旅中閑話
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半刻後。
先ほどの詐欺三人組一人と幸村は、蕎麦屋で睨み合っていた。
周りには、かなりの数の見物人。
稲吾はその中に混じって一緒にハラハラしながらも、何故こんな流れになったのか思い出してみる事にした。
絡まれた子供を助ける為に割り込んだ幸村。
怒り心頭で説教した彼に、男たちは更に絡んできたのだ。
『あ? 何だよ、兄さん。じゃああんたが代わりに払ってくれんのか?』
『断る! 貴様らの言い分が正しいようには聞こえん! それに、その壺、価値があるようにはとても見えぬ!』
幸村は正真正銘一城の主であって、審美眼は確か。加えて彼らのこのやり口ならば、壺に何の価値も無いことは丸わかりだ。
断言した幸村へ、周りも徐々に賛同し始める。男たちは一瞬怯んだものの、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
『うるせぇうるせぇ! この壺は本物だっ! とにかく、あんたに払ってもらうからな!』
『何おう!? この後に及んでまだ言うか!』
一触即発という不穏な空気が漂い始め、稲吾が止めに入るタイミングをうかがっていた、その時である。
新たな声があがったのだ。
『まあまあ、喧嘩はおよし下さい』
人をわけて出てきたその人は、いかにも温和そうな老人であった。
『ここは皆が体を休める為の宿場町でございます。危ない喧嘩はお止め下さらんかのう』
と彼女が言いたかった事をいともあっさり告げてしまう。
礼儀正しい幸村はそれを聞いて大人しくなるが、男たちは黙っていない。
『っるせぇんだよ、じーさんは引っ込んでな! 俺たちゃあ、壺割られた上に、偽物だって騒がれて迷惑してんだ!』
『そうだそうだ!』
それを聞きまたむっとする幸村。そこへ、老人がのんびり告げた。
『では、こうしませんかのう。ワシの店で勝った方が正しい、という事で』
『…?』
そして付いて来た結果、老人の店は蕎麦屋であり、早食い対決をする羽目になった、という訳である。
男がにやにや笑いながら幸村に告げる。
「おい、兄さんよ。俺が勝ったら、壺と蕎麦の代金、両方払ってくれよ?」
「…無論、万が一の時は約束を守ろう。だが、某が勝ったその時には…」
「へっ! 分かってるよ! 俺たちもそん時は引き下がろうじゃねぇか」
うむ、と頷く幸村は冷静なようだ。
稲吾はなるべく近くに陣取って、見守る事にした。
老人が器を手にやってきて、二人の前に置く。いつの間にか小さな太鼓が用意されて、店員の一人がそれを掲げた。
「では、用意…」
その声で二人が一斉に箸を手にする。
ドーンと太鼓が打ち鳴らされると、周囲からも歓声が上がった。
「凄い…!」
「兄さん、やるなぁ!」
「おい見ろ、あっちも凄ぇぞ…!」
幸村は素晴らしい速さで蕎麦を平らげていく。細身に似合わぬ勢いを見て、元々幸村贔屓だった観客は更に盛り上がった。
だが、男の方も負けてはいない。巨漢にぴったりの食いっぷりで、既に一杯目の器を空けそうだ。
「おかわり!」
だん、と勢い良く空の器を置いたのは、二人同時。一瞬横目に互いを見てから、すぐさま置かれた二杯目に手をつける。
稲吾は観客に負けないよう応援の言葉をかけた。
「頑張って下さい! ゆ…あっ…と、殿!」
「ゴフッ!」
ついいつも通りに幸村様と呼びそうになって、彼女は慌てて言い直す。
するとそれが聞こえたらしい幸村が、何故か顔を赤くして吹き出していた。
先ほどの詐欺三人組一人と幸村は、蕎麦屋で睨み合っていた。
周りには、かなりの数の見物人。
稲吾はその中に混じって一緒にハラハラしながらも、何故こんな流れになったのか思い出してみる事にした。
絡まれた子供を助ける為に割り込んだ幸村。
怒り心頭で説教した彼に、男たちは更に絡んできたのだ。
『あ? 何だよ、兄さん。じゃああんたが代わりに払ってくれんのか?』
『断る! 貴様らの言い分が正しいようには聞こえん! それに、その壺、価値があるようにはとても見えぬ!』
幸村は正真正銘一城の主であって、審美眼は確か。加えて彼らのこのやり口ならば、壺に何の価値も無いことは丸わかりだ。
断言した幸村へ、周りも徐々に賛同し始める。男たちは一瞬怯んだものの、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
『うるせぇうるせぇ! この壺は本物だっ! とにかく、あんたに払ってもらうからな!』
『何おう!? この後に及んでまだ言うか!』
一触即発という不穏な空気が漂い始め、稲吾が止めに入るタイミングをうかがっていた、その時である。
新たな声があがったのだ。
『まあまあ、喧嘩はおよし下さい』
人をわけて出てきたその人は、いかにも温和そうな老人であった。
『ここは皆が体を休める為の宿場町でございます。危ない喧嘩はお止め下さらんかのう』
と彼女が言いたかった事をいともあっさり告げてしまう。
礼儀正しい幸村はそれを聞いて大人しくなるが、男たちは黙っていない。
『っるせぇんだよ、じーさんは引っ込んでな! 俺たちゃあ、壺割られた上に、偽物だって騒がれて迷惑してんだ!』
『そうだそうだ!』
それを聞きまたむっとする幸村。そこへ、老人がのんびり告げた。
『では、こうしませんかのう。ワシの店で勝った方が正しい、という事で』
『…?』
そして付いて来た結果、老人の店は蕎麦屋であり、早食い対決をする羽目になった、という訳である。
男がにやにや笑いながら幸村に告げる。
「おい、兄さんよ。俺が勝ったら、壺と蕎麦の代金、両方払ってくれよ?」
「…無論、万が一の時は約束を守ろう。だが、某が勝ったその時には…」
「へっ! 分かってるよ! 俺たちもそん時は引き下がろうじゃねぇか」
うむ、と頷く幸村は冷静なようだ。
稲吾はなるべく近くに陣取って、見守る事にした。
老人が器を手にやってきて、二人の前に置く。いつの間にか小さな太鼓が用意されて、店員の一人がそれを掲げた。
「では、用意…」
その声で二人が一斉に箸を手にする。
ドーンと太鼓が打ち鳴らされると、周囲からも歓声が上がった。
「凄い…!」
「兄さん、やるなぁ!」
「おい見ろ、あっちも凄ぇぞ…!」
幸村は素晴らしい速さで蕎麦を平らげていく。細身に似合わぬ勢いを見て、元々幸村贔屓だった観客は更に盛り上がった。
だが、男の方も負けてはいない。巨漢にぴったりの食いっぷりで、既に一杯目の器を空けそうだ。
「おかわり!」
だん、と勢い良く空の器を置いたのは、二人同時。一瞬横目に互いを見てから、すぐさま置かれた二杯目に手をつける。
稲吾は観客に負けないよう応援の言葉をかけた。
「頑張って下さい! ゆ…あっ…と、殿!」
「ゴフッ!」
ついいつも通りに幸村様と呼びそうになって、彼女は慌てて言い直す。
するとそれが聞こえたらしい幸村が、何故か顔を赤くして吹き出していた。