻ってこなくて良いぞ!!」
「先生、これじゃあ話が全然進んでないんですけど…」
文化委員である新八君が呆れたように呟いている。確かにこの案では黒板の前に立っている彼も、何をどう書けば良いか分からないでしょうに。ご愁傷様です。
「ピンポーン先生」
「黙れヅラ。喋るな」
「文化祭には是非"攘夷"の素晴らしさについて語る講演会を開催すれば良いと思います」
「黙れお前が攘夷派に追い払われろ。んでもって二度と日本の土を踏むな」
「貴様が追い払われろ」
「いやお前が」
「貴様が」
「おま…」
「しつこいわァァァアア!!!!!」
突っ込みに力んだのか、新八君が握っていたチョークが真っ二つに割れていた。
「ピンポン先生!」
「誰それ!!?俺の事か!?」
「この際みんなの意見をまとめて、色んな味の楽しめる酢コンブ食覧会を…」
「それお前の願望をまとめてるだけだから!皆の意見一切取り入れてないからっ!」
「ピンポン先生!!」
「誰それ!!!?やっぱり俺の事なの!?ねぇそうなの!?」
「ここはやっぱり歴史ある日本を知ってもらう為に、まずは戦争という目を背けてはいけない事実があった事を皆に知ってもらうべきでさァ!」
「お…沖田にしては珍しく真面目な意見じゃねぇか…」
「あ!!!土方さん!!アンタの机の中に赤紙が入ってやすぜィ!」
「戦争に行けってかテメェはァァァア!!!」
「そして土方却下という男は呆気なく異国の海に機体ごと沈んでいったのであった………完。」
「俺の命を終わらせるな!!」
「全7コマで終わる漫画にしやしょう」
「人の生死を7コマで描くなァァア!!しかも土方却下って誰だゴルァ!」
「あーはいはいっ!喧嘩なら外でやれバカヤロー!戦争を軽く語るんじゃねえ!他!他なんか良い案はねぇか!?」
「"貴様が追い払われろ"!」
「ちょっ、ヅラ、おま、それどんな効果音!?挙手しながら君とんでもない事叫んでるからね!?」
「ここは一つ高杉のマグロ漁の経験を活かし、教室でマグロ解体を催すというのは…」
「"死ねヅラ"!」
「頼むから素直にピンポンって言って高杉君!先生からのお願い!」
「この時俺は桂という男に無性に殺意を抱いた。俺は迷わず教室の箒を持ち、奴の背後に忍び寄りそれを大きく振りかぶり……」
「後ろォォォオ!!ヅラ後ろォォオ!!」
「だが高杉は標的を桂から土方に変え、奴の息の根を止めた感触を胸に抱えまた再び懺悔の道を往くのだった………完。」
「黙れ総悟!!それ結局俺が殺されてるんですけど!?」
「お、落ち着け高杉。小説風に言っても駄目だから!殺人沙汰は学校で起こしちゃ駄目だから!取りあえず箒置け!な!?」
「チッ…」
「ピンポ先生!!!」
「だから誰それェェエ!!何その間抜な呼び方!ピンポはやめて!」
「カバディかミントンの世界選手権を催すというのはどうでしょう!」
「こんな学校で世界選手権が開けたらオリンピックなんか必要ないわァァアア!!」
「ピン子先生!」
「それ只のピン子じゃねぇか!!」
「ピンピンコロリ!!!」
「最早ピンしか合ってねぇよ!!」
「…が、僕の目標です」
「頼むから死んでくれヅラァァァア!!!」
………カオス。
例えるならばこの状況はカオス。
いや、薄々は分かってました。こんな事になるだろうな、と。
「ピンぼけ先生!」
「止めてェェエ!!何かいつも俺が霞んでるみたいじゃねぇかァァア!!」
「もうここまで来たらLHRを打ち切るのも一つの案かと思います!次回に持ち越せば良いと思います!」
「夏目の意見に異議ある奴は居るか!?」
「肯定したくとも、土方は既に口の利けぬ肉塊となっていたのであった………完。」
「等と説明している沖田も実は本人が気付いていないだけで、本当は魂だけの存在で肉体は滅びていたのであった………完。」
「オイオイそこの剣道部コンビ、静かなる殺し合いは止めろ」
「総ちゃんも土方君もそろそろ五月蝿いのであった………完。」
「ホラね!絶対夏目も参加すると思ったんだよ!どうすんだよ誰がこの勢い止めてくれる訳!?」
「先生僕を見たって無駄ですよ。もう突っ込みが出来るとかそういうレベルじゃないですから」
「先生俺を見たって無駄ですよ」
「一秒もヅラを見た覚えはないわァァアア!!!」
「やっぱり私は酢コンブが食べたいのであった………完。」
「市に電話してみたがゴリラは引き取ってもらえないという事なので、ここは私が責任持って焼き殺すしかないのであった………完。」
全員が全員ボケだしてしまえば、流石の新八君もお手上げというか何というか…。気がつけば沖田VS土方、高杉VS桂という試合が始まっていた。喧嘩するほど何とやらとは言いますが、この混沌とした場でやられては止める気も何も起こらない。収拾不可能になりつつある教室に先生も諦めてか、銀髪をガシガシかきながら盛大なため息をついていた。
そんな教室を一瞬で静めさせたのは、バンッッという大きな音であった。
それはZ組の"眠れる鬼"と噂される屁怒呂君が机を叩いた音……その恐ろしい形相が何を考えているか分かりませんが、全員にサァーッと嫌な汗が流れる。
「ど、どどどど、どうされましたか屁怒呂君!!?」
と、先生が上ずった声で尋ねてみれば、そっと上がった彼の顔。
殺される!全員が思った瞬間、彼は一言だけ提案してくれた。
「劇なんてどうでしょう」
……激?あ、いや、劇?おぉ、良い!
そう思うや否やチラホラ沸き起こる拍手。やがてそれは大きなものとなって教室を包んだ。その案が採用された瞬間です。照れたように(?)頭をかいている屁怒呂君を称えるように中々鳴り止まなかった拍手。
けれどその時の私は知らないのです、周りの皆は只単に恐怖に駆られて拍手していたという事を。
「よく聞けテメー等ァァア!!この屁怒呂様が提案してくださったんだ!!異論はねぇな!!?」
先生も恐怖で肝を冷やしているのか、冷や汗ダラダラで叫んでいる姿がなんとも滑稽だった。
そんな訳で、Z組、文化際では劇をする事になりました。
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