やっぱり私は外が好き!
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昨日の試合はまるで昔のように、今まで練習していた日々はまるで幻想のように……その分、今のこの状態もやけに信じられなかった。可愛げもなくジャージで過ごしている私は、クーラーのかかった自室で机に向かっている。目の前には夏休みの宿題が広げてある。何々?1年生から総復習する為の問題?いや無理だってそんなの。と、少々文句を言いつつもやっているのだから、どうやら私の中である程度の踏ん切りはついているらしい。
試合に負けたコトもその敗因も、全てが無駄では無かったと思えるからに違いない。一気に整理しなくたって良い、私は私のペースで頑張っていこう。右手に持つシャーペンを不器用ながらにも回していると、中指の第一関節ぐらいが妙に痛かった。見てみると赤くなっていて、いわゆるペンだこみたいな奴なのか?
「たった数時間の勉強でもう手が悲鳴をあげるんですか…!?」
我ながら恐ろしくなる。思い起こせば授業中にシャーペンを握りっぱなしという事はそんなにない。坂田先生の授業は別として、数学とかずっと書きっぱじゃないし、英語とかノート取らないし…。先生達の呪文のような言葉は全部、右から左へ受け流していた。よく手を動かすと言ったら、たまに神楽が授業中に送ってくれた手紙の返事を書く時ぐらいか…?
「確かに私この頃不真面目だわ…」
あの応接室で、先生はどんな形であれ確かに私を“不真面目”と言った。あながち間違いでも無かったのかもしれない。昼が近づいてくるにつれお腹も鳴り出して、ついでに欠伸も出てきて、クーラーが寒いー、なんて不健康な事を考えながら机に突っ伏した時ポケットに入れてあった携帯が元気良くなった。基本人によって音を変えない私なので、これだけじゃあ誰かは分からない。画面を開いてようやく「あぁ…」と理解した。
「もしもーし?」
「よう、昨日連絡すんの忘れてたから」
「ホントに。…結局あの後みんなと帰ったの?」
「まあねィ。近くのラーメン屋に行きやした」
「酷い!私を置いていきやがったな!」
甘いマスクを持つ薄情な幼馴染みは電話の奥で笑っている。
「酷いだなんて心外でィ。…電車の中で銀八と会えただろ?」
「な……っ!」
こいつは分かって私をわざわざ送り出したのか。いらん事をしやがって……と思いつつも、それはそれで良かったけど、総ちゃんにここまで気を回されると何とも恥ずかしい。って言うかコイツ半分は私の反応を見て楽しがっている筈だ!素直に御礼を言うのも癪だったので、結果オーライだったわアハハ、と返しておいた。
「?どういう意味でィ?」
「総ちゃんには教えん!」
「……まさかっ!」
「?」
「キスまでいったんじゃ…!?」
「キ…ッッ!!!??いだぁ!!!」
思わぬ単語が飛び出し、バネのように勢いよく立ち上がろうとすれば、膝を机上の裏側に思いっきりぶつけてしまって悲鳴を上げた。イスは私が急に立ち上がったせいで後ろにドスンと倒れた。その衝撃を物語るかのように、壁にかけてある時計がガタタと音を立ててずれた。
「~~~~っっ!!!」
「ハル?どうしやした?」
「アンタのせいだろうが…!」
カーペットの上を転がりながらぶつけた部分をさすって、それでもペンだこの手は携帯を離さなかった。
「……まぁ元気そうで何よりでさァ。これでもちったぁ心配してたんですぜィ?近藤さんや土方コノヤローとか山崎とか…」
「………どーもありがとう」
しばしの沈黙の後、照れ屋ですねィ、と楽しそうな声が返って来た。無愛想な声だったが、付き合いの長い彼はあれが私なりの精一杯の御礼だと分かってくれたらしい。ようやく落ち着きを取り戻し、倒れたイスを元に戻してまた座った。
「で、今何してるんですかィ?」
「……宿題…とか勉強……」
「勉強!!!???」
「ッ!」
突然の大声に総ちゃんの声が割れて聞こえ、私の耳にも変な金属音が響いたような気がした。フリーハンド機能を使っていないのに、総ちゃんの声は耳から離しても充分と言って良い程聞こえる。携帯を机のど真ん中に置いて、私はそれと対峙するように改めて座りなおした。
「勉強!!?ハルが勉強!!?」
「……」
「いやー凄ェなー、明日絶対マヨネーズが降るぜィ!!!!」
「土方君にはもってこいの雨だな」
声が落ち着いてきたのを見計らい、ようやく携帯を持つ事が出来た。
「ま、頑張れよ。たまに剣道部で一緒に勉強しやしょう」
「うん、楽しそうで良いね!」
「あんまクーラーかけすぎちゃいけやせんぜィ?」
「うぃー」
「じゃ、また」
「ばいばい」
通話は5分以内で収まっていた。すんません総ちゃん。もうこの部屋クーラー効き過ぎて寒いぐらいなんです。だから長袖長ズボンのジャージを着ているんです。
「ハルーご飯出来たわよー!」
下から待ちに待った声がかけられ、私はちゃんとクーラーの電源を切ってから部屋を出た。
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