転んでも恋
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さっきはぐれたのは焼きとうもろこしの出店の前であって、それまであともう少しの筈なんだけど、店の裏から見ても思っている程様子が分かんなくて、どれが何の店だとか、今どこら辺に居るだとか、何も情報が入ってこなかった。迷子のドツボはまってしまったという訳です。下駄だし歩きにくいし微妙に痛いし………。でもそんな愚痴を山崎君にこぼしている暇は無かった。私のせいで彼を巻き込んでしまっているようなものだ、ここは責任をもって彼等と合流しないと!…って行ってももうどこかに移動して、ちゃっかし遊んでたりして…?……有り得る。
「どうしよっかー……これ完全に迷ってるよね」
「うん。ここ私達の地元なのにね。地元なのに迷うってどうよ」
この人の多さがいけないんだ!ちょっと八つ当たり気味に持っていた巾着を軽く振り回してみれば、思いも寄らぬ人物に当たってしまった。
「いてーじゃねぇか」
「あ、高杉」
どういうタイミングでこの男は現れるんだか、ちゃっかし右手にビール缶を持って立っていた。少しこぼれているのは私が当たってしまったからだろう。ざまあみろ高杉め。
「いーけないんだいけないんだ!未成年なのにお酒飲んで!」
「まずぶつかって来た事に謝れや」
「えへ!ごめんちゃい!」
「山崎、こいつ殴って良いか?」
「女の子に手を上げちゃ駄目です」
せっかく可愛らしくウインクで謝ってみたのに、それは高杉の怒りを煽っただけらしかった。持っていたビールを飲みきった高杉は、あろう事かその空き缶を適当な場所に立てた。まさかこの男はゴミ箱に捨てないつもりか!分別しないつもりか!口で注意する前に手が出てしまった。つまりは拳骨をくらわしてしまった。
「ハルちゃんんんんん!!!??」
「バカ高杉!ゴミはゴミ箱に!空き缶は空き缶入れに!」
山崎君がやけに慌てふためいているのは、高杉から殺気のような禍禍しいオーラが一気に立ち込めてるからだろう。「喧嘩上等!」と私は腕をまくりあげるが、ここで入った放送に思わず集中してしまう。それが総ちゃんの声だったからだ。
「あーあーあー、てすてす、ただいまマイクのテスト中ー…あ?何?コレもう音入ってる?あー、はいはい」
何をやってるのだあの幼馴染みは。放送をジャックして何をする気なのだろうか?高杉もクラスメイトの声だと気付いたのか、会場に幾つも取り付けられてあるスピーカーに耳を傾けている。
「ここで迷子のお知らせでーす」
嫌な予感がする、と思ったのは自分の勘とかそんなのじゃなくて、幼馴染みとしての長年の月日からくる自信だった。
「迷子の迷子の夏目ハルさーん。チャイナがたこ焼きを食べながら貴女をお待ちでーす」
「ぎゃはははは!!!!!ハル!!やっぱり迷子になったアルなぁ!!」
「ほんっとバカじゃねーの?なんてこれっぽっちも思ってやせん。こっちはこっちで楽しんどくんで、適当に祭り本部のテント下まで来て下せェ。あ、どうせ辿り着けないか。当人は緑色の浴衣を着てやす。心当たりのある方は本部までー」
「ぎゃははははははは!!!!」
…………非常に不愉快な放送に今度は私が殺気を放つ番だった。いちいち間に挟まる神楽の笑い声やら、もろバカにしてるような総ちゃんの話し方がどうにも許せん!吊るし首じゃぁ!
「あ、緑色の浴衣を着てる人」
と言って、高杉は私を指差した。
「やかましい!!」
「沖田さん達が探してくれてるんだね」
「今のは探してくれているのかな!?ただ私を小ばかにしてるだけじゃないのかな!?っていつの間にか高杉が居なくなってるし!」
「連れと待ち合わせしてるらしいよ」
「連れ?どうせロクでもない連中なんだっ!」
あのお姉ちゃん浴衣が緑ー、と幼稚園の子に指差され私は思わず山崎君の後ろに隠れた。緑の浴衣を着てる人なんて私だけじゃないけど、今の放送のせいで堂々とは歩きたくはない。今日緑の浴衣を着てきてる方々、本当にごめんなさい!
「……あ、近藤さんから連絡入ってる…」
「ウソ!何て?」
不運にも携帯を持っていない私にとって、山崎君の携帯は唯一の連絡機器。今まで何で出さなかったんだろうと思いつつ、送られてきた連絡を彼は読んでいた。どうやら近藤さん達は駐車場付近に居るらしい。けれど時間が時間、受信時間からはそれなりに経っている。近藤さんならまだしも、土方君とか待つの嫌いなタイプだから絶対にどこかに移動してるか、もしくは帰っている筈だ。あ、帰ってるかも。
「山崎君は先に行ってて?私、取り合えず本部のテントに行って来るから」
「1人で大丈夫?」
「うん!ちゃんと1人で殺ってくるから!」
「?」
あのすかした幼馴染みと薄情な親友を殺りに、私は優しい山崎君と一旦離れた。出店の裏を通るのはしゃらくせぇと思ってしまった私は人混みの中に突っ込んでいく事を決めた。足を絡ませないように注意して、流れに沿うように移動するが、肩や肘は沢山の人とぶつかってしまう。現に今も誰かの腕と自分の腕を強くぶつけてしまい、ほんの少し痛がっている間に、目の前に迫っていた人に気付かず真正面からその人の胸にぶつかってしまった。