賑やか道中
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普通に考えて女1人で持てる様な量ではないが、彼女ならば成し遂げそうで恐ろしい。だからこそ、土方達も躊躇いなく頼んだりするのだろう。ちなみに大量の便せんは近藤がお妙に愛をしたためる為に使用するそうだ。
「これで用事は全部終わりました!ありがとうございます!」
「どうも」
彼女は終始付き合わせた事を申し訳なさそうにしているが、万事屋にまいこんで来る依頼に比べれば随分軽い。おやすい御用、等と言う柄ではないが、これぐらいの頼み事なら時間が空いていたら何時だって手伝ってやれた。それを遠回しに伝えれば、彼女はふっくらと笑った。
足はやがて自然と屯所に向かって歩いていた。
2人はとりとめのない事を話し、やがて彼女の”兄”の話まで行き着いた。彼女の口から、詳しく兄の話を聞くのは初めてだ。
「お兄ちゃんは刀がとても大好きで、実家で暮らしてる時は私を連れてよく出稽古に行っていました。あ、私の家、剣術道場だったんですよ。両親が亡くなってからは門下生も居なくなりましたけどね」
道場にとって門下生が居なくなる事は最悪の事態である。しかし話す彼女の横顔に悲しみの影はない。
「でも、お兄ちゃんが居てくれたから、私は門下生が居なくたってどうでも良かったです」
まだ幼かった彼女と自分の面倒を見るのは、それは大変な事だっただろう。その兄の苦しみが今になって分かりだした彼女は、皮肉な事に分かれば分かる程「会いたい」という気持ちが強くなった。寂しいと思えば会いたくなるし、ありがとうと思っても会いたくなるし、どうしようもない袋小路から抜け出すにはまだ少し時間がかかるらしい。
「優しい兄貴だったんだな」
「フフ、そう思うでしょう?でも怒ると怖かったですよ。兄妹喧嘩だって沢山しました。一本背負いをされた事もあるし、四の地固めをされた事もありますし」
彼女の内なるバイオレンス性はどうやら兄との喧嘩経験が土台らしい。
「懐かしいなぁ………」
記憶の中に埋もれている兄を思い返せば、不思議とお腹の底がぼんやりと暖かくなる心地がする。彼女はそれに触れる様に、抱いている刀を強く胸に押し当てた。
入隊した頃から付き合いのある沖田の刀が、歩く度にカチャリと鳴る。
「寂しくて苦しい時はありますけど、今は真撰組が居て下さるので何とか自分を保ててます」
「……………」
「でもまた泣いたりして、お恥ずかしい場面を見せちゃう事になるかもしれませんねぇ」
頬を少し赤くさせ、苦笑いをこぼした。
そんな彼女の頭を何となく撫でてやりたかったが、銀時の両手は生憎マヨネーズでいっぱいいっぱいだ。まるで土方が「それは許さん」と阻止している様に思えた。
おのれマヨネーズ野郎!心の中でそう罵った。
「…まあ、お前みたいな奴はたまに泣くぐらいが丁度良いんじゃねぇの」
「そうですか?」
「そっちの方が可愛げがあるだろ?」
「そんなもんですか?」
「そんなもんデスネ」
軽く言ってみたがやはり彼女は真に受け止めない。頭の中で一体どれだけの濾過装置があって、言葉の真意を薄くしているのかが是非知りたいところだ。
それでも彼女は楽しそうに笑うので、まあ良いかと銀時も思えるようになった。レベルが少しずつ上がっていた。
「またお墓参りに行きたいんですけど、沖田隊長が屯所にある線香を全部使っちゃったんですよ。酷くないですか?」
「何に使ったんだよ…」
「黒魔術にです」
「うん、何となく分かってたけどね、確認の為聞いてみただけだからね」
どうか彼女が将来的にあのサディスティック星出身の男から悪い影響を受けませんように…!そう願う事しか出来なかったが、彼女は着々と沖田ジュニアとしての頭角をあらわしている。キレた時の暴れっぷりは沖田と並び、屯所では一、二を争うまでに追い詰めてるとは流石の銀時も知らない。
兄の話から甘味の話になった時、歌舞伎町に流れている川にかかっている大橋にさしかかった。人と人とが行き交う中、「あら奇遇ね緋村さん」と橋の欄干から声をかけられる。
それは銀時も彼女も知っている声だった。
「あ、さっちゃんさん。こんにちは」
「さっちゃんで良いっつってんだろコノヤロー」
屯所ではドジっ子さっちゃんというあだ名で通っている忍が、周りの注目などものともせず、欄干に立って抜群のスタイルで2人を見下ろしていた。組んだ腕に豊かな胸がのり、尚一層迫力が増していた。
残念ながら、さっちゃんに関して良い思い出は2人にとって無い。悪い人間でないという事は分かっているが、少しひん曲がったM心は時にさっちゃんを狂わせるのだ。
さっちゃんはメガネをくいと上げて、キョトンとした顔つきで己を見上げている緋村を指さした。会うのはあの護衛以来だ。
「緋村さん。私は貴女の実力は入隊当初から認めていたつもりよ」
「そりゃどうもです」
あれだけ曲者揃いの屯所に放り込まれれば、嫌でも実力はすぐに付いてくるものだろう。一体何が始まるのか分からず、銀時は顔を歪めたまま己のストーカーに呆れた視線を送っていた。
「良い仕事仲間として信頼だってしていたわ……でも、こればかりは許せない!」
「はぁ?」
「まー待て待てお二人さん」
悲しきかな、さっちゃんの扱いには非常に慣れている銀時が仲裁するかの如く、2人の間に割って入った。
「銀さん!!良いの私分かってるから!これも見せつけプレイなんでしょう!?そうやっていつも私を焦らして楽しんでるんでしょう!?良いわ、もっと楽しみなさいよ!!!」
「何処をどう見てそんな解釈が出来るか銀さんに教えてくんない!?」
楽しそうに体をくねらせながらさっちゃんは頬を染めている。銀時さえ居れば彼女の世界は薔薇色だが、ライバルという存在は如何せん見過ごす事が出来なかった。それが緋村という未知数の力を持つ女なら尚更だ。
「緋村さん……いえ、緋村、今日から私と貴女は残念ながら敵同士よ」
「え~?さっちゃんを敵に回したら疲れ…」
言い終えようとする前に、素早くクナイを投げつけられた。思わず便せんの入った袋で受け止めたが、破れたその部分から全部地面に落ちてしまった。
「あーー!!ちょっとさっちゃん!いきなり何を!」
「貴女は手強そうだから今ここで始末すべし!!」
「話が全然分からないんだけど!!」
とは言うものの次の攻撃に備え、体勢を低くする。
銀時は話は分かる。自分と緋村が並んで歩いているのを見て勝手にデートだと勘違いし、楽しく愉快に自分なりの解釈を楽しみM心を虐めつけた後、邪魔者は排除という結果に至ったのだろう。
大勢の人間が見ている中、2人の女のにらみ合いに挟まれる銀時の心中は如何なものか。
彼女は意味が分からないなりに、戦闘態勢に入ろうとしているさっちゃんを警戒していた。周りには落ちた便せんが散らばっている。
2人で銀時を取り合っている様な、しかしそんな甘い空気は一切無い。
何より1人の女は自分が恋の好敵手として見られている事に気づいていないし、もう1人の女は物騒にもクナイを取りだし凡人にはあまり理解出来ない解釈に打ちのめされ衝動のまま動いている。
持っているマヨネーズが段々と重く感じられてきた。手も若干しびれてきている。心の底から帰りたいと叫びたかった。
そんな銀時をさしおき、さっちゃんと緋村は訳もなくボルテージが上がっていく。
周りの野次馬は完全に男の取り合いだと思っていた。
「よぉ銀さん、修羅場ってやつかぃ?」
たまたま近くに居た知り合いに声をかけられ、銀時は遠い目で「そうだといーねー」と適当に返しておいた。ああ、マヨネーズが重い。
「って言うかさっちゃん仕事は!?任務は!?」
「現在進行形で進んでるわ。貴女にとどめを刺して一段落よ!」
「何で私が始末されなきゃいけないのよ!」
「分かってる、恋に障害はつきもの……!」
「もしもーし?さっちゃん聞いてる?っていうか、恋……?」
状況が理解できない彼女が銀時に視線をちらりと寄越す。何となく察する事が出来る様な出来ない様な……。銀時は取り敢えず死んだ目つきでさっちゃんを傍観していた。
「緋村」
名前を呼ばれ再び視線を上げる。女性なら誰もが羨ましがるナイスバディぶりを存分にアピールしながら、いつもMのさっちゃんは妙にチクチクとした態度を取っていた。
彼女を本気で恋のライバルとして認識した様だ。今持っているマヨネーズで何も見えていないそのメガネを塗りたぐってやろうか、と銀時は考えていた。
「銀さんと付き合ってるのは私よ」
「勝手な事言ってんじゃねぇぞゴルァ!!!誰がいつお前と付き合ったぁ!!!」
緋村が居る手前、あまり発言はしない方が良いだろうと思って黙っていたが、さすがに突っ込まざるを得なかった。
恋愛暴走列車のさっちゃんはこんな冷たい言葉でさえ、糧として、燃料に変えて1人でキャーキャーと勝手に盛り上がっていた。
それを見ていた緋村が不意にファイティングポーズを解いて、ギャラリーが大勢居る中、なんの躊躇いなくいつもの表情で言った。
「坂田さんと付き合ってるのは私ですけど」
瞬間、マヨネーズの箱が容赦なく無防備な銀時の足へ落ちた。いや、手を離したのは紛れもなく銀時自身だ。
「ねえ、坂田さん」
同意を求められるが、頭は混乱してるは足には激痛が走っているはでそれ所では無かった。
野次馬の囃し立てている声が橋を包み、緋村とさっちゃんのにらみ合いは尚も続いている。別嬪さんに取り合いされて幸せ者だね銀さん、と知り合いが小突いてきた。
だがしかし、意味の分からない取り合いはあっけなく終わった。
「今日は一日私の買い物に付き合ってくれるって言って下さったんです!」
