賑やか道中
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…。
……。
………。
………………そっちかァァァアアアアアア!!!!!
修羅場を大いに期待していたギャラリーの期待が完膚無きまでに粉砕された。喜劇よろしく皆が転び、「修羅場じゃねぇのかよぉおお」「この子天然かよぉおお」と叫んでいた。
周りが急に嘆き始めたのに彼女はその原因がまさか自分だとは思わず、きょとんとした顔で辺りを見渡していた。
そして落とされたマヨネーズの箱にようやく気づく。
「あは、やっぱり重かったですか。足に落ちてますけど、怪我はしていませんか?」
屈託ない笑みで微笑まれ、思わず大きなため息をついてしまった。また彼女の頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。
修羅場という空気は一気に何処かへ飛んでいったが、忘れてはならないのがさっちゃんの存在である。
天然が発した「今日は付き合ってもらってます」発言まで聞いていなかった。その前の「私と付き合ってます」発言で完全にM心に刺激を与えていた。
「良い度胸だわ緋村!それだけで私が銀さんを諦めると思って!?」
「いや、だから、今日は諦めて下さいってば」
「そうやって私が焦る様子を見て楽しむなんて百年早いわ!!」
「聞いてる?」
「次会う時は私をもっと焦らせてみなさい!!そして笑うが良いわ!!!いえ寧ろ私を本気であざ笑いなさい!!」
「それは誰が得するの?」
投げ捨てる事なく逐一正しく言葉を返す緋村に、さっちゃんは腰に手をあてて人差し指で彼女の眉間を指さした。
「貴女には負けないから。首を洗って待っていなさい緋村糸」
言うや否や本職の力をいかんなく発揮し、音もなくさっちゃんは姿を消した。
さっちゃんが悪い人間でないというのはよく知っている。知っているので、消えた後はのんきに「あー面白かった」等と彼女は笑っている。女の戦いとしての意味で首を狙われている人間とは思えないその堂々ぶり、そしてこれだけのギャラリーの期待を一気に裏切れるだけの大胆さ、かと言って笑みを絶やさない空気にやられ、銀時は髪をガシガシと掻いた後、落とした箱を左肩に担いだ。
そして彼女の所まで歩み寄り、空いている左手を握りいつもより早いペースで歩き出した。まだ嘆いている人たちの間をすいすいと縫っていく様に抜けて、橋を渡り終えた後も手は離す事なく歩き続ける。
このまま買い物を続けるのも良いかもしれないとも思ったし、何処かで甘いものを食べるのも良いかもしれないとも思った。
「あのっ、坂田さん!散らばった便せんを置きっぱなしにしちゃったんですけど…」
引っぱられながら、しかし大きな抵抗を見せず銀時に話しかける。
「どうせゴリラの金だろ?ほっとけほっとけ」
「え~?私が怒られちゃうかもしれないじゃないですか~」
「そん時は俺も一緒に怒られてやるよ」
「さっちゃんに襲われましたって素直に言いましょうか」
「って言うかお前アイツと知り合いだったんだな」
「それはこっちの台詞ですよ」
天然と無意識に相手を振り回す癖を、何とかして止めさせなければいつか自分の心臓が止まってしまうんじゃないかと、銀時は思った。
今回は皮肉にも忌々しきマヨネーズの痛みのお陰で意識を保てたが、この先幾度となくこんな事があればたまったもんじゃない。期待させられて裏切られたという点では、銀時も橋に居たギャラリーと一緒に嘆きたかった程だ。
「面白かったですね、坂田さん」
「よく言うぜ」
彼女の手を離してみれば、隣に並んできた。話はよく分かりませんでしたが楽しかった、と笑う彼女の横で、銀時はやれやれといった感じで空を見上げた。
昨夜、彼女のある意味の恐ろしさは聞いた筈だったのに、どうやらまだ分かっていなかったらしい。この小さな体から飛び出る言動・行動に、これからも飲み込まれ続けた先に何かあると信じて、なんとなく彼女の頭をペシンと叩いてみる。
「いったぁあーい。何ですか急に!」
担いでいるマヨネーズがズシリと重い。改めて土方が「恐れ入ったか」と言っている様だ。
「なんとなく」
「なんとなくで叩くなんて酷いです!」
初めに比べれば随分と話す機会は増えたし、豊かな表情や感情を見せてくれる様にもなった。真選組に比べれば絆も信頼も無いとは思うが、今はそれで充分か、とやけに落ち着いていた。
こういう人間に惚れたのだから仕方ない。
これ以上ない納得のいく説明を自分で自分にしてみて、何故だか笑えた。
「あ、思い出し笑いは変態の証だって沖田隊長が言ってましたよ」
「あーハイハイそうですか」
緩やかに滑り落ちていく午後の町を、2人は肩を並べて歩いていく。