綺麗な薔薇は薙刀を持っていた
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彼女と屯所で別れてからの数時間、沖田は気持ちよさそうに昼寝を楽しみ、目を覚ました時はすでに夕方であった。近くに置いてあった携帯で時刻を確認し、数件の着信履歴にも気がついた。発信先は緋村糸、自分の部下からであった。
緊急なら屯所に直接無線が入るだろうし、そもそも彼女は見回りに出た訳ではなく近藤を探しに行っただけだ。特に急ぎの用件ではないだろうと思ったが、まだ自室にも戻っていないというのは遅すぎる気がした。空っぽの彼女の部屋を見て、沖田は寝癖のついた頭をガシガシとかいた。その時、ちょうど奥から歩いてきた土方が「緋村知らねーか?」とまさに沖田も探している人物の名をあげた。彼の所にも着信が何件か入っていたらしく、かけ治しても繋がらないらしい。
「俺も今探してたんでさァ」
「どこ行きやがったアイツ…」
「あー……昼間に恒道館道場に向かったのは知ってるんですけどねィ」
「はあ?それってあの眼鏡の実家だろ?」
「近藤さんを探しに行ったんでさァ。また姐さんの所に行ったんじゃねぇかって話になったもんで」
「そっから連絡が取れずじまいか……」
しばらく考えた土方が、じゃあお前が探してこい、と言ったのに時間はかからなかった。
「ってな訳でウチの糸を返して下せェ」
「急に何だコノヤロー」
身に覚えのない疑いに顔を歪めたのは銀時だった。ピンポンピンポンとインターホンを連打され、居留守を決め込むにも我慢の限界を通り越し今に至る。全ては沖田の思惑通りだった。
「あれ?来てやせんかィ?」
「来るも何も、今日は一度も見てねーよ」
何となくここに居ると思ったのだが、彼女はどうやら万事屋には来ていないどころか銀時に一度も会っていないらしい。彼女と銀時には、「神様の思し召し」で数学的確率を乗り越えて出会う引力的な何かがあるのだが、今日はそれが働かない程の問題が彼女の身に起きているのだろうか。携帯に着信はもう入っていない。万事屋に来る途中でかけてみたが繋がらない。ここまでくれば変な輩に拘束でもされてるのか、という線が嫌でも浮上するが、何故か悪寒はしなかった。その内ひょっこり帰ってくるだろうと思った時、銀時の後ろから新八が顔を出して何とも意味深な事を言っている。
「緋村さんまだ帰ってないんですか!?」
はて、その言い草では一体どこに行ったのかまでは分からない。なんとなく目が合った銀時と沖田が軽く首を傾ければ、全ての事情を知っている新八が、彼女がどこに連れていかれたかを教えてくれた。
「多分姉上の働いてるスナックに行ってる……っていうか連れていかれたんだと思います」
近藤さんのせいで、と最後に付けたした新八。近藤に怒り狂い、その矛先を緋村に向けたお妙もとい般若が薙刀を振り回し、家の修繕費の肩代わりに彼女を連れていく様子がありありと想像出来た。銀時と彼女の糸を切ったお妙の威力に身震いはするが、それ以上に沖田は面白そうな展開に新八にニヤリと笑いかけた。
「って事ァあれかい。あいつがスナックで働かされてて、その金を姉御が持っていくと」
「おそらく…。もう解放されたと思ってたんですけど、案外姉上は本気だったんですね…すみません……緋村さんは近藤さんを迎えてに来ただけだったんですけど……」
そこは彼女の不運さを呪うべきか、お妙の力に戦くべきか分からないが、ひとまずスナックすまいるに行ってみる必要があった。思わぬ情報を得て、沖田は軽く礼を述べて歌舞伎町へと向かった。その背を黙って見送る銀時と、申し訳なさそうな顔をしている新八。
「……緋村さん大丈夫かな…」
「アイツがやるならキャバ嬢じゃなくて用心棒とかだろ」
「いや……姉上なら緋村さんを用心棒には回さないと思いますよ?だってほら、緋村さんって綺麗なかたじゃないですか」
「綺麗……か?」
可愛くない訳でないが、どちからというと逞しいという言葉の方が銀時にとってしっくりと来た。
「そんな心配なら見に行けば良いアル」
今まで話を奥で聞いていた神楽もひょっこりと顔を出す。
「……見に行くだけ行ってみるか?」
銀時の提案に、新八は首を強く縦に振ったのだった。
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