カウントダウン(2)
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昼間は残暑でまだ蒸し暑いにしろ、朝夕は少し冷えるようになってきていた。私ももう窓を開けっぱなしで寝るような真似はせず、薄い布団を体にかけるまでになっていた。この大切な時期に風邪をひいてはいけない、と母が言って押入れから引っ張り出してきてくれたものだった。母のその優しさが妙にくすぐったくもあり、嬉しかった。
私は最近思う。自分はとても恵まれているんじゃないかと。
家ではさり気なく応援してくれている父が居て、全面的に優しさを与えてくれる母親が居て、学校に行けば明るいクラスメートに励まされ、放課後になれば先生が付きっきりで付き合ってくれる。うん、恵まれすぎだ。
論文は、昨日ようやく完成した。数週間かけて出来上がったそれは、今日速達で送らなければ志望校には届かない。
「(あー……郵便局行かなきゃー……)」
ボンヤリと考えながら、少し冷えた朝の空気を吸い込んだ。雀がチュンチュンと鳴いている。なんとも朝らしい朝の中、私はようやく布団から体を起こした。いつも枕元に置いてある携帯を取って今の時間を確認する。そういや目覚まし鳴ったっけ…、とか思いながら画面を開けば、そこにはとんでもない数字が表示されていた。目覚ましより早く起きたのかって?ノンノン、そんな訳ないじゃないですか。
AM8:19
「えぇぇぇえ!!!??」
言い訳をする暇もありません。
ここでようやく、自分が完全に寝坊を決め込んでいた事実に気がついたのでした。
**********
また空いている一つの席。何してんだアイツ、と思いながらも出席を続けた。
「(今日は論文提出の日じゃなかったかー…?)」
明日ちゃんと出しておきますね!とか何とか元気に言って帰っていったというのに何故来ない。まあ俺としてはちゃんと送れたんなら学校に来てもらわなくても構わない。この際は出席点を稼ぐより、相手校に論文が届く方が大切だ。
そんな事を思っていた時だった。廊下から物凄い勢いで此方に走ってくる足音。ざわざわしていたZ組の面々も「何だ?」と静かになり、寝ていた高杉も五月蝿そうな表情で机から体を起こした。そして勢いよく開けられたのはZ組のドアであって…。
「すいません寝坊しました!」
ガタタタッ!
その勢いに負け、日頃から傷み付けられて弱っているZ組のドアはいとも簡単に外れてしまった。
「オイィィィイ!!!」
「あ、ちょうど出欠の時でした?良かったー間に合った」
「その前にドア!ドアをなおせ!!」
Z組のドアは何かとクラスメートからの暴力を受ける機会が多い。例えば志村(姉)がゴリラ(近藤)をぶっ飛ばしたりすれば、大体ドアを巻き込み廊下まで倒れるのだ。はめているガラスがまだ割れていないのは奇跡に近い。
そして今日もまた遅刻者1人のハッスルに巻き込まれてしまった。
「もー…よくはずれるなぁこのドア…」
「それ間違いなくお前等のせいだから。自業自得ってやつだから」
慣れた手つきでドアを抱え溝にはめこんでいた。一応遅刻扱いになる時間だが、まあ今回は特別にギリギリセーフにしてやろう。そう言ってやれば大層嬉しそうな顔をする。なんて単純な生徒だ。
「聞くだけ聞くが、寝坊した理由は?」
「地球が丸いのか確かめに行ってました」
「お前はまたそうやって嘘をつくしよォォオオ!!!」
「ハルおはよー」
「あ、おはよー」
「さり気なく席に戻るなァァアア!!!」
全くもって何て奴だ。真面目でありつつも剣道部に感化されてか、たまにこうやってマイペースを貫くもんだから困る。登校して早々「あ、高杉マグロ漁から帰って来たんだ、おかえり」「殺すぞお前」とZ組一の悪と名高い高杉と爽やか(?)に会話をしている。今日が論文提出だという事を覚えているのかどうか多少なりとも不安になるが、まさかこんな大事な事を忘れてはいないだろう。
「どう?大漁だった?マグロ食べれた?」
「うるさい黙れ寝かせろ」
まだ高杉とアホらしい会話をしているそいつを横目にいれつつ、俺は朝礼で賑わう教室を出たのであった。
そして数時間後、俺はそいつの記憶力を信じた事を後悔する事となる。
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