天邪鬼が笑う(5)
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「ん…?」
何かが割れる音が聞こえて、自主昼休憩という名のサボリから帰ってきた銀時達は、近くを通りかかった厨房をのぞいてみた。どうやら何枚か皿が割れた様で、何人かが慌てながら「そこ踏むなよー」と声を掛け合っているのも聞こえた。
「銀ちゃんどうしたアルか」
「いや、何でもねぇ」
「何か虫の知らせ的なものを感じたのかもしれないですね」
「虫の知らせねぇ……」
そんなものを信用するタイプでは無いが、嫌な予感を感じている銀時の胸には不協和音としてその音が強く響いたのかもしれない。
とは言っても、響いたのも一瞬で、片付けの音を聞きながら欠伸混じりの態度で厨房を後にした。
「そんな事より、俺らの依頼主を探さねぇと」
彼女が倒れた衝撃で床の埃が思いっきり舞い上がった。
しかしそんな事をものともせず、この旅籠に不釣り合いな攘夷志士達は物騒な空気のまま懐から取り出した縄で彼女の両手首と足を拘束し始めた。
その内の1人が、彼女の額から静かに流れ出る血と、閉じたまぶたを確認して「よくやった」と言いながら振り返る。そこには、彼女を殴った壺を持つ皐月の旦那の姿があった。
「こいつどこかで見た事あると思ったらやっぱり真撰組の緋村じゃねぇのか?」
「捕まえといて正解だったな。怪しい動きをしてた女中はこいつだけだよな?」
「ああ。どうする?ここで殺っとくか?」
「それじゃあ約束が違う」
殴った張本人が彼女を庇うのもおかしな話だが、彼は壺を投げ捨てて果敢にも彼女の傍らにしゃがんだ。
「他の人間には危害は加えないはずだ。この子はここの女中で、真撰組とは何も関係ない」
「………まあ良い。此方との約束は忘れるなよ?」
攘夷志士はわざと刀身を見せつける様に、柄を持ってぎらついた刃を光らせた。
「そいつは素性が分かり次第殺す。今はお前が責任持って見張っておけ。下手な動きをしたら分かってるだろうな、お前の大事な女の首が先に飛ぶ事になるぞ」
その言葉が意味するものは、鋭い刃を首元に突き付けられるより彼に響くのか、悔しげに顔を歪める様を満足そうに見てから彼らは去っていった。
扉を締められ、閉じ込められる為に南京錠もつけられた訳だが、逆に奴等と遮断された空気のお陰で彼としては安心もした。
やがて1分ぐらい経つと、彼女の目がパチリと開いた。
「……近くに気配はありません。行った様ですね」
「そうか、君は本当に真撰組なんだな」
あまり驚いた感じでもないので、薄々は気付かれていたのだろう。
「貴方も、どちらかと言えば私と同じ分類に入るのでは?」
「刀はもう昔に捨てたよ。今は包丁一筋さ。弥生ちゃん、戦争はもう終わったんだ」
戦争はもう終わった。その一言は、戦地に立った事のない彼女にとってとても重くのし掛かった。不躾な質問をしてしまったと反省していると、服の裾で額の血を優しく拭ってくれた。
「すまない、痛かっただろう?」
「大丈夫ですよ。だってあの壺、初めから割れてたんじゃないですか?思ったより衝撃が無かったですし。さっき投げ捨てたのも、もともと割れてたのを隠す為ですか?」
「……君は真撰組の隊長クラスか何かかい?」
「まっさかー。私なんかまだまだですよ。隊長クラスは変な人しか居ないので、私じゃ到底なれません」
アハハと笑いながら上司に毒を吐いた緋村は、手足の自由を奪われていながらも何とか体を起こした。
「そうか……隊士クラスでこれだけ鋭い子が居る真撰組は相当優秀な組織なんだな」
「割れた壺を準備されてた貴方の方がよっぽどだと思うのですが……」
的確な指摘に、彼は苦笑いを浮かべた。
「いつからですか。私が真撰組だと気付いたのは」
「最初からだよ。山崎君もそうだろう?」
「!」
「分かる人間にはすぐ分かるもんさ。二人とも足の運びからして常人では無かったからな」
極力溶け込んだつもりでも、勘の鋭い人間、ましてや一度刀を持ち戦場に立った事のある彼なら敵か味方かを見極めるのは安易だったのかもしれない。
果たして彼女は敵とみなされたのか味方とみなされたのか…。
だが、そこへ行き着くまでにまず確認しなければいけない事が幾つかある。
「では、女中としてではなく、真撰組として質問させて頂いても?」
「答えられる範囲なら」
「…貴方の目的は?あいつらとの関係は?」
「…………」
「答えられませんか。…質問を変えます。私がここから逃げようとしたらどうしますか?」
「申し訳ないが、今度は本当にしばらく眠ってもらう事になるかな」
「………貴方は、一体何をどうしたいのですか?」
「いやな聞き方をするね弥生ちゃん」
敵か味方か、緋村にとってもそれは知りたい所である。可愛らしい女中から、あっという間に真撰組の顔に戻った彼女の瞳には既に鋭さが含まれていた。物理的凶器にはならなくても、意外な迫力にはたじろがざるを得なかった。
「弥生ちゃん、俺はね、ただ皐月を守りたいだけなんだよ」
