天邪鬼が笑う(3)
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ようやく旅籠の仕事が一段落したのはお昼もまわった午後3時ぐらいの時だった。
休憩時間をもらった山崎をすかさず彼女が捕まえて、人気のない部屋へと連れ込んだ。
「ちょっと山崎君!何でここに坂田さん達が居るの!?」
「旦那達も依頼で来てるみたいだけど…」
「何とか出来ないの!?潜入捜査に支障が出たら副長に怒られちゃうし、万が一坂田さん達に危害でも加えちゃったら…」
どうしよう、と人の心配をしてくれる優しい緋村だが、山崎はそこら辺は全く気にしていなかった。寧ろ真撰組側が万事屋から危害を加えられるのではないかとまで考えている。
山崎の存在は銀時達に知られてしまったが、彼女はまだ知られていない。坂田さんファミリーを紹介された時、咄嗟に人影に隠れたのだ。見つかったら色々良くないかもしれない、と思っての行動だったが、それは大正解だった。
「糸ちゃんはこのまま旦那達に見つからない様に任務を進めよう」
「それって凄く難しくない?私自信無いよ…」
元々乗り気ではない上に課題が増え、珍しく弱気の彼女に一応先輩である山崎が声をかけた。
「しっかりしなよ糸ちゃん。そりゃ作られた女性像を演じながらの仕事はつらいかもしれないけど、これは糸ちゃんにしか出来ない事なんだから」
「うん…」
「これも誰かの事を守る、大事な仕事だよ」
誰かを守る。漠然とした言い方だが、それを聞いて真撰組が動かない訳にはいかなかった。
「……分かった、頑張る」
いつもと違い、弱々しくも健気な彼女に不謹慎だが癒された。忘れていたが、緋村は女である。今まで男勝りの部分しか見えていなかっただけで、フとした一面はこんなにも破壊力を持つ可愛さを惜しみなく出してくる。
「旦那にはなるべくバレない様にね」
「了解!」
男がギャップに弱いというのは知っている。だからこそ今の状態の彼女を見せる訳にはいかない、と山崎が密かに誓ったのは、沖田との頼み事がある故であった。
**********
幸いにもこの旅籠は人が多い。上手くいけば任務が終わるまで隠し通せるんじゃないか、と彼女は持ち前の前向きな気持ちを取り戻し始めていた。取り敢えずがむしゃらでも良いから任務を終わらせるしかないと思い至ったのだ。
与えられた休憩時間はあっという間に過ぎて、今度は晩ご飯の支度にてんやわんやしていた。厨房では料理長の声が飛び交い、女中には女将の指示が休みなく出されていた。
忙しいのが嫌いではない彼女は、余計な事を考えないで済むので昼間より活き活きとしていた。
「弥生ちゃん、後もう少しで片付きそうだから、終わったら一緒にご飯食べましょうね」
「はいっ!」
皐月は優しい笑顔で彼女に笑いかけてくれる。忙しいにも関わらず、声にピリピリとした空気は一切感じられないのだ。
そんな彼女こそ、万事屋に依頼を頼み込んだ張本人。紹介の場では親戚と言っていたが、それが嘘である事ぐらいはすぐに分かった。
「坂田さんとはご親戚なんですよね?」
「そうよ。ちょっと手伝ってもらいたい事があって呼んだの」
百何人分の茶碗にご飯を盛りながら、2人は手を休める事なく動かしつつお喋りにも勤しんだ。
「お手伝い?…あぁ、ここお忙しいですもんね!」
「うーん、それもあるんだけど……」
「?何かあるんですか?私で良ければ聞きますよ」
それは別に探りをいれている訳では無かった。本当に親身になって「私で良ければ」と自然に口から出たのだ。裏の思惑が全く感じられない彼女の笑みに、皐月は完全に心を開きつつあった。
「…実はね……」
「はい」
「…夫の浮気調査の為に入ってもらってて…」
「…………………」
「……弥生ちゃん、ご飯盛り過ぎよ、タワーみたいになってるから」
動揺が行動に出た所で、彼女は小声で「浮気調査ですか!?」と聞き返した。
皐月がここの料理長の1人と結婚したのは数ヶ月前。いわゆる新婚さんという時期である彼が、浮気などあり得ない、こんな可愛らしくも素敵な奥さんが居ときながら。
彼自身もとても誠実な人間だ。浮気をするなど到底思えなかった。
「だってだって心配なんだもん!」
「はあ、心配…ですか」
「誰にも言っちゃ駄目よ!?」
「言わないですよー。それに絶対浮気なんかしてませんから。良い方じゃないですか」
「違うの違うの結婚したらそういう風に簡単に思いこめないものなのー!!」
結婚していない緋村にとっては分からない思いだった。だが彼女が真剣に悩んでいるという事は分かる。
「皐月さんは旦那さんを信じてあげて下さい。皐月さんが信じたものを、私も信じますから」
「や…弥生ちゃぁぁああん!!なんて良い子に育っただんだぁああ!!私もこんな子どもを育てたいよぉおお!!」
「はいはい」
とても明るい皐月の話はとても面白かった。落ち込んだと思ったら復活して、笑ったと思ったら泣いて…。こんな風に一瞬一瞬を懸命に生きてる人が周りから愛されるのだろうなぁと彼女は感じ、順調にご飯盛りの仕事をこなしていく。
そんな油断していた時だった。
「おーい、話しちまったのか」
