待てど笑い
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「……え?マジでか」
「?マジですけど」
「何で万事屋の旦那が…」
「あぁ、たまたま町でお会いしましてねぇ」
お前等その会う確率は一体何だ…!と沖田は驚きながらも、なんとか平常心を保つ。
「(いやー、まさかまさかとは思ってやしたが……"まさか"本気とは…)」
「包帯の巻き方とか凄いお上手だったんですよー。ほら、私なんかよりよっぽど上手です」
「あの人も怪我する事には慣れてんだろ」
「なんて物騒な…」
「お前には言われたくないだろ」
「む、どうしてですか」
頬を軽く膨らませて緋村は腰に手をあてる。
「沖田隊長も素直に"大丈夫か"ぐらいの心配する気持ちを持って下さいよ」
「気持ちワリー。人を心配するなんざ俺のする事じゃないねィ」
「ひどい」
「第一、俺ァお前の事は毎日心配してまさァ」
「心配される要素なんてありますか?」
「嫁に行けるのかなって」
「あーそれならご心配なく、お嫁さんにはいきません」
「(万事屋の旦那、ご愁傷様)」
思わず出てきそうになった笑みを何とかこらえながら、心の中で合掌をした。
「(旦那、こいつはそこら辺の女とは違うんで、とっとと諦めた方が旦那の為ですぜィ)」
「それにしても…」
「?何でィ」
「坂田さんって……誰かに似てるんですよね……」
「はぁ?」
「顔が似てるとか雰囲気が似てるとかじゃないんですけど……でも誰かに似てるんです……」
「それ俺が知ってる人か?」
「うーん……」
「何で急にそんな事」
「いや、それがですね」
と言いながら箒を置いて、沖田が胡坐をかいている前で小さく正座をする緋村。ぐいっと顔を近づけられれば、嫌でも頬の傷が目に入り多少なりとも罪悪感が沖田の胸によぎる。せめてもの罪滅ぼしか、特に興味のない話ではあったが「何でィ」と相槌をうった。
「今日公園で会ったんですけど、坂田さんに"無茶すんなよ"って言われまして」
「…それがどうした」
「いや、その時に誰かと似てるなぁってボンヤリ思ったりしたんですけど……誰に似てるのかなぁ…」
腕を組んでウンウン唸っている部下を見ながら、沖田は後ろに手をついて欠伸を1つこぼした。無茶をするなとはよく言ったものだ。真撰組に居る限り無茶ばっかりに決まってる、と考えながら天井を見上げた。
どうやら、相手が本当の本当に己の部下に興味を抱いている事が実感できた。
確かに紅一点という部分では世の興味をひいた時期もあったが、それが1人の男からに対する興味、これがまた男女のそれだと分かれば沖田には面白くもない。変に独占欲が出てきてしまうが、それは部下想いの上司だからという理由で片付けたりもした。
彼女にとって、銀時よりかは沖田の方が遥かに絆が深い。もう何度も死線を乗り越えてくれば、口では言い表せない信頼感が生まれるのは当たり前だ。今日のように喧嘩をする事はっても、心の内では繋がっている。それが、真撰組なのだ。
だと言うのにヒョッコリと出てきた自由業の男に、目の前の彼女は知らず知らず興味を抱いているのだ。最近彼女の口から銀時の話題が出る事がある。その事に関しては沖田より父親(土方)が面白く思っていないらしい。
――だって俺アイツの事好きだし?
勝手な事ばかり言ってくれたものだ、と沖田はため息を1つ。彼女の兄の事を話したのは紛れもなく沖田総悟。それに対しては特に後悔などはない。いつもの彼女が屯所に居てくれるこの現実が戻ってきたのだから、後悔などありはしない、感じたのは果たせた使命感だった。
それでも、それでもやはり事が終われば銀時の存在が面白くなくなってきたのは、我が侭な一番隊隊長の独占欲だ。
「あぁっ!」
途中思い出したかのように彼女が手をポンッと打った。正直、坂田銀時という男が彼女が出会ってきた人間の中で誰に似ているかというなどはどうでも良い。果てしなくどうでも良いが、「思い出したか」のたった一言に、彼女はニコリと笑った。
「はい!」
「誰でィ」
「お兄ちゃんに!」
「……はい?」
「いやー、すっきりしました。坂田さんって何かお兄ちゃんに似てるんですよね」
それを聞いて沖田はあっけらかんとしたが、すぐに大口あけて大爆笑。
「どうしたんです」
「そーかィそーかィ、アンタの兄貴か。こら笑えまさァ。あの人の道はまだまだ通そうですねィ」
「あの人?」
「家族愛バンザーーーイ!」
「?何ですか急に」
恋仲とは程遠い、いや、遠いというよりも一切縁のない仲に例えられた銀時への不憫さは笑いの種になった。
「あー、可哀想な旦那」
「何でですか。お兄ちゃんは私の中では一番の人ですよ」
「だからそれは家族的な意味でな」
全く意味の分かっていない彼女の前で、沖田はただ笑うだけであった。
「オイそこの2人!ちゃんと掃除してんのか!」
「あー…今はたまたま休憩中でして…」
「そんな事より聞いて下せェ土方さん。旦那の不憫物語を」
「?何で坂田さんが不憫なんですか」
途中、沖田達の様子を見に来た土方も道場にあがり、そして彼の話を聞いて思わずふきだしてしまった。その意味が分かっていない彼女は眉を寄せて首を傾げるばかり。そして銀時は自分が笑いの種にされていると知ってか知らずか、豪快なくしゃみを1つ、「汚いですよ銀さん」と新八に文句を言われた。
「もー、何でそんなに笑うんですかー!」
「っくし!……誰か俺のよからぬ噂をしてやがんな…」
そんなこんなで今日も平和。
いたずらに引き合うばかりの2人が、自ら歩み寄っていくのはまだ先の話になるらしい。
沖田のバカ笑いが響く道場の上を、大きな白い雲が流れていった。