天邪鬼が笑う(5)
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今の時期の旬は茄子だった。焼いても美味しいし、煮浸しにしても美味しいし、想像しただけで上機嫌な緋村は笑顔で潜伏先へと戻った。
「(あ、そうだ。一つだけ拝借して、旦那さんにあげて料理研究の材料にしてもらおう。んでもって美味しい茄子の料理食べさせてもらおう!)」
あげる理由としては後者だが、彼女は籠を抱えたまま厨房をのぞいた。既に夜の仕込みが始まっているのに、何故か彼の姿だけが見当たらない。
1人が彼女に気付いて声をかけてくる。
「どうかしたかい?」
「え?あ、えっと…向かいの旅籠から野菜を頂いたので、どこに置いておけば良いかなぁと…」
「俺が置いておこうか?」
「ありがとうございます!」
野菜は声をかけてくれた人物に預け、あたかも用が終わったかの様に厨房を出た。灯りが一つもついていない昼下がりの廊下はとても薄暗い。先が見えない暗闇から冷たい風を感じた。
嫌な予感がする。
直感的にそう感じた。隠していた筈の山﨑の不安をもしかして感じ取ってしまっていたのか、知らず知らず周りの気配を探る。何も怪しいのは感じられない。それは不自然な程に。
彼女が向かった先は女中用の離れだった。
「…皐月さーん!皐月さん居らっしゃいますかー?」
休憩時間になっている彼女の姿を捜すが何処にも見当たらない。すれ違った何人かに聞いてみても皆知らないと言う。
買い物に行っている可能性だってあるし、旅籠に居ない事自体は特に気にかける点ではない。それでも、真撰組として働いてきた数年の勘が彼女に訴え出したのだ。警戒せよ、と。
庭に置いてある下駄を履いて、今度は庭から旅籠そのものを眺めてみる。何も不自然な所はない。
「………(坂田さん達も休憩に入ってるのかな…?)」
根拠のない警告ではあるが、根拠が無いからこそ息苦しい。
彼女はそのまま庭を歩き、旅籠をぐるりと一周したら戻ってこようと考えていた。しばらく歩けば陽が当たらない薄暗い裏庭に着いた。心なしか肌に触れる温度も多少は低い。
そこには普段ならば立ち寄らない大きな倉がある。いわゆる荷物置き場になっているその場所には大きな南京錠がかけられていて、一部の人間しか出入りしないのだとか。だが、しかし…。
「…開いてる……」
まるで彼女を呼び込むかの様に、南京錠は口を開けて取っ手にぶら下がっているだけだった。微かに開いている倉の木扉からかび臭い風が吹いてきた。
罠かもしれない、という考えがあってもそこで足を竦めないのが彼女の悪い癖。後先考えず突き進む所は、バズーカをやたらと撃ちまくり被害を増大させる沖田とはまた違う意味でたちが悪い。
静かに歩み寄って扉に手をかける。顔だけをのぞかせるが、中は暗くてよく見えなかった。
「皐月さーん……」
控えめに声をかけてみれば、奥から何か小さな音が聞こえた。ネズミかもしれないが、気になって目を凝らしてみれば、乱雑に置かれている荷物の隙間から人の足が見えたのだ。
顔中から一気に血の気が失せたが、とにかく扉を全開にして、たまたま見つけた灯りのスイッチを押した。…と言っても天井にぶら下がっていた裸の豆電球が一個ついただけで大した灯りにはならなかったが、それでも彼女には充分だった。
すぐに駆け寄れば、そこには厨房に居なかった彼が倒れていた。
「大丈夫ですか!?」
特に目立った外傷は無いが、呼びかけて肩を揺すっても反応が無い。急いで人を呼ばなければと判断した彼女の頭は、もちろん人命救助の信号が忙しなく行き交っている。その中で周りへの気配を察知する余裕は無かったのだ。
「!」
気がついた時には遅く、物陰から出てきた人物に易々と背後を取られてしまった。避ける事はギリギリ出来たかもしれないが、彼女の足元には倒れている人間が居る。
「っ!!!」
苦し紛れに蔵の砂を掴んでかけてやれば相手に一瞬の隙が出来た。恐らくは今回の事件に関係している攘夷志士の1人だろう。真撰組という事がばれたのか、それとも倒れている彼を発見された事に対しての口封じか……。それにしては準備が良すぎる。きっと待ち伏せされていたのだろう。
「(相手は1人…!いける!!)」
作った隙を見逃さず、攘夷志士に駆け出そうとしていた彼女の背後に再び迫る気配。いや、迫るというよりも、ずっと先ほどからあった気配だった。決して警戒する対象にはならない筈のその気配…。
「え…?」
