転んでも恋
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「ぶ……っ!」
可愛らしくない声を上げた後、私は鼻をおさえた。取り合えず派手なぶつかり方をしたので、流石に一声謝ろうと視線を上げれば、そこには何と土方君が呆れ顔で立っていた。わお、凄いタイミング。
「お前はホントに……」
「あ、やっぱり帰るんだ」
「ちげーよ」
見た感じ近藤さんも居ないしお妙も居ない。単独行動中なの、と聞いてみれば首を軽くふっていた。
「人と待ち合わせ中」
「……ふーん……」
あれ?この人待ち合わせとか嫌いな人じゃなかったっけ?
「………誰と?」
「お前には関係ねーだろうが」
「それはそうだけど気になるじゃない」
「………とにかくお前総悟の所に行くつもりだったんだろ?」
「あ、そうそう!本部のテントまで!」
「………無理だろ」
「失礼な!」
ずっと人混みのど真ん中で話してる訳にも行かないし、土方君も待ち合わせがあるという事でちょっとこの波からまた出てみた。そしたら土方君は「ついて来い」と言って、どんどん進みだす。あら副部長さん。本部のテントまでつれて行ってくれるのかな、と思いきや辿り着いた先は食事スペースのテントであった。規模はでかいようで、どの机も人が使っている。パイプイスだって一つも空いていない。
「あ、いたいた」
「?」
何も教えてくれない土方君に黙ってついていけば、そこに待っていたのは何と!何と坂田先生が居るじゃないですか!ついでに服部先生もいらっしゃいました。何を思って私をここに連れてきたのだろう?彼の横顔を見ても何も分からなかった。
「おい銀八」
土方君がそう呼んでいる。坂田先生と服部先生は大きなコップを持っていて、その中身はきっとビールだろう。頬も少し赤いその顔で、先生はゆっくりとこっちを見る。祭り会場には派手なライトはなくて、上には提灯がぶら下げられているだけ。控えめな光も膨大な数あるから足元はよく見えるのだけれど、テントの中ではどことなく薄暗い。その中での先生の銀髪は………やっぱり綺麗で、羨ましい。
「銀八、こいつを本部のテントまでつれてってやってくれよ」
「はい!?」
驚いたのはもちろん私です。何を考えてるんだこの副部長は!土方君の腕を持って揺らして顔をしかめてみるけど、「1人で歩いたらまた迷子になるだろ」と一言返って来た。そりゃ迷子になるかもしれないけど何故に坂田先生にお供を頼むのですか青年!
「んぁー?別に良いけど…」
「じゃ頼むわ、俺人待たせてあっから行くな」
「え!ちょっと!土方君!」
声をかけたのに、彼は振り返らずに人混みの中へと消えていった。置いてけぼりの私はどうすれば良いの!?混乱している私を呼んでくれたのは坂田先生だった。
呼ばれたので行かない訳にはいかないし、服部先生が荷物を退けてくれて、イスを一つ提供してくれた。坂田先生の隣では無いけど、この状況は私にとってどうよ!?どうすれば良いのよ!?
「……先生方、こんな場所でお酒呑んで良いんですか?生徒も来てるのに…」
案の定紙コップの中身はビールで、机上にはご丁寧に肴の数々が並んでいた。出店で調達してきたものに違いない。夏目も食うか、と焼き鳥をすすめられ、それでは口止め料にと頂いた。しかしまあ坂田先生と服部先生のツーショットと外で会えるとは思っても居なかった。学校の外で先生と会うのはとてつもなく妙な感じである。
「夏目ー、お前ちゃんと宿題やってるか?」
「ふぁい?」
焼き鳥を頬張りながらだったので何とも間抜な声が出てしまった。
「ホントお前は人聞きが悪ぃな。俺の生徒なんだからちゃんとやってるに決まってんだろ」
「お前の生徒だから心配してんだよ!」
3Zは訳の分からん生徒が多いんだよ!そんな筈は無ェ!担任のテメーが一番訳分かんねぇんだよ!…などと私を忘れて言い合っている二人です。まあ私としては忘れてくれている方が有難い。それより、さっきの坂田先生の言葉がぐるぐると頭を回っているのだ。俺の生徒だから、と言ってくれた先生。そりゃ先生の生徒が私1人ではないけど、今だけは、私だけに向けられたものだと思っても良いだろうか?先生は3Zの生徒全員に向けた言葉として言ったつもりだろうけど、せめて今だけは、今日だけは…。
「服部せんせ、私ちゃんとやってますよ?」
「ほら見ろ。夏目をなめんなよ。現文の時だって真面目に聞いてんのはこいつだけなんぞ」
「あぁ?夏目、俺の授業の時は大概寝て…」
「寝てなんかいませんよぉ!!もう服部せんせは嘘つきですね!」
隣に座っている先生の足を思いっきり踏んでやった。私が頑張って授業中起きているのは坂田先生の授業だけだ。その事実を今ここで暴かれるような事があったら………なんか坂田先生の授業が受けにくくなりそうだ。それは絶対に困る。
「あ、ごめんなさい。踏んじゃいました」
「絶対わざとだろ!!間違いなくわざとだろ!!今度テストの点絶対に下げてやるからな!!」
「!横暴だぁ!教師がそんなんで良いんですか!?」
つい熱が入って机をバンッと叩いてみると、食べ終わった焼き鳥の串の持ち手に思いっきり手の平を置いてしまい、悲劇的にもささくれが少し刺さってしまった。
「いだー!」
「ケケケ、天罰だ」
「先生酷いです!」
「どれ、お前ちょっと見せてみろよ」
「!!」
バカにしている服部先生とは正反対に、坂田先生は眼鏡のずれをなおしながら、手ェ出せ、と言ってくれた。何かもうその一言だけで嬉しかった。録音しておけば良かった。