転んでも恋
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動きにくいな、と言った私に、可愛くないわねぇ、とお妙が笑った。裾をめくり上げて走り回っている神楽に比べたらまだ私の方が女らしいと思うのでは……という言葉は言わないでおいた。
「それじゃ行きますか!」
「美味しいものたくさん食べれるかしらー…」
「大丈夫ヨ姐御!出店の焼きそばは不味くても祭りの雰囲気が美味しくしてくれるアル!」
「神楽、それ正論だけど黙ってようね」
昨日は花火大会、今日はお祭り、こうも楽しいことが続いていると後から何か嫌な事が起こるんじゃないかと身構えてしまう。でも、今はそんなややこしいこと考えてられない!久しぶりに浴衣というものをお妙と神楽と着て、そのまま祭り会場にくりだすのだ。やっぱり気分が浮かれてしまい、がらにも無くお妙の腕に絡みついた。水色の浴衣を着ているお妙はどうにも大人っぽくて、まるで姉のように見えてしまう。神楽は幾分幼いように見えるのだけど、それはそれで羨ましい。とてつもなく可愛く見えてしまうからだ。私たちの数歩先を歩いている神楽は、巾着袋をぶんぶん振り回して歩いているが、一つに結っている髪が左右に揺れていて………やっぱり可愛い。その分私は褒める所が無かった。可愛くもなければ大人っぽくも無い、この中途半端な位置を何とかしたい。…と言っても落ち込んでいる暇は無い!今日は祭り!楽しまなきゃ天罰があたる日なのです。
「今日はいっぱい遊べたら良いね!!あ、総ちゃん達も来てるかなぁ?」
「あのゴリラが居ないのなら誰が居たって構わないわ」
ゴリラと言われている人間がどれ程の殺意を向けられているかが今よーく分かりました。殺る目、というのは今の彼女のような目つきを言うのでしょう。「あは、あはは、あはははは……」と渇いた笑みと冷や汗を出しながら、私はするりと彼女の腕から離れた。
「ハルー!!姐御ー!!何やってるネ、早く来るアルー!!」
明るい神楽の声が私たちを呼んでいる。祭り会場に向かう道のり、住宅街を通り抜ければ一気に人の数が増えた。その流れに沿って歩けば、広い河川敷には所狭しと店が立ち並んでいて、楽しそうな催しが既に行われていた。3人揃って、うわぁ、と感嘆の声が出てしまう。
「早く行こうヨ!」
「神楽ちゃん?あまりはしゃいでると迷子になっちゃうわよ?」
「そんなハルみたいなドジ踏まないネ」
「私がいつアンタの目の前で迷子になった」
絶対迷子になってやるもんか、と意気込み3人で土手の階段を下りて出店をのぞいた。「やっぱり不味いアル」と言いながら焼きソバを食べる神楽の頭をはたきつつ周りを見回した。人の数が思ったより多い。
「ねえ、取り合えず食べ物だけ先に買って、どこかで食べない?」
「あぁ、それは良い……」
私の意見に賛同しようとしてくれたお妙の声が途切れた。何やら顔を驚かせていたのだが、その表情が徐々に般若に変わっていくのを向き合っていた私は間近に見た。何だ、何を見たと言うんですかお姉さん!どうやら私の肩越しに何かを見ているようで、そりゃこの人ごみの中、見えるのは人だけだろう。
「ハル、しゃがみなさい」
「はっ!?」
急に何を言われるかと思いきや、それでもお妙が焼きとうもろこしを神楽に預け拳を握り締めたので、危険を感じた私は素直にしゃがんだ。その直後にお妙がそれを振り上げながら走り寄ってきた。
「何何何何何ー!!!!??」
「お妙さアァァァアん!!!!!」
パニックになって叫んでいる私と重なった声は、それはもう聞いた事があった。我等が部長の声では無かったか?
「果てろ腐れゴリラアァァァア!!!!」
痛々しい音が頭上から聞こえた。その後、何かが倒れる音が背後から聞こえた。頭を抱えたままチラリと振り返ってみれば、近藤君が白目をむいて倒れている。殴られたのか。ご愁傷様です。「殺ったか…?」と拳に微かに返り血を浴びているお姉さまを見上げて、また私は渇いた笑みで笑うしかなかった。昨日会った二人も見受けられるけど、とにかく剣道部仲良し3年生組もやはり来ていたらしい。
「お前達も来てたアルか……取り合えず何かおごれヨ」
「黙れクソチャイナ。俺に頼みごとするたァ良い度胸でィ」
せっかく浴衣を着て可愛らしくなってんのに、神楽は総ちゃんを前にするといつもと全然変わんない。ここで総ちゃんが彼女の浴衣姿を褒めれば違った何かが見えるかもしれないけど、その展開はまぁ有り得ない。山崎君と目が合って、仕方ない二人だね、と言い合うよう少し笑った。
「それにしても人が多いな…」
「あ、それ私も思った。何でかな?」
「隣町の祭りが無くなってよ、んでそいつ等がこっちに流れてきたって話だぞ」
「へぇー…土方君物知りー」
「あ?んな話を聞いただけだっつの」
「ふーん……」
何かいつもの土方君じゃないな、と思ったのは私だけだろうか?流石にお妙の(近藤君に対する)暴行を止めようと総ちゃんと神楽の間を裂いて行こうと思った時、急に人がどっと押し寄せてきたのだ。慣れない下駄をはいているせいで私は膝をついてしまい、それでもへばったままなら蹴られそうだったから急いで立ち上がってみれば、その流れに逆らう事が出来なくて「うわ、わ、わ」と間抜な声と共に足が勝手に前へ出てしまう。
「ハルっ」
神楽がそう呼んでくれたのは分かっていたんだけど、流れるままに歩いていて、やっと落ち着いて座った時、はぐれたんだという事に気が付いた。
「……マジでか」
人混みから離れて、出店と出店の間に空いてあるスペースに潜り込んで、積み重なってあったブロックの上に座り込んだ。困ったぞ。こんなに人が多いとは思わなかった。とにかくさっき居た場所に戻ろうかと思い立ち上がれば、何とも優しい山崎君が私を追いかけて来てくれた。
「大丈夫ー!?」
「や、山崎君…!!何て優しいんだぁ!」
「同じ部員仲間じゃないか」
唯一まともな人間と思っていた山崎君はやっぱりまともでした。もの凄くミントン大好き人間で、自習があるものならば課題そっちのけで素振りをしている彼。恋人はもはやミントンでも良いんじゃね、と思う程の溺愛ぶり。……まともじゃないかも、と一瞬思ってしまったが、とにかく追いかけて来てくれたのが嬉しかった。しかし迷子という状況は変わっていない。
「近藤さん達が居た所に戻ろうか」
「うん」
出来るだけ屋台の裏を通って人混みは避けながら歩いてるつもりでも、裏は裏で人がたくさん居た。食べ物を買って、店の裏のブロックの所や草むらで食べている人が多いのだ。
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