電波にのって #2
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今日は1年生が作ってくれた美味しい美味しいご飯を頂きまして、半ばビクビクしながら(大声で歌いながら)お風呂に入って、さて就寝です。脱衣所は凄く怖いので、髪の毛は濡れたまま全力で大広間まで戻ってきました。みんなもそれぞれ布団を敷いていて、気の利く後輩は私の分の布団もしっかり敷いていてくれてました。ちゃんと敷居の奥にあって、そこらへんを配慮してくれているその心遣いに思わずときめいてしまいます(敷いてくれたのが誰かは知らないけれど)。
「うわ、ハルちゃん髪濡れすぎ!」
敷き詰めた布団の上でUNOをしている山崎君にそう突っ込まれましたが、だって、脱衣所怖くてドライヤー使いたくないんだもん!山の夜の冷えこみは少し激しいから本当はちゃんと髪を乾かした方が良いんだけど、やっぱり脱衣所には居られません。
「お前昨日濡れたまんま寝ただろィ」
「…総ちゃんだって濡れてたじゃん」
「俺は短いから別に良いんでさァ。……ほれ、そこにコンセントがあるからここで乾かしな。……あ、ウノ」
沖田先輩強エェエ、という歓声を聞きながら、私は言われた通りコンセントにプラグを差しこみ大人しく髪を乾かし始める。
「(何よ何よ偉そうに!髪濡れて寝たって良いじゃない!ちゃんと枕の上にタオルひいてたのに!しかもウノが強いって何よ!あんなの只の運なんだから、強いもクソも…)」
「ハル、何か俺に言いたい事があるんなら何でも言ってくれて構いやせんぜィ?」
「何でもありません沖田君!!!!!!」
私の心を読んだのか否か、幼馴染みの黒い顔が見えた瞬間に、私は敬礼つきで彼に返事をした。危ない危ない、もう少しで殺られる所でした。そんな彼がようやく1位抜けすれば、チラホラと枕投げのような催しが広がっていくのが分かる。私が部屋の端でその様子を眺めていると、同じく風呂上りの先生が、ずれた眼鏡を掛けなおしながら部屋に入ってくる。お父さん、私は大人の男性でこれ程までにジャージが似合っている人を見た事はありませんでした。気だるそうな着方が先生によく似合ってらっしゃいました。
「先生も髪濡れすぎですよー。後でドライヤー貸しましょうか?」
「あぁー?」
山崎君のお陰で霊を取り払ってもらった先生は、昼間よりはやけにスッキリしたような顔をして、その濡れた髪をガシガシと掻いている。入れ替わりに1年生が風呂場へと向かって、この大広間はウノをしている数名と、残りは枕投げに徹していた。空中を飛び交う枕に当たらないように気を付けていると、先生は何を思ったか、急に私の前に座り込む。しかも背中を見せられているんですが、これどういう事ですか?
「乾かすのめんどいから夏目やって」
「はぃぃい!!??」
いやいや無理ですって。私も渋々ドライヤーをやってる身なんですから、何で人様の髪を乾かさないといけないんですか。と言うか先生の髪を乾かすイベントなんて私の想像では一切無いので(当たり前)、どう対処すれば良いか分かりません!!頬は風呂上りのせいで元々赤くなっているから良いものの、この状況を私はどうすれば良いの!?ねえどうすれば良いの!?思わず手が止まり、ドライヤーの温風が何も無い所へ向けられる。そんな時立ち上がったのは、1位抜けした総ちゃんだった。
「よし。俺がしてあげまさァ」
そう言って私の隣に座り、ドライヤーを奪い取った。総ちゃんがやってくれるなら私は用無しだろう。髪もずいぶん乾いたし、お先に就寝しようと立ち上がった。
「おま、絶対髪引っ張ったりすんだろーが」
「大丈夫でさァ。引っ張ったりなんてしやせん。引きちぎるだけですぜィ」
何とも恐ろしい発言を聞き、先生は何を思ったか去ろうとした私の手首を掴み、強く引っ張られたと思ったらまた座らされた。突然の出来事に心臓が破裂するかと思った…!
「ビビビビ…ビックリしたぁ……!!!」
「夏目さん!!!!!!是非ともココに居て下さい!!!後ろにいるサディストと選手交代して下さい!!!!」
土下座するかのような勢いだったが、総ちゃんが素直にドライヤーを離す訳が無かった。きっと先生の髪で遊びたいが為に名乗りでたんだろうなぁと思っていると、本当にそうだった。引き止められたからには私も居るが、総ちゃんの暴走を止める事は出来ません。先生からは、これ以上天パを悪化させないように乾かせ、という難しい注文を頂きました。そんな事、総ちゃんに言ったら逆の行動を起こすに決まってるじゃないですか。ブオーンという音と共に温風は先生の髪を乾かしていく。何とも面白い癖を覚えさせられながら。
「沖田君沖田君、君さ、俺の髪をクルクル巻き上げながら乾かしていないかい?」
「エ?ダッテ先生最初ニソウ言ッテイタジャナイデスカ」
「何で片言だよ!?俺はこれ以上天パを悪化させないように乾かせっつたんだよ!!!誰が巻き髪作れって言いました!!!??」
「先生もう遅いです。素敵パーマが続々と完成していっています。沖田総悟による自然パーマの楽園です、パンデミックしてます」
「パンデミック!!??おま、感染止めてエェエェ!!!」
「よっし!完成でさァ!」
無惨にもとめる事が出来ず、先生はいつもより数倍ボリュームのあるような髪型になってしまった。私と総ちゃんはずっと後ろから見ていたからシルエットしか分からないものの、真正面から見たら中々のボリューム感。こっちを見た山崎君が軽く噴出したのも理解出来ます。私もこらえきれず笑い出してしまった。
「あはははは!!!せ、先生っ、何か、か、可愛いっ……、ははっ、パーマ代いらずですね!!」
「俺の傑作でさァ。題名、"パーマ・パンデミック"」
「俺の頭をウイルスみたいに扱うなアァアァアァ!!!!」
遂にご立腹か、先生は飛び交っていた枕を器用に掴み取り、この場で一番爆笑している私に向かって投げてくる。野球部のエースが驚くぐらい綺麗なフォームからくる豪速球は枕には見えなかった。やばい!かわせないかも!
どうせ当たっても枕だし痛くないか、という甘えからか安易に目を瞑ってしまおうとすれば、総ちゃんがすかさず飛び出してきて、その長い足で飛んで来た枕を思いっきり蹴飛ばしてくれた。
「総ちゃんブラボー!!」
歓声を上げ、蹴飛ばされた枕の行方を見てみると、見事に先生に向かって飛んでいっている。しかし流石先生、迷わず顔面に向かって飛んできているそれをいとも簡単にしゃがんで避けた。そんな先生の背後には、この大広間から廊下へと続く出入り口が…。そして運が良いのか悪いのか、お手洗いから戻ってきた土方君の顔面にそれがぶち当たった。
ボトリ、と枕が落ちて、大広間から一気に音と声がなくなり、視線が彼へと注目した。そして広がっていく黒い運気。うん、土方君の怒りのオーラに間違いないよ。
「………こんの………、…っ総悟オォオォォォォオ!!!!!!!」
いつもの部活中に怒鳴るぐらいの勢いで、土方君は首にかけていたタオルを投げ捨て、目の前でしゃがんでいた先生の背中を踏み台にこちらに向かって突進してくる。手にはちゃっかし枕が握られてあった。
「ここで決着をつけてやるぜィ!!!」
何の決着だよ、と叫び声交じりの山崎君の突っ込みは、開戦した枕投げの前には通用しません。いま風呂に入っている後輩以外が枕投げに参戦し、何とも規模の大きいものになっていた。こうなりゃチーム戦にして何かルールを決めて戦った方が遣り甲斐があるのに、みな只単に枕を投げているのが楽しいのか、飛んで来る物体を避けたり投げたりに必死になっている。風呂に入ったばかりなのにまた汗をかくとは思ってもいなかったけど、ウエストの緩いジャージに気を使いながらも私も懸命に逃げ回った。うぉぉおぉぉおぉ、と雄たけびのような気合が響き合っている中を潜り抜け、ようやく大広間の端にまで逃げてきた。玉入れでもしているかのような情景です。こうやって遊んでいるのも楽しいけど、私は取りあえずドライヤーを片付けてさっさと体を休めないと、明日への体力が温存出来そうにありません。コンセントから引っこ抜いたそれをコンパクトにまとめて、無差別に飛んで来る流れ弾をパンチしたり、足で蹴り上げたり避けながら荷物の所までやって来て、寝る準備をする。剣道着はもう揃えてあるし、防具はちゃんと道場に置いてきてある。
うん、準備完了!私が寝る場所は大広間の隣にあって、かと言って繋がって無い訳でもなく、襖を開ければ大広間と合体出来るような場所にある。律儀にも仕切りを立ててもらっている。一瞬また戦場の中に舞い戻り、流れ弾を先程と同様に防ぎながら(ついでに近藤君と山崎君も蹴り上げちゃった…)、何とか無事に布団の所まで辿り着ける事が出来た。その部分だけ明かりをけして、平和に布団へと潜り込む。みんな自分の戦いに集中しているのか、私1人が居なくたって気付いてすらいない。
「(みんなおやすみー……)」
疲れた私の体は睡眠の世界へと簡単に引き込まれ、最後に見た光景は、仕切りの隙間から見えた、先生の楽しそうな笑顔だった。
**********
「あ」
そう呟いた沖田の声はさほど大きくなかったが、その声が指す被害の音は割りと大きなものだった。土方が投げた枕を沖田が避ければ、それは寝ている夏目の仕切りに不運にも当たって倒してしまったのだ。それでこの戦いが止まる訳では無いが、避けた張本人とそれを目撃してしまった俺は、被害者が目を覚ましていないか隣の薄暗い部屋まで移動して確認する。ぎゃーぎゃーという喧しい叫び声を背中で聞きながら、二人でそーっと夏目を覗き込むが、何事もなく眠り続けていた。足などには当たっていたと思うが、顔に当たらなかったのがせめてもの救いか、数秒眺め続けた瞼が開く気配は無い。
「ふぅ…良かった…。このまま起きてたら文句の一つでも言われそうでしたねィ」
「だな」
取りあえず仕切りを立て直してみると、また飛んで来る枕が数個。別にこっちを狙っている訳などではなく、たまたま生まれてしまった軌道のせいでこっちに飛んでくるのだ。このままではまた仕切りが倒れるのは必至で、その度にこうやって直さなければいけない事となる。枕投げ大会はまだ終わりそうにも無いし、ならどうすれば…。
「もう仕切りいらないんじゃないんですかィ?」
「おま…それなら枕飛んで来放題じゃねぇか」
「先生がここに居て守れば良いじゃないですかィ」
「ばっきゃろー。俺は狩人だからジッと座って守るなんて事出来ねぇの」
「……」
「……」
「…襖、閉めやしょうか」
「そうすっか」
意見が一致して、俺達は大広間へ続く襖を閉めた。最初から仕切りなんか作らないで、こうやって襖を閉めてんのが一番賢い方法だったのかもしれない、と今更思った。
「さて、寝るまでに数人をぶちのめしてから寝るとしやしょう」
清々しい笑顔で、恐ろしい台詞を何の躊躇いなく言う沖田に口元が引くついていると、後方から一つの枕が飛んで来る。それを俺が避ければ、隣に居た沖田にあたり、足のバランスを崩したのかふらりとよろめき、倒れこんだ先は襖だった。バターン、と音が鳴る。
「お、お前何してんのオォオォ!!?いま閉めたばっかだよな!!?いま解決法打ち出したばっかだよな!!?」
「良い度胸でさァ山崎イィイィィ!!!」
がばっと勢いよく立ち上がった沖田は、何故か枕を持たず敷居からはずれた襖1枚を持って立ち上がり、ブーメランのようにそれを投げる。今までで一番大きな悲鳴が響き渡り、その技は山崎を含め、多数の被害者を一気に打ち出した。まさしく戦場が本物の戦場になった瞬間だった。戦いは止まる事を知らず寧ろヒートアップしているような気もする中、俺はまた夏目を覗き込んだ。
「(……オイオイ、今の音でも起きないってどんだけ爆睡してんだよ……)」