カウントダウン(1)
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今の今まで撫でていた頭は、神風のように教室を出て行ってしまった。あまりの速さに俺の言葉は最後まで聞かれていないと思う。願書も論文も置きっぱなしのまま帰っていってしまった生徒は今頃駐輪場に居るのだろう。窓から少しのぞいてみれば、ちょうど校門から出て行くのが見えた。
最近の放課後は夏目に付きっきりで受験の手伝いをしている。基本しっかり者な分、俺の言う事は素直に聞けるし時間の少なさにもちゃんと気付いている。だからああやって真剣に取り組み始めた。
その姿は見てて分かる。
「………」
でも気のせいか何なのか、夏目の行動言動がたまに胸につっかえる事が増えた。それは、そうだ、確かあの時から。アイツが今度は逃げ出さずに、職員室で俺にしっかり自分の事を話した後の事。希望校を進路調査表に書き写してる俺の隣で夏目は、中々言い出せなくてスンマセンとか何とか言って申し分けなさそうに縮んでいた。まぁ怒っていた訳でもなかったから、その申し訳なさそうな空気を断ち切ろうと思って俺は話題を変えた訳だ。アイツは自分の道を否定されるのが怖くて言い出せなかったと言っていた。はなっからそんな教師だと思っていなかったと思う(信じたい)が、それをネタに少し茶化してみた。
――夏目は俺が嫌いかー
それは本当に只の遊び心で。
夏目ならふざけて「そうですね」と返してくるとも思ったし、冗談交じりで「好きデスよ」という返答もすると思った。この二つに一つだと考えていた俺の期待は見事にはずれ、アイツの口から出てきたのは以外なものだった。
――違います!!寧ろ…っーー!
その真剣な声音と表情に、悪ふざけで嘘泣きをしていた俺の思考も止まる。
が、すぐに相手の思考も止まっていた。「え?」とすぐに聞き返した俺に対し、ながーい沈黙の後にようやく「え?」とオウム返しをする事が出来たその生徒。見る見るうちに目が見開いていくのが目の前に居た俺にはよく分かった。
そうですね、でもなく、好きデスよ、でもなく、その答えは何だ?
寧ろ、なに?
俺が考えていた二つの答えに比べればそれはとても漠然としたものだ。それでも言える事は、夏目は俺を酷い教師だと思っていないという事であって……。
「…………」
それにしても、あの真剣すぎる声音が突っかかる。あの時はこんな風に太陽は沈んでいなかったいうのに、真っ赤な顔して職員室を飛び出していった夏目。それはさながらついさっきのように。
「……いやいや、まさかねー……」
一瞬周りの音が消えたあの職員室での突っかかりは、俺の勘違いとして飲み下してしまおうか。
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