天邪鬼が笑う
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獅子威しの音が静かに響き渡る日本庭園。誰もが驚きそうなその立派な庭園の一室、黒ずくめの男が3人、仏頂面で口を噤んだまま数分が経っていた。もう何回目かの獅子威しが鳴った時、ようやく口を開いたのは鋭い目をした整った顔の男だった。
「……それ必要か?」
疑問符のついたその問いかけに答えたのは、大きなサングラスがよく似あう威厳のある男。
「必要に決まってるだろーが」
やけにゆっくりとした声には確たる自信が含まれていて、問いかけた方は「もう何も言うまい」とでも言いたげな顔をして溜息をついた。
「とっつァん、その案には俺も賛成だよ」
「おー、分かってくれるかゴリラ」
「名前で呼んでくんない!?」
代名詞がゴリラ、またの名を近藤という男は真撰組局長。と言う事は横の切れ目の男は副長の土方であり、机を挟んで向かい合うように座っているのは取り締まりの松平であった。松平が“ゴリラ”発言をするや否や場の張りつめていた緊張感は一気に解け、心なしか獅子威しの音も間抜けに空間に響いた。まずは足を崩し胸のスカーフを緩めたのは土方だった。
「俺にはやるだけ無駄だと思うぜ?」
「何言ってんだトシ!あの子はやれば出来る子だぞトシ!」
「いや、教養とかはそりゃ常識程度には持ってると思うが…」
「ちょっと大人のマナーを身につけさせるだけだろトシ。許してくれトシ」
「そうだぞトシ!覚えても別に損するような事じゃないと思うぞトシ!許してくれよし!」
「トシトシうるせぇ!しかも一つ京都弁まじってたぞオイ!」
土方の話を一方的に聞かない二人は勝手に盛り上がりはじめ、そんな様子に彼はまた溜息を一つ。そして盛り上がりの種にされている人物へ心中合掌したのであった。
後日、局長・副長というツートップが待つ部屋に呼び出された一人の隊士。足音の無い歩き方、「失礼します」と凛とした声、礼儀のなった障子の開け方。特に非のない動作でやってきたのは、唯一の女隊士の緋村であった。急な呼び出しに驚いているが、最近ヘマをやらかした覚えは無いので、割と緊張はしていかなかった。こういう所は他の隊士より変に肝が据わっている。
二人の前で正座をして、どういったご用件でしょうか、と素早く話を切り出した。おそらく彼女の直属の上司がまた仕事をさぼり、その処理に追われて忙しいのだろう。
「ちょっと糸に頼みごとがあってな」
「局長が…私にですか?…私で出来る事なら何でもしますよ」
絶対の信頼を寄せている近藤に向けての良い返事に、彼はホッとしたように顔を緩ませ話を続けた。
「糸には、今度天人が開くパーティーに客人として潜入してもらいたいんだ」
「潜入……?」
「まあ名目はとっつァんの警備って事になってるが、どうにも攘夷志士も紛れ込むっていう話を聞いてな」
「はぁ…あの、お言葉ですが、そういった潜入なら山崎君の方が向いていると思うんですけども……」
ご尤もな意見に、この案にあまり賛成していない土方はウンウンと頷いた。
「山崎と総悟だけで良いじゃねーか」
「そうはいかんぞトシ。ここは一つ糸に一肌脱いでもらわんとな!」
「ぬぐ?」
「……ま、がんばれよ緋村」
「へ?」
話の読めないまま、それでもそのパーティーの日時だけ教えられ場を後にする。詳しい事は後々話す、と言っていた土方の顔には気のせいでなければ若干の憐れみが混じっていた。
天人のパーティーに客人として潜入する事は分かった。が、幾分内容が分からないだけにあまりにも現実味が無さすぎる話であった。そんな潜入の話より今は、さぼり魔こと沖田総悟を探し出し、溜まりに溜まっている仕事を処理していってもらう事の方がよっぽど大事なように思えたのだ。この話は頭の片隅に置いておきながらも、意識は完全に上司へと向けられていた。
「沖田隊長―!どこに居らっしゃるんですかー!!」
口の横に右手を立て叫ぶ彼女の声が、どんどん遠ざかっていく。それを感じながら、土方は短くなった煙草を灰皿へ押し付け重い口を開いた。
「………山崎と総悟だけで良…」
「いや!ここは糸にやってもらう!」
「はぁ……」
かたくなに彼女を押す近藤。そもそもそれを発案した松平。そんなオッサン二人の胸中には、わが娘を想うかのような暑苦しい親心というものが原因であった。その親心が何を企んでいるのかを知るのはまだ先の話。
とにかく彼女がオッサン二人の思惑に巻き込まれているのが目に見えている土方にとって、推薦を止めてやったのは上司としての務めであった。だがオッサンはそれでも止まらなかった。
「……かわいそうな緋村……」
「ん?なにか言ったか?トシ」
沖田たいちょー!屯所の何処かで、彼女がまだ声を上げていた。
