天邪鬼が笑う
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緋村の部屋を破壊した沖田が再び彼女の前に現れたのはその日の夕方だった。
今日も今日とて仕事を全力でさぼっていた上司に精一杯の怒りの目を向けてみたが、沖田は慣れた様にそれを無視し、何故かご機嫌な空気を出しながら彼女の手首を掴み廊下を歩き出した。
一体何処へ行くのか聞いてみるが、沖田は「ついて来なせェ」と言うばかりで教えてはくれない。恐らくこの道のりならば近藤の部屋に着く筈だが、連れていかれる意味は分からなかった。
「ちょっと沖田隊長!」
「糸」
言葉を遮られる様にして名を呼ばれ、思わず続きが言えなかった。少し意味のこもった呼び方に眉を顰める。
「何ですか改まって…」
前を向いたまま振り返らないので、沖田の表情がどうなっているのか分からない。
「近藤さんから直々に潜入の話は聞きやしたねィ?」
「は、はい…。でもそれが何か?」
きっとこの前の高天原の時みたいに、周りに気付かれない様に潜入して、指示があれば松平の護衛につくのだろうと認識していた。真撰組の隊服は着れないから、滅多に着ないスーツに袖を通さなければ、と。最近クリーニング出してないけどカビ生えてたらどうしよう…、と。
「それに関して、糸は糸しか出来ない事をしてもらうんでさァ」
「私にしか出来ない事…」
何故だろうか。ここは素直に必要とされている事を喜ぶべきなのに、全く喜んでいない自分自身が居るのに彼女は驚いた。
若干だが、沖田の声が笑っている様に聞こえたのだ。微笑んでいるとかそんな可愛い類ではない、彼がたまにする、人を心底笑い飛ばす時にする嫌な笑い声。
一気に嫌な予感を察知した彼女は沖田の手を振り払った。
「なんですか沖田隊長!はっきり言って下さい!怖いです!」
「大丈夫でさァ」
やっと振り向いてくれた沖田は、一般人から見たら頬を染めてしまう程の王子様スマイル。だが長年付き合っている彼女はすぐに分かった。これは王子様スマイルの中でも、サディスティック星出身の王子様スマイルである事を。だが気づいた時には遅かった。
女性をエスコートする時みたいに彼女と腕を組んだ瞬間、早足で近藤の部屋へ向かう。最早エスコートのエの字もなく、只の強制連行だった。
「ギャー!!離して下さい!!」
「折角おもしれーもんが見れるのに離す訳無ェだろィ?」
目が細められ、そして嫌な光を放つ瞬間を彼女は確かに見た。口の右端がニヤリと持ち上げられる。もう逃げられないと悟ったと同時に、自然と引き攣り笑いが出た。
もしかしたら山崎は、沖田が今企んでる事を阻止するべく部屋に来てくれたのではないかとようやく分かった。分かったが、やはり遅い。
「近藤さーん、糸を連れてきやしたぜィ」
「おー、入ってくれー!」
中から声が聞こえて沖田が障子を開ければ、いつもは机が置かれてる畳の上に、和から洋までの煌びやかなドレスが所狭しと並べられていた。スパンコールやラメが光輝き、見ているだけで目が痛かった。と言うよりも、この壮絶な光景は一体何事かと突っ込んだ。
「糸はこの中の服ならどれが良い?」
「え?この中からですか?」
笑顔全開の近藤と、邪悪な笑顔全開の沖田に両脇を固められ、逃げ場が全く無くなった彼女。何とか状況を理解しようとするが、何からどう処理すれば良いか分からなかった。
だが部屋の端に居る土方を見つけ、これ幸いと2人を振り払って土方の背へ隠れた。
「い、一体どういう事ですか局長!!」
「いやぁ、今度の潜入捜査と絡んでる事なんだが、折角だから糸に綺麗な格好して出てもらいたいなぁと思ってだな……」
「はぁあ!!?」
女子とは思えないオッサンめいた驚愕の声を出しながら、認めたくない現実を胸に土方へ助けの視線を乞うた。しかし土方は腕を組んで首を力なく左右に振っただけ。まるで「諦めろ」と言うかの様に。
この前はホストの格好だっただろう、と近藤は言うが、そんな事は彼女にとって別にどうでも良かった。男装をしているという自覚は無かったし、素があれだったので苦労した事など何一つ無い。
それが逆に女の格好をして振舞う事の方がよっぽど窮屈に思えて仕方なかった。しかもプライベートならまだしも、仕事の一環でそれをして、滞りなく任務をこなせる自信が無い。
「無理です!!!」
元気いっぱいに拒否したが、沖田が笑顔で近寄ってきて、土方の背からひょっこり顔を出している彼女と目線を合わせる様に腰を屈める。
「とっつァんからの命令でさァ」
「あんのクソ親父ちきしょぉおおおおお!!!!!」
これもまた女子とは思えない言葉が飛び出したが、心の叫びなので致し方ない。
膝をついて「絶対私には無理です…」と呟く彼女の背を、しゃがみ込んだ土方が慰めるかの様に優しく叩いてくれた。
唯一、反対を唱えてくれた土方は彼女の性格をよく分かっている。非番の時は袴やそれなりに女の格好をしているが、強要されるとまた意味は違ってくる。より女性らしく振舞えと彼女に要求するのは可哀想で仕方がなかった。
それでも決まった事はもう覆せない。この状況を全力で楽しんでいる沖田は、物凄い量のドレスを見て満足そうに頷いていた。
「いやぁ、楽しい任務になりそうでさァ」
「全然楽しくなァアアアアい!!!!」
そんな叫びは玄関口に居た山崎の所まで届いていたらしい。
