ホントは仲良しです
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「………なんで?」
いつもの組み合わせの2人を見て、山崎は素でそう呟いた。じゃあ夏目はどこに居るかと言うと、ホウキではなく竹刀を持って仁王立ちしていた。彼の見間違いでなければその足元には近藤が泡を吹いて倒れている。
「えぇえぇぇ!!??」
すぐにその場に駆けつけて、半泣きの後輩達の間からすり抜けて近藤の頭付近に膝をつく。完全に白目を向いている部長…。何故こうなったか後輩に聞こうにも、彼等は皆一様に夏目を見て怯えているだけであった。
「何!?何なのこの状況!?」
「せ……先輩が……ハル先輩が部長の胴めがけて思いっきり……」
「ハルちゃん胴打ったの!?」
「打つ訳ないじゃない」
「あ、そりゃそうだよね…」
「殴ったのよ」
「まさかの素手!!!!???」
竹刀を握っているというのに敢えて拳を選んだのは分からないが、取りあえず近藤がのびている原因は夏目が強烈なボディーブローをお見舞いしたかららしい。防具はつけていないにしろ、ごつい体型の近藤を地に伏せさせるその実力はやはり柔道部の女子を負かしただけはある。しかし、部長という立場の彼に彼女がここまでしたという事はそれなりの理由があったと考えられる。ひとまず膠着状態の土方と沖田はまるっきり無視して、何故こうなったのか事情聴取のようなものを始める。
「だってね、部長ったら酷いんだよ」
「何で?」
「私が掃除してる間に剣道場で風船膨らましてたんだよ?」
「風船?」
「体育祭の練習で使うんだってー」
「それで俺達も部長の手伝いとして風船膨らますの手伝ってたんですよ」
「皆で楽しそうに膨らましてたんだよ!?私が!一生懸命掃除をしていた時に!挙句の果てにそれを体につけて踊ってたんだよ!!?私も仲間に入れてよ!!!!」
「アンタ寂しかっただけかアァアァア!!!!」
理由は思わず可愛いものだったが、制裁の仕方としては顔を青ざめるものがある。まだ意識が回復しない近藤は遂に不随運動を始めるのだが、彼女の怒りはこれで収まらなかったらしい。恐らくは今まで溜めに溜まっていたストレスが噴火寸前なのか、とばっちりを受けそうな後輩はその気配を読み取れ、尻餅をついたまま静かに後退を始める。だが彼女の鋭い視線が逃げ腰の獲物を確かに捕らえた。制服のスカートが彼女からわき上がる黒いオーラによってひらひらと揺れる。
「………覚悟ォ!」
そして一際気合の入った声によって振り上げられた一振りを、まぁ何とか避けきれた後輩達はあちらこちらに散らばり、一応竹刀を手に握った。だが女の先輩と言えど3年の夏目に勝った事は一度も無い。その経験の無さがより一層恐怖を煽っていた。
「ふ、風船を体からはずしとけ!近藤さんみたいになるぞ!!」
山崎のその一声に後輩達は我に返り、自分の体のついている風船をはずそうとするのだが、どういう原理でくっ付いているのかどうも簡単に外れそうにない。ゴムと剣道着は良い感じに密着しているのか、焦るばかりの手は上手い具合に動かない。そうしてる間にまず一人の後輩が彼女によって討ち取られる。彼は腰についていた風船を割られていた。
「!!!!!!!!」
風船が割れる音と同期の悲鳴を聞き、全員が顔を青ざめる。彼女の後ろに魔王よりも恐ろしい影がゆらめいているのが確かに見えた。
「に………逃げろオォォオォ!!!!!」
誰の叫びかは分からないが、とりあえず間抜にも体に風船をつけている後輩の一人があらん限りの大声で叫んだのだろう。蜘蛛の子が散らばるように逃げる後輩達だが、その叫びを合図に動いたのは彼等だけではなかった。
「死ねェ土方ァアァァ!!」
「上等だゴルァ!!」
こっちはこっちで別の睨み合いを続けていた土方と沖田も動きを見せたのだ。まずは大きく踏み込んだ沖田の攻撃を鬼副部長が交わす。となればその攻撃を一身に受け止めたのは逃げ惑っていた後輩達であった。
「ぎゃぁあぁああ!!」
到底木刀で打った音とは思えぬ衝撃音と、走りながら合掌してやりたいぐらいの悲痛な叫び声が剣道場に沸きあがった。
「ちょっとちょっとあんた等…!!!」
流石に山崎が止めに入ろうと思い、まずは夏目を静めようと腕を伸ばせば、暴れ回っている土方&沖田ペアが邪魔すぎて上手く動けない。もしかしたら山崎自身も彼等のとばっちりを受けるハメになるのだ。
「だぁーーもう!!何で土方さんと沖田さんが喧嘩してんですか!!」
「だって近藤さん達と一緒に風船膨らましてたんですぜィ!?俺が!一生懸命掃除をしていた時に!挙句の果てにそれを体につけて(近藤さんと後輩達が)踊ってたんでさァ。…何か(近藤さんと後輩達に)ムカついたから土方さんに喧嘩しかけやした」
「おまっ、俺は手伝ってただけじゃアァアァ!!!」
実は一番のとばっちりを受けていた土方もようやく防御の体制を崩し竹刀を握りなおす。だが先に沖田の背中を取って竹刀を振るったのは夏目であった。
「総ちゃん全然掃除してないでしょうが!!」
「しーてーやーしーたー」
「してない!いっつもいっつもサボってばっかり!今こそ積年の恨みを果たす!!」
「上等でィ」
さっき倉庫で野球の素振りをした甲斐あってか、彼女の強力なフルスイングが沖田の胴を狙う。しかしS王子がそれを素直に受ける事はなく見事に跳ね返せば、その勢いに負けた彼女の竹刀が宙を舞って木のロッカーへと見事に刺さる。
「あー!」
「あ、穴あいちまった……」
竹刀は本来ロッカーをぶち壊す為にあるものではない。
「いい加減にして下さいよ沖田さん達。後輩が完全にびびってるじゃないですか…」
「う……!……ご、ごめん……」
ここで塩らしく謝ったのは彼女だけであり、沖田としては全く反省の態度なし。そうすればとばっちりを受けていた土方が納得する筈もなく、山崎の一声で一旦落ち着いたかと思われたが、それは第2Rに入るまでの休憩のようであった。リングの鐘が鳴って鬼副部長の本領発揮が訪れた。
「今日という今日は叩き斬ってやらぁ……!!」
土方の顔が本物の鬼になりつつある場面で、正気に戻った彼女は山崎と後輩を盾に何とかしてやり過ごそうと考えていた。彼の狙いは沖田だけなのだが、この剣道場から出れない限り流れ弾の一つや二つは覚悟しておかなければいけない。すっかり放置の近藤は視界から消すものとし、2人が対峙しているその姿をただ見守るしかなかった。道場のこの異様な空気に飲み込まれるかのように、外の木々がザワザワと音を立てて揺れる。やがてその中の一枚の葉が人知れず地面に落ちた時、「死ねやアァアァァ!!!」とおおよそ竹刀を握っている人間とは思えない土方の掛け声があがった。目を瞑って聞いていれば只の殺人現場の声である。
「俺が死ぬ前にアンタを殺してやりまさァ」
山崎達とは違いこの状況を楽しんでいる沖田は、特有のニヤリ顔を見せながら竹刀を片手で構える。そしてそれを大きく後ろに引き勢いよく振りかざすのかと思いきや「あ」という彼の間抜な声と共にすっぽ抜けた竹刀は、綺麗にガラス戸をぶち破った。
「えぇえぇぇえぇぇ!!!??」
「いっけね、汗ばんですっぽ抜けちまいやした」
恥ずかしそうに笑いながら頭をかいている沖田だが、そんな可愛らしく謝ったとて割れたガラスは戻らない。
「何か他に武器はー……」
「総ちゃん後ろ後ろ!!」
呑気に新しい竹刀を探している沖田に迫る土方の凶刃。彼女の叫び声のお陰で何とかよけれたものの、その餌食になったのは逃げ惑っていた後輩の一人。
「あぁ!ちょっと土方君!!ちゃんと総ちゃんを狙いなさいよ!後輩をいじめるなんて最低だ!!!!」
「さっきまで俺達を追いかけ回してた先輩が言える台詞ですか!!?」
「えーっと……竹刀竹刀っと……」
「死ね総悟オォオォォ!!!」
一体誰が何を言っているのか分からないような分かるようなこの混沌した場で、ただただ逃げに徹しようとする後輩なのだが、妙に臆病な夏目に捕まってしまえば最後、「盾になって!」という掛け声と共に繰り出されるのは1本背負いであった。それも柔道部顔負けの投げっぷりである。
「何でだよオォオォォオォオ!!!」
山崎が盛大な突っ込みをいれるが、これで3人目の犠牲者が出てしまっていた。
「何で盾にしたいが為に投げるの!!?」
「いや、直接盾にして土方君の竹刀受けたら死んじゃうなーと思ったから、後輩を投げ飛ばしてそれを土方君にぶつけたら(?)彼の凶行も止まる訳であり、私に平和がやってくるかなーっと……」
「どんだけ遠回しな盾だよオォオ!!!」
「よし!山崎君も私に投げられるかね!?」
「いやいやいやいや遠慮しときます」
こうやって彼等が話している間にも土方の手によって犠牲者は増えるばかりだが、上手く隙をついて避ける沖田には一切の傷が無かった。だが逃げる時に変に周りを巻き込むので、彼が立ち去った後には土方にとどめを刺された人が転がっていた。それを見た山崎は乾いた笑いをこぼし、夏目とこうやって話している暇は無い、とようやく悟る。
「私が怒ってた筈なのに何で土方君が暴れてるんだろう……?」
「総悟待てゴルアァアァァ!!!」
「嫌でィ!必殺・槍投げ!!」
「アンタそれ槍じゃなくて竹刀だよオォオォ!!!」
「ぎゃあぁあぁああ風船が割れたアァアァ!!」
「いや風船割れても死ぬ訳じゃないから!」
「ねぇーどうして土方君なの?どうして土方君が暴れてるの?」
「あ、またロッカーにささっちまいやした」
「おい、誰だこんな所にゴリラの死体を放置してんのは」
「それアンタが敬愛してる近藤さんですよ!!?」
「あぁ!風船が!」
「ねぇどうして私も一緒に逃げてるんだろう?どうしてだろう?」
「とか言いながらハル先輩ちゃっかし木刀持ってるじゃないスか!!」
「風船割る気だ!この人まだ風船割る気だ!!」
「待てやあぁあぁぁぁあぁ!!!!」
「あーもう今日のクラブ絶対無理だな」
「!ちょっと!どこに行くのよ山崎君!!」
「必殺・ハンマー投げ!!!」
「それ籠手です先輩イィイィィ!!!」
「しかも避けられてる!?そして部長に当たってる!!?」
「ぎゃぁあぁぁこっちに来ないで下さいいぃぃ!!」
「もう無理だ、逃げよう」
竹刀8本、ガラス1枚、ロッカー3つ。これだけで被害がおさまったのは奇跡である。後に"生命粗末の事変"に繋がったこの喧嘩が終わった直後、顧問の銀八に全員が怒られ、道場で1時間正座しとけと言われたがすぐに飽きた彼等が5分後にこっそり帰ったのは、グラウンドで練習していた野球部だけが見ていたとか……。
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