電波にのって #3
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さらば妖怪ハウス…!そんな声があちらこちらから聞こえるのだが、夏目は至って屋敷に対しては感傷に浸らず、早く荷物をバスに乗せてーと声を張った。
合宿4日目、それは自分達の家に帰る事を意味していた。迎えに来てくれたバスに荷物をホイホイと詰めて、少しいびつな入れ方だったが何とか全てが入りきった。銀八は既にバスに乗り込んでいて買い置きしておいたポッキーを独り占めしていた。それを見つけた沖田が7本奪い取るという凶行に及んだ。
「全員乗ったなー!?」
部長である近藤がそう声をかければ部員達が「はーい」と言いながら手を上げる。
「あ、近藤さん、まだ乗ってない奴が居やすぜィ」
「ん?誰だ?」
「ほら、ここ数日ずっと近藤さんの後ろに居た小さな女の子でさァ。あの子は連れて来なくて良いんですかィ?……あ、すいやせん、今は土方さんの隣に居やした」
「何で最後の最後でそんな怖い事言うの総ちゃんは!!!??」
「おま、冗談でもなぁ!!言って良い事と悪い事があるんだぞ!!!!」
「びびってんですかィ土方さーん」
したり顔の沖田に「びびってねぇ!」と土方が強く言い張る。
「でも今は近藤さんの横に移動してやすねィ」
「運転手さあぁぁぁぁん!!!!お願いですからもうバスを発車させて下さいイイィィイィ!!!!」
近藤の全身全霊のお願いどおりバスはゆっくりと山道を下ってゆく。徐々に木の陰りから抜けて、部員達にとっては久しぶりに見たような太陽の光だった。
「あー、何か浄化されていくような気分だね山崎君ー」
「そうだねー……心も温かくなるねー……」
「!大変でさァ!近藤さんの隣に膝の上に座ってる女の子の姿が透け始めて…」
「ちょっと黙ってろ総悟オォォォオオ!!!」
びびりの土方に渇を入れられ、ここで沖田はようやく口を閉じた。やけにテンションが高く見えるのは、合宿を乗り越えられた疲れの裏返しなのだろう。
バスが走り始めて数分後、早速沖田は持ち込んでいた袋をごそごそと漁り始める。あからさまにドクロマークの書かれているその袋を見て、隣に座っている夏目は顔を引き攣らせていた。しかし、じゃじゃーんという言葉と共に出てきたソレは玩具屋でよく見かけるものだった。所謂、黒髭危機イッパツ。本来のものよりサイズは一回りでかい分ナイフを刺す場所も多い。成程これなら部員全員が刺せそうである。案外普通のものが出てきた事に全員が拍子抜けた訳だが、沖田が持ち出したものだから最後まで油断は出来ない。1人1本ずつプラスチック製のナイフが土方以外に配られた。
「全員これのルールは分かってんな?取り合えずブッ刺せば良いんですぜィ」
「おい、俺の分のナイフは」
「あぁ、忘れてやした、はい、どうぞ」
後から渡された彼のナイフの先端には何やらアルミホイルのようなものが付けられていて、触ると少し静電気が走った。
「わくわくするなぁ、トシ!」
「いや全然わくわくしないんですけど、嫌な予感ばっかりするんですけど、何で俺のだけアルミがついてるのか気になるんですけど」
「誰かが当りを刺せばこの黒髭君が飛び出して、それからこの樽が爆発しやす。はい、じゃあまずハルから」
「待て待て待てエェエェェ!!!!」
夏目に樽が渡されたと同時に土方が盛大に突っ込んだ。
「お前今なんて言った!!?黒髭君が飛び出した後どうなるって!?」
「だから、この樽が爆発しやす」
「何言ってんのお前。大丈夫かお前」
大丈夫でさァ、と平然と言いのけた沖田はその樽をもう一度手に持ち、何やら自慢げにその仕組みを説明しはじめた。
「これは俺が数日前に細工した黒髭危機イッパツでしてねィ、黒髭君が飛び出すスリルを凌ぐ恐怖を再現してみたんでさァ」
「お前のその考えで俺達は既に恐怖を与えられてるよ」
「樽の中心には微量の火薬が入ってて、当りを刺した人物は紛れもなく、死にます。でもご安心あれ、死ぬのはそこに刺した人物だけでさァ。周りに被害を及ぼしやせん」
「どこに優しさ見せつけとんじゃアァアァァァァ!!!!」
その危険物を土方が素早く没収すれば、沖田は面白く無さそうに口を尖らせた。
「それ作んのにどれだけの時間を費やしたと思ってんですかィ」
「知るかんなもん!」
「2時間でさァ」
「早いなオイ!」
「因みに爆発するしかけはある一定の場所を刺すんじゃなくて、ある一定の物を刺せば爆発するような仕組みになってんでさァ」
「あ…ある物?」
彼女が恐る恐る聞いてみる。ある物、と言えばやはり彼らの持っているナイフなのか…?部員達が不安そうな顔で各々のナイフを見つめ出すと、沖田は更に詳しい解説を入れていく。
「大丈夫でさァ。プラスチックで摩擦は起きても中々電気は作りやせんからねィ」
「電気……ってどういう意味デスカ総ちゃん…」
「つまりの所、この幾つも開いてる穴に静電気を突っ込めばその瞬間にドカンって訳でさァ」
「つまりは爆発する運命にあるのは俺かアァアァァ!!!!!!」
最初から何かおかしいと睨んでいた土方はようやく沖田の作戦の全てを知る事が出来た。自分のナイフだけ後に渡され、しかもその先端にはアルミホイル、そして充分なまでに溜まっていた静電気…。結局の所土方を亡き者にする為の腹黒少年の遊びであった。
「さあ土方!ナイフを刺せ!」
「誰が刺すか!!!」
「ひ、土方さん!!!取り合えずそれを電気から遠ざけないと、何かの拍子にその樽に電気が走ったらどうするんですか!!!ナイフを刺さなくたってその樽はいつでも爆発する可能性があるんですよ!!」
そんな山崎の言葉にワーワー騒いでいた部員達の動きが数秒止まる、そしてまた激しく騒ぎ出す。
「ぎゃー!!!副部長!それをこっちに持って来ないで下さいー!!!」
「俺だってこんなもん持ちたくないわアァアァ!!!」
「揺らし過ぎるとその中で摩擦が起きて爆発しやすぜィ!」
「テメー何爽やかな顔で物騒な事言ってんだアァアァ!!!!」
これは離れるしかない、と長年の経験で悟った彼女は、危険物(樽)がバスの中でバレーのトス状態に合っている中を掻い潜って人知れず前へ移動した。祭じゃわっしょいいぃいぃ、と半ばヤケクソになっている部員達の声を背中で聞きながら彼女がどこに座ろうか迷っていると、バスが風に煽られ一瞬グラリと揺れた。上手く踏ん張れなかった彼女はとあるイスに倒れこむ。
「うわ、ビックリした……」
少し早くなった鼓動を感じながらも、彼女がここに座ろうかと改めて座り直した時、通路を挟んだ向かいの席では銀八が悠々と睡眠を取っていた。暖かい陽の光を浴びるように顔を窓際へ預け、いつもかけている眼鏡はネットの中。自身がかけている薄いタオルケットのようなものは、バスが道路の小さな段差を乗り越える度に少しずつズレ落ちていた。
「風邪は……まあ引くような気候じゃないか……」
しかし夏であるからこそ冷房で体調を崩す事もある。彼女が何となく銀八に近づいてみれば前髪がそよそよと揺れているのに気付く。備え付けられている冷房が彼に直撃しているのだ。
「ああ、これは風邪をひいてしまうかも……」
そっと掛けなおしたタオルケットに銀八はほんの少しだけ体勢を崩し、また何事も無かったように夢の世界へと更に深く沈んでいく。その姿に満足したのか、夏目は「よし」と笑った。そんな様子をまさか土方が眺めていたとも知らず、それでも彼女を呼んだのは沖田だった。
「ハルー。全員でババ抜きでもしやすぜーィ」
「あ、うん!!」
どうやら黒髭(土方)危機イッパツは封印されたようで、何とか落ち着きを取り戻した部員達が配られたカードをびくびくしながらも受け取る。全員がやるとなれば一人当たりのカードの枚数はとてつもなく少ないものだが、中々終わる事は無いだろう。
「それじゃ、私が土方君のカードを抜くね!」
自分の席に戻った彼女が土方の持つカードへと手を伸ばす。
「………ま、頑張れや」
「?うん、絶対一番に上がるよ!」
いや、ゲームの事じゃなくて。心中呟いたと同時に引き抜かれたカード。
「あちゃー、やっぱり揃わなかった」
残念そうな声を出す夏目に対し土方は、隣にあるジョーカーを引かなくて良かったな、なんて小さく言ってみる。勿論それは部員達の騒がしい声によって聞こえるはずは無いのだが、彼女は妙に勘が良いのか土方に顔を向けて首を傾けている。
「頑張れ」
土方のその言葉に、彼女は「うん!目指すは一抜け!」と笑顔で答えた。
いや、だからこの事じゃなくて…。
そこまで彼は口に出したりはしなかった。
彼女達のクラブの夏が、終わった。
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