天邪鬼が笑う
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その翌々日、昨日も仕事に明け暮れて、早番では無い彼女はグッスリと眠っていた。朝稽古も無いとあってか、目覚ましの設定時間はいつもより少し遅い。朝霧が薄ら漂う中、枕に顔を埋めて規則正しい寝息を立てている姿はいつもより幼く見えてしまう。日頃の疲れを癒せる睡眠とあって中々起きる気配を見せようとはしない。幸せな夢でも見ているのか、ほのかに口角を上げて寝返りを打つ。
そんな幸せ絶頂な彼女の部屋に向かって響く一人の足音。決して五月蠅くはなく、まるで気づかれないようにわざと気配を消しているかのような技。やがてそれは部屋の前で止まるが、彼女はそれに気付いていないのか、障子に背を向け布団に潜ったままピクリとも動かないでいた。
影がスッと彼女の障子に手をかけ、ほんの数センチの隙間を開ける。その瞬間、石のように動かなくなっていた緋村が布団を蹴飛ばし寝巻が肩から軽くはだけようとも気にも留めず枕元の刀を取り、素早く抜刀をするや否や障子の向こうに居る相手へとそれを突き刺した。ズボッという音が響き、障子が破け、その切っ先は相手の頬をかすめた。
「ぎゃぁぁあああああ!!!!!」
「ん?この声……」
対不審者モードに入っていた彼女の目が、いつもの色に戻る。そうさせたのは、聞きなれた人間の叫び声であった。すぐに刀を障子から抜き、穴が空いてしまった事は全く気にせずにそれを開けた。
「あぁ、山崎君。どうかしましたか?」
「ちょ、今完全に俺の事刺すつもりだったよね!?」
「………そんな事はない…デス……」
「目を見て言え目を!!!」
危うく仲間に殺されかけた山崎こそ、彼女の部屋に忍び寄っていた影の正体であった。その気配の消しっぷりは流石監察と褒めるべきか本人の存在の薄さが関係しているのか定かではないが、それでも仲間である彼女にはバレてしまった。気配を読み取ったというよりも、微かながらにも聞こえた足音に反応してしまっただけなのだろう。
「一体こんな朝から何ですか」
と、言いながら刃をしまう彼女。
「敵かと思ってもう少しで斬っちゃう所でしたよ……」
「怖っ!!!」
「気配を消して歩いてくる方が悪いんです!」
「まぁそれはそうかもしれないけど…」
「で、何か用があって来たんじゃないですか?」
肩からずれた寝巻を直しながら布団の上に正座をして、部屋の中へ山崎を促す。ぴょこぴょこと跳ねている寝癖だらけの髪がなんとも可愛らしいが、先ほど殺されかけた山崎としてはまだ心臓が悲鳴を上げていた。
「ゴホンッ!……こんな朝早くから糸ちゃんの部屋に来た理由はだね…」
「む、何ですか。急に改まっちゃって…」
声を潜め出した山崎につられ彼女の声も思わず小さくなる。
「今度の潜入捜査の件、聞いた?」
「潜入捜査…?…あぁ、天人のパーティーの」
「やっぱり声かかったんだ…」
「?そんなに難しい任務なんですか?やっぱり私より山崎君の方が向いてますかね?」
「いや、そういう意味じゃないんだよ…」
顔に影を落とし溜息をつく山崎の顔は、この前の土方のものとよく似ていて、彼女を憐れんでいるというか何というか……。全く意味が分からない彼女は首を傾げるばかり。
だが山崎の話し方で何も伝わってこないのは事実だ。山崎君、と彼女が続きを促せば、彼は周りの周囲を探るかのようにキョロキョロしてから小さく手招きをする。それにつられるように耳を近付ける彼女。
「あの任務のね、裏の目的は……」
「裏?」
一体何が「裏」だというのか。初めて聞かされる事実に緊張しながらも耳を貸したのだが、その瞬間に爽やかな朝には似つかぬ爆音が響き、若干一名がその爆風の餌食となり飛んでいく。
「…………は?」
口を引き攣らせながら、やけに見通しのよくなった目前を見る彼女。確か数秒前まで山崎という男が座っていて、その「裏」が何たるかを教えてもらう筈だったのに、何故、どうして、爆風に巻き込まれ飛んでいったのか。と言うよりも、顔色変えない王子様フェイスである上司が、何故、どうして、バズーカを抱え大破してしまった障子の向こうの庭に立っているのか。まだ微かに吹いている爆風に寝癖だらけの髪をたなびかせ、状況についていけないまま座り込んでいた彼女だったが、その上司が2発目の弾をバズーカに押し込めようとした瞬間にようやく我に返った。
「ちょっとストップストーップ!!」
「何がでィ」
「いや、たいちょ、あなた朝から何してんですか!山崎君どこに飛んでちゃったんですか!?」
「山崎ならほれ、あそこ」
王子様もとい寝間着姿の沖田が顎で指す方を見てみれば、爆風で荒れてしまった部屋の隅に飛んでいた山崎の姿をようやく発見する。跳ねっ毛のあった髪は爆発に巻き込まれ完璧なアフロになっており、完全に白目を向いて息絶えていた。
「っわー!山崎君大丈夫ですか!?……あれ?息してる?息してます!?」
「んな大袈裟なー」
庭から彼女の部屋にあがりこんできた沖田は、まず縁側に山崎の息の根をとめたバズーカを置く。そして「息してますかー!?」と懸命に声をかけている彼女の隣にしゃがんだと思えば、「ご臨終です」と言って合掌した。
「縁起でもない事言わないで下さいよ!ほら、ちゃんと息してます!」
「チッ…しぶとい野郎でィ」
「副長だけじゃ飽き足らず山崎君まで殺す気ですか貴方は……」
アフロ山崎が無事に息をしているのに安心した彼女は、朝からテロまがいな事をしでかしてくれる沖田を呆れた目で見た。だが本人は飄々としている。
「なんの恨みがあって」
「今度の任務について余計な事を言おうとしたこいつが悪い」
「余計な事…?…山崎君が言ってた“裏”の話ですか?」
「…まぁ糸が考えてるような裏じゃねーよ」
「はい?」
「どうせパーティーの中に混じって誰かから情報盗んでこいだぁ、あいつの首をとってこいだぁ、仕事の事考えてたんだろィ?」
「………違うんですか?」
「間違ってはいやせんが、それが全てじゃ無いんでさァ」
心底不思議そうな目をしていたという事は、少なからず沖田の言う通りだったのだろう。彼女の性格からして、全てを仕事の方へ持っていくというのは良い事であり悪い事だ。即答で否定した沖田は、よっこらせと言いながら立ち上がる。
「んじゃ、俺今から二度寝するから朝飯食いに行く時についでに起こしてくれ」
「え?あ、はい……」
まるで何事も無かったかのように立ち去った沖田が残したのは、既に弾の使われたバズーカと、アフロ山崎一体、そしてぐっちゃぐちゃになった彼女の部屋、プライスレス。
「片づけて下さいよ馬鹿隊長ォォォオオ!!!」
