電波にのって #1
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それじゃ帰りの時はまたよろしくお願いしまーす。先生の軽い声と、バスが走り去って行く音が背後から聞こえる。
そうです、私達は目的地である合宿所までついたんです。去年と場所が違うという事で割と期待していた私達は、その合宿所を目の前にして絶句するしかありませんでした。全員が荷物をボトボトと地面に落として、かろうじて持っている竹刀を支えに立って目の前に建っている屋敷を見上げた。
「いやー、良い所だろう。避暑地だな避暑地」
金、と書いてる扇子で自分を扇ぎながら先生は私達の前に立った。…避暑地?確かに周りは緑に溢れていて、というか溢れすぎていて太陽の光が都会よりも差し込んできません。でも風は吹いているので半そでじゃ少し寒いような気もします。というか別の意味の寒気がするのは気のせいですか?
「鳥もたくさん居るしよー」
鳥…ですか?そうですね、やけに真っ黒な鳥が何匹…いや、何十匹と居ますね。かぁーかぁーとしゃがれた声を出しながら緑の隙間から見える空を自由に飛び交っています。
「元・民宿なだけあって中は広いんだぞー」
確かに広そうです。けれど元・民宿という事は今は無人なんですね?だから電気もついていないんですね?この広さと灯りの無さのせいで奥行きが半端なくあるように思えるのは私の視力の悪さのせいですか?おかしいな、Aの筈なのに、突き当たりが全く見えない家に見えるんですけど?壁もあちらこちらが剥げているし、雨戸とか完全に閉まってない所か敷居から外れてますけど?
「アレだな、アレ!あの漫画のキャラクターが住んでる家みてーなもんだな」
「………………」
全員が沈黙のまま先生の言葉を待った。
「何だっけなー…あれ……」
「………………」
「……あ!ゲゲゲのきた…」
「「「妖怪ハウスって事じゃねぇかアァァアアァァァアァ!!!!!!!!!」」」
部員全員が一斉に先生に襲い掛かった。響き渡った声のせいでカラスも一気に飛び立った。黒い羽が数枚地面に落ちてくる。別に掃かなくたって良いでしょう、どうせ山なんですから。そうです、山なんです。高速を降りた時点で凄い田舎について、ちょっと去年と雰囲気違うなーと思いつつも黙って車内に乗っていました所、バスは急に山道を登り始める訳ですよ。このバスの馬力でいけんのか、と誰かが呟いていたけどそんな事はもうどうでも良いんです。だって着いちゃったんですから。山道はコンクリートで舗装はされていたものの、車とは一台もすれ違わなかった。そして数分ぐらい上り始めた所でバスは私達のこの場に下ろしたのだった。今にも何かが出てきそうな空気に、私は自分の腕を抱いて、先生に暴行をくわえているみんなを止めた。
「ちょ、ちょっと落ち着こう!」
「これが落ち着けるかってんだよ。何だこの場所。ぜってー何か居んだろ」
「何だー怖いのか多串君」
「全員着剣」
土方君の静かなる声に素早く反応した部員達は、その指示通り着剣して(竹刀を持って)また先生に襲いかかった。収集のつかない事態にどうしたもんかと思い元・民宿を見上げる。嫌な寒気は幽霊的なものじゃないと信じたい。最初から暴行から離れていた近藤君と山崎君と並んで「どうしようか…」と言ってみるだけ言ってみる。どうしようも無いのはよく分かっています。
「ここで三泊四日かー…」
「私耐え切れるかなぁ………」
後ろからはバイオレンスチックな音が聞こえてくる中、山崎君がさっきから一言も発していないのが気になって、思わず顔をのぞいて「どうしたの?」と聞いてみる。彼は一度乾いた笑みを見せてくれてから、視線をまた元・民宿に戻した。
「……俺ね、小さい頃から割とある方なんだよね……」
「ん?」
静かに話し出したと言うのに、後ろの団体も暴行を止めてこっちを見ているのが何となく背中で分かった。まだ腕を抱いたままの私は山崎君が何を言っているか分からず、続きの言葉を待つ。聞いた瞬間、聞かなきゃ良かったとすぐに後悔する事が出来た。
「霊感が、です」
カララン、と誰かの竹刀が砂利の道に落ちたのが聞こえた。カラスが楽しそうに喚いている。
「いやぁ、ここ凄いですね」
その言葉に、何が、とも聞けなかった。いや、聞けなかった。もう分かってるんです。分かりきっているんです。それを敢えて聞く必要などあるでしょうか。そんな中で先生が自分の事を守るかのように口を開く。
「いやー、ここは良いぞ。格安だったしな。人が居ねぇから暴れ放題だし、食料は近くの民家の人たちがもう台所に入れてくれてるらしい、格安だし、涼しいし、格安だし、自然がいっぱいだし、格安だし」
何度も登場してくる格安という言葉…。きっと先生はこの言葉に惹かれてこんな場所を選んだ、間違いない。
「死ねや銀八イィィィィィィイイイィィ!!!!!!!!!」
土方君の怒声に、カラスが驚いてまた飛び立っていきます。そして黒い羽もチラホラと落ちてきます。お母さん、私は今これから寝泊りを続ける屋敷の前に立っています。名称は妖怪ハウスと名づけた方が良いでしょう。座敷わらしは居るでしょうか。それは分かりませんが鳥がいっぱい居るのは分かりました。黒い羽を持った鳥がいっぱい居ます。都会でもよく見受けられるあの鳥です。ゴミ袋を散らかすから困っちゃいますよね。そんな身近な鳥達に囲まれている元・民宿の前に私は居ます。お母さん、言っても家を出てまだ数時間ですが、強烈に帰りたいと願っています。…心の中でつらつらと述べながら、バックから聞こえる断末魔と共に「ハハ、ハハハ…」と途方にくれた笑みを近藤さんと共に零しました。さあ、合宿の始まりです。
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