天邪鬼が笑う(2)
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彼女の部屋を出た2人は薄暗い廊下を歩き、夜食を食べに食堂へ向かっていた。
暗くて表情まではよく見えないが、沖田が彼女の様子が気になって訪れてきたのは明らかだった。それが可笑しくて笑い出しそうだったが、頑張ってこらえた。そんな時「山崎」と沖田が呼ぶ。思考を読まれたかと思って肩が大きく跳ねた。
「な、ななな何ですか!?」
「……何をそんなに驚いてんでィ。旅籠の任務、監察からは山崎が出るんですかィ?」
「はい。短期間で済みそうなんで、監察からは俺1人だけです。後は糸ちゃんを含めたその他諸々が…」
沖田にとって誰が任務にあたっているかはどうでも良かった。ただ、彼女の周りの事情を知る山崎が居るかどうかだけを知りたかったのだ。
彼が任務にでると聞いて安心した。これで彼女を託す事が出来る、と。
「…一つ、頼まれて欲しい事があるんでさァ」
やはり表情がよく見えないままだった。
**********
沖田から頼まれた事。
それをぼんやり思い出しながら、山崎は今大量の御盆を拭いていた。旅籠の男衆(おとこし)として潜入しているのだが、その馴染みっぷりたるや、数年前からここで働いていたかの様な余裕さがにじみ出ていた。
周りのカラーに溶け込めやすいという点で、山崎に対する潜入捜査の評価はずいぶんと高い。沖田曰く「地味な奴は良いですねィ」という事だ。
「弥生ちゃーん!2階のお客さんに朝ごはん持ってってくれないかい?」
「分かりましたー!」
厨房から料理長の元気の良い声が響くが、それに負けじと女中の声も朗らかだった。
朝の旅籠は戦争だ。宿泊客分の朝食をわざわざ部屋まで運ぶのだが、皆起きる時間もバラバラ、それなのに注文はやたらと多いという事で猫の手も借りたい状況だった。なので、潜入捜査といえど、山崎達がこの店の一員として入ってきてくれたのはとても重宝されていた。
今日は更に、よく働く女の子がきたのだ。女将は朝から上機嫌だった。
「弥生ちゃん!次これ持ってって!」
「はいはーい!分かりましたー!」
どんどん頼まれる仕事に嫌な顔をしない弥生ちゃんこと緋村糸は、セミロング程度のカツラをかぶって新米女中として働いている。人当たりの良さのお陰で、働き始めて数時間しか経っていないが「弥生ちゃん」という人物として完ぺきに馴染んでいた。
山崎が拭いてくれた御盆に次々に料理をのせて、女中達は行ったり来たりを繰り返している。この忙しさがおさまるまで後1時間。それが終わったらようやく朝食にありつけるな、と考えれば山崎のモチベーションも少し上がった。
その時フと緋村と目が合う。ここの女将と旦那は山崎達が真撰組である事を知っているが、それ以外の人間は知らない。つまりは気取られてはいけないので、彼女は愛想程度に小さく微笑んで厨房を出ていってしまった。
――一つ頼まれて欲しい事があるんでさァ
また沖田の言葉が蘇った。急に一体何を言い出すかと思えば、任務中の彼女の周りに気をつけろと言ってきたのだ。
つまりそれはどういう事なのかを聞けば、ある1人の人物の名が出てきた。
――万事屋の旦那
その人物は知っているが、一体彼女とどういった事に結びつくのか。すると沖田は事の詳細を話してくれた。
これまでの銀時と緋村を見ていると、2人は数学的確率を越えて何かある度に顔を合わせてしまう。恐らくこちらで日程を調整しても目に見えないパワーが働いて、会うという運命は変えられないのだと沖田は言っていた。
確かに山崎も思い当たる節があった。
会おうとしている訳ではないのに、何かに引き寄せられるかの様に出会ってしまう。それは恐らく山崎達が切り離そうとしても不可能だと思うのだが、言われたからには気をつけるぐらいはしておこうと思えた。
「ねえねえ山崎君」
「ん?」
考え事にふけっていると後ろから声をかけられた。(因みに山崎は地味なので山﨑の名前のままで良いと言われてしまっていた)
声をかけてきた彼女は、ここで住み込みで働いている女中の1人で、数人居る料理長の1人と昨年結婚しているらしい。性格は明るくて、裏表がない感じが山﨑も割と好印象を持っていた。
「どうかしましたか皐月さん」
「あのね、紹介したい人が居るの。私の遠い親戚の人で、今日からしばらくここで働かせてもらう事になったのよ。後で正式にみんなの前で紹介しようとは思うんだけど…」
「そうですか」
人手が足りないこの旅籠にとって、バイトであれ何であれ手伝ってもらって助かるのに変わりはない。変わりは無いが、その人物達を見た時一瞬目眩がした。
「あれ、ジミーじゃん。何してんの」
「前の仕事辞めちゃったんですか?」
「まあ人生色々あるネ。これ食って忘れるヨロシ」
「神楽ちゃん、それはお客様の朝ごはんだから手で掴んじゃいけないわ。って事でよろしくね山崎君!坂田ファミリーでーっす!!さ、仕事に戻りましょうか!」
何故この旅籠の着物を着た彼等がここに居るのか、何故銀時だけが料理人の格好で居るのか、そもそも遠い親戚って何だよ絶対嘘だろ、という様々な突っ込みが瞬時に頭の中で暴れ回ったが口に出す事は出来なかった。
取り敢えず、心の中だけで沖田に懺悔はしておいた。
沖田隊長やっぱり俺には数学的確率を壊す事は無理でしたァァアアア!!!!
