やっぱり私は外が好き!
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降りてきた私の格好を見て、母は「暑くないの?そんな格好で?」と聞いてくる。昼飯はチャーハンか……美味しそう…!いつもの定位置のイスを引いて、いただきますと言って食べ始めた直後に、暑くないよ、と返事をした。私の向かいに座った母はアイスコーヒーだけを飲み、若干汗をかいた顔で私を見る。
「……何?何か変なのついてる?」
「………なぁんか酷な事しちゃってるなーって思うわぁ」
「はい?」
「合宿は別であれ、クラブが終わったら勉強って半ば強制的に約束させてしまったのは私だけど……ハルが部屋に閉じこもって勉強してる姿を考えると……このアイスコーヒーも心なしか不味く感じるなぁ…」
「いや、それは母上様の作り方が悪いだけだと思うから!」
「……冷風の当たりすぎは体に毒よ?」
「ちゃんと換気すっから大丈夫!」
体を動かしてないなりにも結構の量が食べれて大満足だった。流石にクーラーのついてないこの部屋でご飯を食べるのは暑かったので、すぐに部屋に戻りたかった。ドアは閉めっぱなしで来てるから、冷風はまだ部屋の中を行き場なく漂っている事でしょう!
「ごちそーさん!それじゃ部屋戻るね」
「もう?休憩していかなくて良いの?」
「へーきへーき!」
「明日はきっとケチャップが降るわぁ…」
「それは土方君ですら喜ばない迷惑な事だね」
そんなに心配される程でも無いのに、何をそんなに考えているんだか…。2階に上がろうと階段を上っていた途中、下から覗き込むようにして母が手すりから顔を出して私に言った。
「勉強はそりゃして欲しいけど、適度な休憩とか運動も必要よー?」
「もう大丈夫だってば!」
「さっきも“ドスン”っていう凄い音が聞こえたけど……あれは新しい運動を試してた音?」
「私はどんだけプロレス思考の運動を求めてんだァ!……っあれは!総ちゃんがちょっと変な事言ってきて焦ってイス倒しちゃっただけ!」
「総ちゃんから電話があったの?……あ、きっとあれかしら…?」
「(あれって何だ?)取り合えずお母さんは心配しないで!ね!」
「お腹冷やさないようにね」
「へいへいっと」
心配されてんのかバカにされてんのかよく分かんないけど、どうやら総ちゃんも母も私が勉強している姿が考えられないんだろう。何て酷い事を言う。私だってやれる時はやれるんだから!その証拠に宿題は順調に進んでるし、頭にもちゃんと入っていってる。この急ぎようはまるで8月31日の小学生のようだわ!うん、頑張れ私!学校を明日控えた小学生のように、宿題終わらせなければと意気込み頑張れ!ヒリヒリと痛む膝を無視しながらも、私はまたシャーペンを握る。
剣道のお陰で集中力はそれなりにある。切れたら中々戻せないけど、このページまでは終わらせようと作ったノルマは案外楽に終わらせる事が出来た。
しかしながらふと思う。こうやって勉強するのは良い事だけど、私、まだ志望校とか決めていない。夏休みの宿題は学校の平常点に関わってくる事だから、やらない、ってのは駄目だし、かと言って今私が終わらせていくこの勉強が、行きたい学校の試験に入ってるかどうかなんて分からない。
「パソコンで調べ…!!??ッいだぁ!!!!!」
今は勢いよく立ち上がった訳でもないのに、膝と机は磁石のようにくっつき合いたいのか、再び強打。いや、何かもう太ももも痛くなってきたな。さっきのようにイスが倒れて、ついでに私も床を転がる。その時にタイミング良く母がお茶を持って来てくれた。ばっちりと目が合う。
「……」
「……」
「…新しい技を開発ちゅ…」
「違うからね!!??プロレス技をあみ出してる訳じゃないからね!!??」
もう事情を話すのすら面倒臭い私は、持って来てくれたお茶を一気に飲み干しぶはーと息を吐いた。それを胡坐をかいたまま飲んでいたので、隣で見ていた母が「歳を取ったのね」なんて失礼な事を言ってくる。これでも華の女子高生なんですけども?そう言ってみれば、母は笑みをもらした。
「そうねぇ、女子高生だったんだね。なーんか、母さんから見たら貴女はまだ小学生のように思えるから」
「失礼な!」
「あの机、もうだいぶ小さくなっちゃったのね…」
母が見つめる先には私の机があった。小学校の入学祝にお父さんが買ってくれた、当時私の宝物に近かった机…。イスが大きすぎてサイズを調節してもらったあの日々は、もう二度とかえってこない。私、随分と大きくなってしまったんだなぁ、としみじみ思ってしまった。中学生の頃から剣道に明け暮れて、机に座るなんて事ほとんど無かった。いつも遊んでばっかで、イスのサイズだって調節するどころか一番低いサイズにして、それ以上それが変化する事は無い。私とこの机はもうつり合っていないんだ。ちょっとした拍子に立ち上がった時、足を打つのもまあ仕方ない。思いっきり足を伸ばせない事も、仕方ない…。
「……」
「それじゃ母さん下に居るから、何かあったら降りていらっしゃい」
「あ、うん。お茶ありがとう!」
「どういたしまして…。ね、ハル、母さんは確かに勉強して欲しいって思ってるけど、貴女が思いつめてまでして欲しいなんて思った事ないのよ?何も難関大学を目指せって言ってるんじゃないから、そこら辺は、ちゃんと分かってね?」
「お母さん…」
優しく笑って立ち上がった母は、最後にこう言った。
「まず昨日の事があって今日でしょう?いつもロクにしない人間が急に勉強しよう、だなんて無理な話よー?……試合疲れもまだ残ってるんだし、今日はもうこれぐらいにしとけば?」
「……ん、でもあと少しだけする」
私がそう言うと、母は嬉しそうに笑って出て行った。無理をするな、と優しい事を言ってくれる母が、凄く偉大だと思った。今日だけは甘えさせてもらって、あと少ししたら休憩しよう!遅くなりながらも本日の目標を立てて机に向かう事数分。くぐもった声が私を呼ぶ。家の中からではない、それは外から聞こえていた。
「ハルーーー!!!!!」
「!」
総ちゃんの声だとすぐに分かった。部屋の窓を開けて下を見れば、そこには自転車に乗った総ちゃんと山崎君が居た。
「よ!さっきぶり」
「こんにちはハルちゃん」
「あ、こんにちは……じゃなくてどうしたの?」
「今日隣町で祭りがあるんでさァ。さっき言おうと思ってたんだけど、用件だけ言うの忘れてた」
エヘ、と舌を出して(ふざけて)可愛らしく笑う総ちゃんだが、さっきおちょくられたばかりなので顔をしかめてやった。私をからかう暇があるんなら用件だけ言えっつの!
「結構みんな行ってるみたいだからさー、ハルちゃんも行こうよ」
「え?」
「ホラホラお嬢さん。そんな色気の無ェジャージは着替えなせェ。沖田タクシー只今空車でーす」
荷台を指差す総ちゃんの隣で、山崎君も「早く早く!」と急かしてくる。窓枠にかけていた手にぐっと力を入れて、近所迷惑を省みずに私は答えた。
「ちょ、ちょっと待ってて!すぐに行くから!」
急いでタンスを開けて、たまたま目に入ったワンピースをすぐに着た。ジャージはこのまま洗濯機に入れてしまえと思い、ダダダダと音を立てながら階段をかけ下りた。下には母が待っていた。
「これ洗濯すれば良いの?入れておくから、早く行ってあげなさい。総ちゃんから電話があったって聞いた時、多分祭りの事だろうなーって思ったのよ」
「ッごめん!ちょっと行ってくるね!!」
「はいはい。帰る時はちゃんと連絡しなさいよ?」
「はーい!」
サンダルの紐を結びながらアタフタしていると、母がポツリと私を呼ぶ。顔を上げて「なぁに?」と聞いてみる。
「ハルはやっぱりそういう姿がよく似合ってるなぁ、って。遊びに行く時の貴女、凄く楽しそう」
「……そう?」
「うん、楽しそう。…ホラ、行ってらっしゃい!」
「い、行って来まぁす!!」
そうして私は家を飛び出した。冷房にあたって張っていた肌も、外気に晒されてようやく溶けていくように緩んでくる。
「何ニヤニヤしてるんでィ」
「うっさい!」
「それじゃそろそろ出発しましょうか」
迷う事なく、私は総ちゃんの荷台に飛び乗った。
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