熱血!武田道場編
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ぱんっと手が合わさり、いきなり目の前で拝まれた。
「ねぇお願いっ! この通りだから!」
「嫌です!」
上司が頭を下げてまで頼んだからといって、稲吾は首を縦に振るわけにはいかない。きっぱりはっきり拒否をした。
が、この程度で引き下がる彼でもなく、今度は手を揉んですり寄ってきた。
「頼むよ稲吾ちゃーん! 俺様だってお館様に言われて無理やり…」
「で、でも嫌なものは」
嫌です、と続けた言葉はしかし、勢い良く開いた扉の音によりかき消されてしまった。
武田でこんな扉の開け方をするのは二人しかいない。嫌な予感を覚えながらそちらを向くと、大きな手がビシッと音を立てて稲吾に向けられる。
「稲吾よォ! つべこべ言わずやるのじゃあああああ!」
ひっ、と息を飲み込んで。目に涙を溜めた彼女を、あわれむように佐助が見ていた。
【熱血!武田道場編】
信玄が不定期開催する、武田道場。それは幸村を鍛える目的で作られたものだ。
そして今日も元気に叫びながら百人組手を難なくこなす幸村。
梁に腰かけて、佐助はそれを眺めていた。その手には『天狐仮面』の面があるが、彼にそれを着ける気はない。
「もうすぐ出番か…」
小さく呟き、彼は横に視線を送る。
そこにいるのは、やたらと露出度の高い、ひらひらした衣装を着こなした仮面の少女。立っているせいで、見事な脚線美が間近に拝める。流石にこの距離は赤面もので、佐助は目を泳がせた。
どうせなら普段と別人のような衣装にしたらと薦めたのは彼なのだが、まさか本当に着るとは思っていなかったのだ。
と、足下の幸村が百人目の兵を殴り飛ばす。
「うおおおっ! みなぎるぅああ!」
『では、次はこの者が相手じゃあああ!』
どこからか信玄の声がする。その余韻が残る中、佐助は隣の少女を見上げた。
視線を受けた彼女は無言のまま一つ頷くと、ひらりと身を翻し宙を舞う。
その華麗な後ろ姿は、
「うわ…俺様よりやる気ない」
のだった。
一方、降り立った人物を見た幸村は目をみはる。
「な、何故…天狐仮面はいずこに!?」
「……」
いつもと違う人物の登場で混乱する幸村。仮面の少女は覚悟を決めきれず、答える事ができない。そこへ、天井にいる佐助がこっそり声をかける。
「(ほら、名乗って名乗って!)」
「…っ!」
急かされて、少女の肩が震える。
そして次の瞬間。
「わ、私はっ!」
覚悟が決まったらしい。腰に手をあて、彼女は堂々たる仁王立ちになった。真新しい仮面がキラリと光る。
「私はっ、お、お多福仮面っ! 天狐仮面の代理人よ! 真の漢になりたくば、この私を倒してご覧なさい!」
芝居たっぷり、大きな身振り手振りで言い切ると、彼女は最後に高笑いした。
佐助が心からの拍手を送っている。
「お、おぉ! 代理人の方でござるか! し、しかし何故代わったのでござろうか?」
「…さ、三月だからと火男仮面が言っていたわ!」
その辺りの説明は彼女も佐助も理解できなかったのだが、幸村はそれを聞くとポンと手を打ち合わせた。
「なるほど! そうでござったか!」
「……え? 分かったんですか?」
「三月と言えば雛祭り…雛祭りと言えばお多福仮面! という事であろう?」
「(そんな理由で!?)よ、よく分かったわね! では、私と勝負なさい!」
「うむ! 手合わせお願い致す!」
動揺を隠せないまま、突っ込んでくる幸村を避けた。
ただの手合わせだと分かっているのかどうか、かなりの速さで槍が突き出されて焦る。
加えて、正面からこうして戦う幸村の真剣な眼差しを見たのは初めてで、彼女の胸はうるさい程高鳴った。
しかし見とれていると本気で危ない。避けるので精一杯になってしまう。
「(頑張れ~お多福仮面ちゃん!)」
忍同士にしか聞こえぬ音量で、絶対に笑っているだろう佐助の応援が届く。それに少しむっとして、少女はついに幸村へ反撃に出る事にした。
槍をクナイで鮮やかに弾き飛ばすと、一気に踏み込み首を狙う。
「はぁっ!」
「ぬっ!!」
ぱしん!
少女は驚愕に目を見開く。今の蹴りはかなり本気の速さだったのに、幸村は片手であっさり止めてしまったのだ。
「良い動きでござるな」
真剣な眼差しで、幸村が呟く。その手はまだ彼女の足を捕えたままだ。
とにかく掴まれたままでは身動きが取れない。抜け出そうともがいたら、案外するりと抜けられた。
「?」
幸村がはっとして自分の手を見ている。
「……」
じっと見ている。
「……?」
手合わせが再開する気配がない。不思議に思っている彼女の目の前で。
幸村はそのまま気絶した。
「幸村様!?」
仮面を取って稲吾が駆け寄ると、降りてきた佐助がゆるりと宣言した。
「はい、お多福仮面の勝利~」
「ぇえ!?」
稲吾が驚くと同時に、終了の太鼓が打ち鳴らされたのだった。
完
「ねぇお願いっ! この通りだから!」
「嫌です!」
上司が頭を下げてまで頼んだからといって、稲吾は首を縦に振るわけにはいかない。きっぱりはっきり拒否をした。
が、この程度で引き下がる彼でもなく、今度は手を揉んですり寄ってきた。
「頼むよ稲吾ちゃーん! 俺様だってお館様に言われて無理やり…」
「で、でも嫌なものは」
嫌です、と続けた言葉はしかし、勢い良く開いた扉の音によりかき消されてしまった。
武田でこんな扉の開け方をするのは二人しかいない。嫌な予感を覚えながらそちらを向くと、大きな手がビシッと音を立てて稲吾に向けられる。
「稲吾よォ! つべこべ言わずやるのじゃあああああ!」
ひっ、と息を飲み込んで。目に涙を溜めた彼女を、あわれむように佐助が見ていた。
【熱血!武田道場編】
信玄が不定期開催する、武田道場。それは幸村を鍛える目的で作られたものだ。
そして今日も元気に叫びながら百人組手を難なくこなす幸村。
梁に腰かけて、佐助はそれを眺めていた。その手には『天狐仮面』の面があるが、彼にそれを着ける気はない。
「もうすぐ出番か…」
小さく呟き、彼は横に視線を送る。
そこにいるのは、やたらと露出度の高い、ひらひらした衣装を着こなした仮面の少女。立っているせいで、見事な脚線美が間近に拝める。流石にこの距離は赤面もので、佐助は目を泳がせた。
どうせなら普段と別人のような衣装にしたらと薦めたのは彼なのだが、まさか本当に着るとは思っていなかったのだ。
と、足下の幸村が百人目の兵を殴り飛ばす。
「うおおおっ! みなぎるぅああ!」
『では、次はこの者が相手じゃあああ!』
どこからか信玄の声がする。その余韻が残る中、佐助は隣の少女を見上げた。
視線を受けた彼女は無言のまま一つ頷くと、ひらりと身を翻し宙を舞う。
その華麗な後ろ姿は、
「うわ…俺様よりやる気ない」
のだった。
一方、降り立った人物を見た幸村は目をみはる。
「な、何故…天狐仮面はいずこに!?」
「……」
いつもと違う人物の登場で混乱する幸村。仮面の少女は覚悟を決めきれず、答える事ができない。そこへ、天井にいる佐助がこっそり声をかける。
「(ほら、名乗って名乗って!)」
「…っ!」
急かされて、少女の肩が震える。
そして次の瞬間。
「わ、私はっ!」
覚悟が決まったらしい。腰に手をあて、彼女は堂々たる仁王立ちになった。真新しい仮面がキラリと光る。
「私はっ、お、お多福仮面っ! 天狐仮面の代理人よ! 真の漢になりたくば、この私を倒してご覧なさい!」
芝居たっぷり、大きな身振り手振りで言い切ると、彼女は最後に高笑いした。
佐助が心からの拍手を送っている。
「お、おぉ! 代理人の方でござるか! し、しかし何故代わったのでござろうか?」
「…さ、三月だからと火男仮面が言っていたわ!」
その辺りの説明は彼女も佐助も理解できなかったのだが、幸村はそれを聞くとポンと手を打ち合わせた。
「なるほど! そうでござったか!」
「……え? 分かったんですか?」
「三月と言えば雛祭り…雛祭りと言えばお多福仮面! という事であろう?」
「(そんな理由で!?)よ、よく分かったわね! では、私と勝負なさい!」
「うむ! 手合わせお願い致す!」
動揺を隠せないまま、突っ込んでくる幸村を避けた。
ただの手合わせだと分かっているのかどうか、かなりの速さで槍が突き出されて焦る。
加えて、正面からこうして戦う幸村の真剣な眼差しを見たのは初めてで、彼女の胸はうるさい程高鳴った。
しかし見とれていると本気で危ない。避けるので精一杯になってしまう。
「(頑張れ~お多福仮面ちゃん!)」
忍同士にしか聞こえぬ音量で、絶対に笑っているだろう佐助の応援が届く。それに少しむっとして、少女はついに幸村へ反撃に出る事にした。
槍をクナイで鮮やかに弾き飛ばすと、一気に踏み込み首を狙う。
「はぁっ!」
「ぬっ!!」
ぱしん!
少女は驚愕に目を見開く。今の蹴りはかなり本気の速さだったのに、幸村は片手であっさり止めてしまったのだ。
「良い動きでござるな」
真剣な眼差しで、幸村が呟く。その手はまだ彼女の足を捕えたままだ。
とにかく掴まれたままでは身動きが取れない。抜け出そうともがいたら、案外するりと抜けられた。
「?」
幸村がはっとして自分の手を見ている。
「……」
じっと見ている。
「……?」
手合わせが再開する気配がない。不思議に思っている彼女の目の前で。
幸村はそのまま気絶した。
「幸村様!?」
仮面を取って稲吾が駆け寄ると、降りてきた佐助がゆるりと宣言した。
「はい、お多福仮面の勝利~」
「ぇえ!?」
稲吾が驚くと同時に、終了の太鼓が打ち鳴らされたのだった。
完
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